モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

No51:女性プラントハンター、メキシアとサルビア その3。

2011-09-16 20:32:59 | メキシコのサルビアとプラントハンター
メキシコのサルビアとプラントハンターの物語 No51

51歳になってから植物学の公開講座に参加して、メキシコ・南アメリカの植物採取で新種を数多く採取したメキシア(Mexia, Ynes Enriquetta Julietta 1870 -1938)が、プラントハンターとして名前を残したのは20歳年下の友人でメキシアの苦手な部分をサポートしたブラッセリン女史(Nina Floy Perry Bracelin 1890-1973)及びバンクロフト図書館(Bancroft Library)によるところが大きい。

ブラッセリン女史は、インタビューでメキシアの実像について語っている。
それによると、メキシアは好き嫌いがはっきりした人間で、プラントハンティングの旅は大好きだが、その後の植物学として重要な採取した植物が何なのかを同定し、ラベルを貼り、特徴などを記述する地道な作業は大嫌いだとか、嫌いな人間には攻撃的でエキセントリックな面を見せていたようだ。
アラスカ探検の実態が良くわからなかったが、アシスタントとしてカリフォルニア大学バークレー校で植物学を学んだアラメダ高校の教師Frances Payneをアシスタントとして雇い、彼女が採取した植物をメキシアが雇い主としての権利で全て横取りしたなどいやな面もあったようだ。

ブラッセリン女史は、メキシアの採取した植物標本を海外の植物園・博物館などに配布し、メキシアの存在を宣伝する役割だけでなく、メキシアの死後に全ての記録をバンクロフト図書館に寄贈した。
だからメキシアが歴史に残れたのかもわからない。ブラッセリン女史あってのメキシアというのが実像のようだ。

わがままで嫌な老女メキシアという印象が強まったが、探検の合間にサンフランシスコでの学会などでの講演はずば抜けた話術とプロ級の写真の出来映えで聴衆を魅了したという。また、探検隊に出資するスポンサーが求める“New”の発見には答え、彼女が死ぬまでスポンサーがつくことになるのでビジネスでの“花”は持っていた。

メキシアの祖父から引き継いだテキサスの土地からは石油が湧き出て、この土地を売却した資金がメキシアにはあったようで、食べることに困っていなかった。この経済的な自立がヒトに頭を下げる必要がないという唯我独尊的なメキシアをつくったのだろう。

その1に掲載したメキシアの写真を改めてみると、講演という非日常で聴衆を魅了したメキシアという感じがしてくる。

メキシアが採取したメキシコのサルビア

ミズリー植物園に記録されているメキシアが採取したサルビアは、35種になる。そのうち25種がメキシコで採取されている。しかも、メキシアが最初の採取者だったものが多いが、その多くは標本でしか存在していない。

まずは、メキシアが採取したメキシコのサルビアを!

1.Salvia atropaenulata Epling (1939) サルビア・アトロパエヌラタ

 
(出典)ニューヨーク植物園

メキシアは、1938年1月1日にメキシコ、ゲレーロ州Minasでこのサルビア・アトロパエヌラタを最初に採取した。メキシアはこの年の7月に亡くなるので最後のプラントハンティングで採取したものだ。
ところで、ヒントンも同年1月24日にメキシアと近いところでこのサルビアを採取しているので、最初に採取したという栄誉はメキシアに譲っているが、晩年からプラントハンターとなったこの二人はきっとどこかのキャンプ地・採取場所ですれ違っているのだろう。

現在は植物標本からしかこのサルビアの特徴がわからないが、種小名の“atropaenulata”はラテン語で“黒いマント”を意味するので、ハート型の大きな葉がマントのようになりその先の花序にダークブルーの花が咲くのだろうか?

メキシアが採取した場所はメキシコ固有の種が豊富な植物の宝庫とも言われる南西部の太平洋側に接した“シエラマドレ・デルシュー山脈”であり、気候的には亜熱帯に位置するが、高度差100-3500m、年間平均温度が5―40℃、年間降雨量800-1600㎜という多様な環境が、オークの森を育てメキシコ固有の多様な生物をはぐくんでいるという。
オークなどの落葉樹の森は生物にとって恵みの森であり、落葉すると下草・潅木を育てる肥料となり、多様な植物が育つ環境となる。この環境が多様な昆虫・動物を育てることになるのでもっと大事にしたいものだ。

(写真)Sierra Madre del Sur(地図上ではメキシコ最下部に当たる山脈)

(出典)NASA

2.Salvia durantiflora Epling (1939) サルビア・ドランティフローラ

 
(出典)ニューヨーク植物園

メキシアは、シエラマドレ・デルシュー山脈でサルビア・ドランティフローラ(Salvia durantiflora)を1937年12月に最初に採取した。
種小名の“durantiflora”は、“丈夫な花”を意味するので、ひっそり咲いていたのではなくワイワイ~ガヤガヤとにぎわっていたのだろう。確かに植物標本を見てもその行儀の悪い元気な生育が感じられる。

3.Salvia fallax Fernald (1910) サルビア・ファラックス


(出典)igarden.com

種小名“fallax”は“人を惑わす”という意味を持つ。
メキシアは、1927年2月にハリスコ州でサルビア・ファラックス(Salvia fallax)を採取した。
草丈150-200cmで、花序を伸ばし淡いブルーの花を咲かせる。開花期は晩秋から早春でダークグリーンの葉とあいまって上品さをかもし出している。
どこが“人を惑わす”のかわからないが、冬場に-2℃以上であれば育てられるというのでチャレンジしてもよさそうだ。
このサルビアは、Salvia roscida Fernald (1900)と同じであり、先に命名されたサルビア・ロシーダが優先される。
 
(出典)salviaspecialist.com

このサルビア・ロシーダ(Salvia roscida)を最初に採取したのは、1892年から1906年までメキシコで生物学的な調査研究を行ったアメリカの動物学者、ゴールドマン(Goldman, Edward Alphonso 1873-1946)で、1899年3月にドゥランゴ州で採取した。

4.Salvia mexiae Epling (1938) サルビア・メキシアエ

 
(出典)ミシガン大学植物園

この姿かたち美しいサルビア・メキシアエ(Salvia mexiae)は、メキシアが最初に発見したサルビアで、1927年5月にハリスコ州サンセバスチャン付近のシェラマドレ・オキシデンタル山脈1500mの山中で採取した。
生息環境は小川の近くの開けた斜面に樹高3mにもなる大株に育ち、葉は細長い槍状で花序を伸ばし、その先に灰色がかったローズ色の苞葉がつく。花は上唇が明るいブルーで下唇が白っぽい色と記述されている。

形態的にはメキシカンブッシュセージ(サルビア・レウカンサSalvia leucantha)と似ているようだが、2mぐらいまでの成長に刈り込んで育てるといい感じのサルビアのようだ。
しかし、植物標本しか探しえなかったということは現存していないようだ。

5.Salvia quercetorum Epling (1938) サルビア・クエッチェトローム

 
(出典)University of Michigan Herbarium

サルビア・クエッチェトローム(Salvia quercetorum)は、1927年1月29日にメキシアによって発見された。
採取した場所は、ハリスコ州のリアライトで、シエラマドレ・オキシデンタルの山中で、オークの森の急な斜面に直立していた。草丈60-100㎝で葉からは強いミントの香りがし、花の色は濃いブルーと書かれている。
種小名の“quercetorum”は、ラテン語で“querce+torum”“オークのベット”を意味するので、オークの森に育てられたサルビアを表しているのだろう。

(続く)
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