モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

植物の知恵と戦略 ⑤ チューリップの花の開け閉めの疑問

2009-04-27 08:31:08 | 植物の知恵と戦略
どうしてチューリップは、陽が昇ると花を開き夕方閉じるの?

晩冬から初春に咲く花は、陽が昇ると開花し、陽が沈むと閉じるものが多い。
何故、開け閉めをしているのだろうか?どういう仕組みになっているのだろうか?
という二つの疑問があるがそれにはこんな解がありそうだ。

1、陽が沈むと寒くなるから風邪を引かないように閉まるのかな?とか
2、夜咲いていても子孫を増やす仲立ちをしてくれる顧客の昆虫さんが来ないので店を開いていてもエネルギー消費がもったいないので?とか
3、雨、曇りの時は客足が悪いので大事な餌でもある花粉がもったいないので節約している?
などなどいくつかの答えが考えられる。

(写真)名無しのチューリップ
          

花が開閉する植物とその仕組み
陽が昇ると開花し、陽が沈むと閉じる花をあげると
代表的なものはフクジュソウ、クロッカス、アネモネ、チューリップなどで、一株に一つか少数の花が咲く植物が多いことがわかる。

たくさん花が咲く植物は、どれかが受粉して子孫を残せばいいので、それぞれの花が最大の効果を狙わないでも良さそうだ。しかし、1個とか数少ない花しか咲かせない植物の場合は、確率で受粉させるわけにはいかない。確実に受粉する必要がある。

そのための生き残る戦略が、花の開閉ではないかと思う。
というのは、これはチューリップになりきって考えた推理だからだ。

たとえば、チューリップが開花後に花が開いたままでいるとした場合どんな不都合があるだろうか?

・花粉・蜜などが24時間露出しているので、花粉運び屋に適しない昆虫などに無駄な消費がされる。
・雨の日は、花粉が濡れてしまい流れるなど損失・減耗がある。
・早めに花粉・蜜などの資源を使い切るので受粉できないリスクが高まる。
一個の花にある少ない資源を確実に使うということにはならなさそうだ。

そこでチューリップなどは長い時間をかけて学習し、「顧客の昆虫さんたちが少ない時間は閉店しよう!」となったのだろう。当然、陽が沈んだり、雨の日などは昆虫さんたちの活動が不活発になり、店を開けていても資源ばかり使い効率が悪い。ということを会得したのだろう。或いは、陽が沈むと花を閉じるという性質を偶然に持った個体のほうが優位になり生き残ってきたのだろう。

          

フクジュソウの場合は、雪がとけかかった南東の斜面の樹林の下で、競争相手の植物が成長し葉を茂らせる前に、しかも、まだ寒いので昆虫も活発に活動できないという限界的・ニッチ的な時期を狙い、数少ない昆虫を呼び寄せるために彼らを温め元気を与える場所として花の機能を創っている。

陽が昇り目覚めた昆虫たちは、好物の蜜がないがそこそこの花粉にありつけ、また、“フクジュソウのサウナ”で身体を温め、元気になって食糧を探しに遠くまで飛んでいく。しかも私の花粉をつけて! 
フクジュソウは、陽が昇ると花を開き、パラボラアンテナのように花の中心に光を集め温度を高める。さらに光を追いかけて花が動く。こんな集光マシーンを創った。

チューリップは、17℃以上になると花が開き、その温度より下がると花を閉じる。という形質を獲得した。
この仕組みは「バイメタル」と同じで、「バイメタル」の場合は、熱膨張率が低い鉄(外側)と高い銅(内側)を張り合わせ、気温が高くなると内側の膨張が高いので外に傾き、気温が低くなると逆に内側に傾く。

チューリップは、内側の細胞が伸張する温度は17~25℃で開花し、外側細胞は8~15℃といわれている。(出典:「不思議な花時計」十亀好雄 青木書店)
だから陽が昇り温度が高くなると花が開き、陽が翳り温度が低くなると閉じるという動きが起きる。

この温度によって花が開閉する運動を「傾熱性」といっているが、動かないから動物ではないといわれている植物も、動くということが出来るし、動く仕組みを持っていている。これらは自分の子孫を残すところで有利に働くように出来ているようだ。

私もカミサンの小言にシャッターを開け閉めしているが、私が不利な場合が多いようだ。なかなか自分有利にはなれそうもない。

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植物の知恵と戦略 ④ 花の色の不思議

2009-02-28 07:30:54 | 植物の知恵と戦略

早春の花に黄色が多いのは何故?
こんなお題をいただいた。
確かに年明けから掲載した花は、ロウバイ、マンサク、フクジュソウ、そしてクロッカスの早咲き黄色系など黄色の花が多い。(気になったら書庫「その他ハーブ」を!)

