tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

グアンタナモ、僕達が見た真実

2008-09-06 00:04:19 | cinema

アメリカ軍が世界の憲兵であると言われた時代は終わった。9・11テロ後、アメリカ軍はまるでならず者集団だった。バグダッド市民の頭上にはミサイルが撃ち込まれ、大挙侵入したあげく、一国の指導者を無惨にもとらえて絞首刑にした。イラクがアメリカに預金していた巨額の金は、アメリカ企業によって好き放題に簒奪された。このため、イラクは、しばらくの間、内戦状態にあって収拾がつかなかった。

9・11テロ当時、日本のマスコミを含めてアメリカの報道は、歴史や経済的背景に全く触れることなく、わかりやすい善悪の二項対立の記事で占められていた。今考えると、印象操作そのものだった。敵と闘うアメリカ人兵士の写真は、たいていの場合にアメリカ白人が写っていた。そして記事は、各紙はこぞって9・11テロの「悲しみ」を乗り越え、「愛国心」を持ち「打ち克ち」、「イノセント」なアメリカ国民が「思いやり」「協力」をしあい、世界の「文明的な秩序」の回復を目指そうという内容を書きたてていた。そうした情報操作の裏に、この映画で突きつけられたアメリカ軍のとんでもない影の部分が存在したのだ。
一般市民がこうした軍事行動に巻き込まれる事件は、かつて日本で起こった赤軍派の事件を考えると他人事とは言えない。北朝鮮の状況を考えると、日本でさえもこうした出来事に巻き込まれないとは限らない。考えるとぞっとする。

全くもって無関係なのに、たまたまそこにいたイスラム系の人間だっただけという理由で彼らは拘束されてしまう。途方に暮れる暇すらないほどに、身体的にも精神的にも容赦のない尋問が続く。グアンタナモ米軍基地は、アメリカにとって国交のないキューバ領内にあるため、アメリカの法律も国際法も適用されないという。そこで支配するものは、正義と言う名のもとに、憲兵と犯人という関係がおりなす人間関係だ。スタンフォード大学で実際に行われた「監獄実験」を元にした映画es[エス]で描かれた世界。囚人役と看守役に別れることにより、気のよい人間でさえも、状況の力により人格を支配されてしまうという認知的不協和の心理に支配されてしまう。

思いおこせば、テレビで放映されたイラクの収容所における虐待映像も衝撃的だった。兵士だけでなく一時的に拘留したジャーナリストや民間人にまで虐待が行われていたという。近代国家であるのなら、ジュネーブ条約によって捕虜の人権が保障されているのだが、アメリカ軍によって行われていた捕虜の扱いは非人道的そのものだった。正義だと言わんばかりの、男性捕虜に首輪をつけて引きずっている女性兵士のコメントなどを思い出すと、いまでも吐き気がこみ上げてくる。

近年の衛星放送の普及、インターネットの世界的な普及や、大量輸送を可能とする交通システムの発達によるグローバリゼーションの流れの中で、情報、資金、物とともに人々の移動も広範かつ頻繁になってきている。このような、グローバリゼーションの進展は、当初は人類の相互理解を深めるものと期待されていたように思うのだが、実際にはどうなのだろう。人間活動に伴って引き起こされる種々の問題は、非常に多くの要因が複雑に絡んだ問題の様相を呈していて、グローバリゼーションの進展に伴い、かえって複雑化したような気がしてならない。結局のところ、9・11テロ後、アメリカでのオリエンタリズムの理解は表面的なものしかなく、異質な文化を前に狼狽しているのは19世紀末と全く変わらない状況であることが明らかになったと言わざるを得ない。

それにしても、近年のアメリカの姿勢は目に余るものがある。そもそも、アメリカがこれほどまでにイスラム勢力のみならずロシアなどから目の敵にされるのは、軍事力による抑圧だけでなく、国際社会においてアメリカが散々暗躍してきたからだ。安定したように見えたかつての冷戦すら、再びきな臭い状況を呈している。
世界一のならず者集団、アメリカ合衆国軍。軍律も無く、大義名分も無く、戦闘意欲と自分の権益のためだけに蠢く今の姿は、史上最悪の大統領の史上最悪の私兵部隊と言える。そして、己の力を過信して好き勝手やってきたツケは、極めて大きい。世界でアメリカが経済的にも、武力でも、一人勝ちというのは、戦争の火種を抱えているようなものだ。少なくとも日本人よりは聡明なアメリカの人々には、ブッシュ大統領のような大局を見極めることも出来ない愚かな指導者を選ばないよう期待するほかない。繰り返すが、冷戦の再燃はすぐそこにある。

The Road To Guantanamo Movie (sample)

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