明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(317)東電が臨界判定基準を見直し・・・実はこれまでに部分的臨界があったのでは?

2011年11月07日 23時30分00秒 | 明日に向けて(301)~(400)
守田です。(20111107 23:30)

東電による「臨界騒ぎ」の続報です。東電は6日、福島第一原発の臨界判定
基準を見直す方針を発表したそうです。これまでは「キセノンなど半減期の
短い希ガスが検出されない」ことを臨界判定基準としていたからだそうです。
ただしこの判定基準自身も、10月17日に保安院に提出されたもので、それ
以前には判断基準すらがなかったこともうかがわせます。

というのはこの判定基準は「格納容器ガス管理システム」の設置を目処とし
て提出されたものであり、これで希ガスのサンプリング精度が高められるこ
とを前提に設定したものと思われるからです。ということはそれまで核分裂
の兆候を示す希ガスの測定すらが、きちんと行われていなかったことを意味
します。そこからさらに重大な点が導き出せます。

まずこの騒ぎの発端になった、東京電力の発表に注目してみましょう。11月
2日に以下のような記者発表が行われています。

ガス管理システムの気体のサンプリング結果について
東京電力 20113年11月2日 
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_111102_01-j.pdf

ここで注目すべきことは、参考として8月10日のデータがあげられており、実
はそこでもキセノン131mが検出されていることです。希ガスでいえばクリプト
ンも同時に計測されています。このときは自発核分裂だとは思わなかったの
でしょうか?またこの前例がありながら、どうして今回、当初は臨界だと思い、
後に、自発核分裂という訂正がなされたのでしょうか。

それで8月10日の報告の方をもう少し詳しくみてみましょう。8月10日に以下
のような記者発表がなされています。

福島第一2号機原子炉格納容器内の気体のサンプリング結果
東京電力 2011年8月10日
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_110810_04-j.pdf

これを見ると、このときは、「原子炉格納容器仮設ガスサンプリング装置」と
いうものが使用されていることが分かります。(写真がついています)また数
値を見ると、11月2日の発表の「主役」であった、キセノン133,135は検出対象
になっておらず、ただキセノン131mだけが検知されていたことが分かります。

しかも重要なのは、キセノン131mの値が、きわめて高いことです。3回目の計測
で、4.0×10の1乗(1立方㎝あたりのベクレル数)という値が出ています。こ
れに対して11月2日の計測では、キセノン131mは、6.9×10のマイナス4乗とな
っている。両者の間には、約6万倍の開きがあります。8月10日の計測でキセノン
131mは、11月2日の6万倍も出ていたことになる。

ここで今回の東電の発表を精読してみると、重大な数値が現れてくる。というの
は「臨界が起きていたと仮定した場合、キセノンは今回検出された濃度の約1万
倍に達するという結果になった」という数値です。となると、確かに今回は自発
核分裂がキセノンを生み出したのだろうと言えますが、8月10日時点では、約6万
倍も発生していたのだから、臨界が起こっていたいう推論が成り立つのです。

しかしこのときは、キセノン133と135が記録されていない。計られてなかった、
ないし計る装置が設定されてなかったのだと思います。だからこそ「格納容器ガ
ス管理システム」の設置が急がれたのだと思われますが、このとき東電は臨界が
起こった高い可能性を感じながら、キセノン133、135を計れていなかったために
結論づけられなかったのではないか。

ではなぜキセノン133と135が重要なのでしょうか。核分裂収率、つまり核分裂生
成物がどの核種になるのかの確率が、キセノン131mよりもはるかに大きいからで
す。反対に言えば、キセノン131mはきわめて小さい。だからこれだけでは判断が
できなかったのではないか。この点の参考になるのは、「CTBT検証制度における
放射性希ガスの探知と意義」という論文です。
http://www.cpdnp.jp/pdf/002-07-002.pdf

CTBTとは包括的核実験禁止条約のことで、実はキセノンやアルゴン等の放射性
希ガスは、ある爆発が、核爆発か否かを「断定する最終手段」とされているので
す。これを応用したのが、原子炉における臨界の有無を、希ガスによって判断す
ることに他なりません。そしてそれだけに、核分裂が起こったときに、ある放射
性物質がどれだけ出てくるのかは、重要な指標となってくる。

ではキセノン131m、133、135はそれぞれどのような「収率」を持っているので
しょうか。この論文には0.045、6.72、6.60と書いてある。つまり約150倍ぐらい
の違いがあるとされているのです。しかし11月2日の値ではそれほど多くはなく、
約50倍となっている。その値をとったとすると、8月2日には1立方㎝あたり、
キセノン131mが4.0×10の1乗=40ベクレル出ていたから、その50倍、つまりそれ
ぞれに1立方㎝あたり、2000ベクレルのキセノン133と135が出ていたと推論できる
のです。これは11月2日のキセノン135の値の、約33000倍の値です。

1万倍で臨界が続いていたことになるわけですから、このときは臨界がしばらく
続いた可能性が考えられる。しかし東電はこのとき、キセノン133と135を計れて
いないことを根拠に、臨界の可能性を発表しなかったのだと思われます。しかし
内心、かなりの恐れを抱き、だからこそ、これら133、135を計れる設備の設置を
急いだのではないか。臨界を確実に察知しうる態勢の創出の必要にかられたのだ
と思われます。そして「格納容器ガス管理システム」の設置をようやく成功させ、
キセノン133と135を計ったら、いきなりそれぞれで検知された。

その段階で、東電は、やはり臨界だ!と思い込んでしまったのではなかったか。
濃度を確かめる余裕がなかったからです。臨界が起こっているのではないかという
不安に襲われ続けてきていたゆえです。ところが、しばらくして数値が非常に小さ
いことに気づき、臨界の可能性が小さくなった。そこでようやくにして自発核分裂
の可能性に気づいた。それで現在にいたる発表に落ち着いたように思えます。

このように8月10日の記者発表と、11月2日のそれを丹念に比べてみると、8月時点で
の臨界の可能性が浮上してきます。もちろんこのときのキセノン131mの値そのものが
誤認だった可能性もあるし、東電もそう考えたのかもしれない。しかし少なくとも
はっきりしているのは、東電には臨界を疑う強い必然があったということです。

この間の一連の報道からさしあたって言えることはこうした点です。さらにウォッチ
を深め、福島第一原発の現状=そこにある私たちの危機の実相を暴いていきたいと
思います。

*******************

臨界判定基準見直し 東電方針 キセノン検出を反映
東京新聞 2011年11月7日 朝刊

東京電力は六日、福島第一原発の臨界判定基準を見直す方針を明らかにした。
経済産業省原子力安全・保安院に先月提出した報告書では、半減期の短い希
ガスが検出されないことを条件としていたが、今月二日に2号機で自発核分
裂により発生したとみられる放射性キセノンを検出。実態と合わなくなり、
修正を余儀なくされた。

二日にキセノンを検出した際、東電は「臨界の可能性がある」と発表したが、
その後、検出量が少なかったことなどから「自発核分裂によるものだった」
と訂正していた。

東電の川俣晋原子力品質・安全部長は、六日の記者会見で「再臨界かどうか
では、大変心配をおかけした。報告書の改訂版を準備している。その中で見解
を示す」と述べた。

十月十七日に保安院に提出していた「中期的安全確保」に関する報告書では、
キセノンなど半減期の短い希ガスが検出されないことが臨界判定基準だった。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2011110702000022.html

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