同じ疑問を持っている識者がいた。(やれやれホッとした~)
『花はふしぎ』の著者 岩科 司さんだ。(講談社ブルーバックス2008年7月20日第一刷発行)

まず岩科さんの見解を著書から引用するとこうなる。
『なぜ春には黄色い花が多いのか? その理由についてはよくわかっていないが、黄色の花というのは比較的特定の動物との結びつきが少ない。昆虫の動きがまだ活発でなく、しかも種類・数も少ない早春にはあまり特定の昆虫と結びつかない方がよいのかもしれない。』

なるほど、悪環境のときはお得意先を絞り込まずに多元外交がいいのだろう。

しかしそれだけではなさそうだ。自己にとって有利なこともある。意訳すると・・・
『春は降り注ぐ紫外線が多く、紫外線は生物にとって有害だ。黄色の花は人間が眼に見える可視光のうち黄色を反射し(だから黄色に見える)、黄色の反対色を吸収する。黄色の反対色は紫でありその隣の人間には見えない紫外線をも吸収する。これで花を保護している。』という説もあげている。

そういえば、早春の花は、花が咲いてから葉がでるものが結構ある。自己防衛という線も捨てきれない。
環境が厳しい時は優先順位をしっかりし、まず子孫繁栄、次に葉を出し栄養を蓄積し来年の準備。理にかなった生き方だ。

花が色をもつようになったのは?
初期の花には花びら、葉から変化した花を保護する萼片がなかったようだ。
風などの偶然に頼って花粉を飛ばしていた(風媒花)と推測されていて、その後昆虫によって花粉が運ばれる虫媒花が出現したようだ。

さらにその後花びらや萼片を持つ花が誕生し、色を持った花が登場してきたと推測されている。化石には色がないので何色だったかはわかっていない。

花粉を運ぶ代償として昆虫の食糧となる花粉を与えていたが、花粉は生産が大変でコストが高いという。また、子孫繁栄に使ってもらう方がいいので食料となる部分を減らしたいということもあり、花粉よりも簡単に作れて植物のエネルギーを多消費しない蜜を作り出したという。(これは意外な展開となった。花も経済合理性で行動を選択している。義理とか人情での行動選択は間違いが多いのかもわからない。)

色を持つ花は昆虫をひきつけ子孫を残す効率がよいので、花と昆虫の共進化がはじまり、花色の増加と昆虫の種類の増加がともにおきたという。

このような歴史を知ると、昆虫に目立つ色、美味しいご褒美は、花粉をばらまくための植物の知恵の結晶でもあることがわかる。
人間がこの花の美しさに気づき再発見したのは16世紀頃からであり、平和な時代をもたらした果実のようだ。

早春の黄色系の花の知恵その他
・黄色の花の多くは上向きに咲く。蜜がやや深いところに隠されているので、口が短い昆虫には蜜が吸えない。
・よくやってくるのは、黄色が好きなハナアブ類、小型で口が短めのチョウの仲間。ハナアブは着陸がへたなので上向きでないとダメなようだ。
・ミツバチやそれよりも小型のハナバチも来て蜜や花粉を集める。
・人間には見えない紫外線の模様で蜜のありかを昆虫にそっと教えている花も多い。紫外線写真でとると、紫外線を反射するところは白く、吸収するところは黒く写り花の中心が黒ずむ。
・フクジュソウは、ハナアブにご褒美で提供する蜜がない。そのかわり、寒くて活動しにくい時期に身体を温めてあげる集光パラボナアンテナを持っている。温まった昆虫は活動的になり花粉を遠くに運ぶことになるから一石二鳥となる。
・マンサクの花の中心に当たるしべ部分が赤紫色なのは、パートナーのハエが大好きな腐肉の色に反応する事を利用しているという。
・(注)ハナアブは、アブの仲間ではなくハエの仲間だという。

最後に気になる紫外線の映像を擬似的に作ってみた。
昆虫からは、黄色が反射して明るく見え、吸収される色は暗く写り、マタ、蜜のありかを誘導する矢印のような印として見えるという。多分こんな風になっているようだ。
(写真)人間の目で見た黄色の花


(写真)昆虫の目から見た黄色の花(擬似)

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植物の知恵と戦略 ③ 開花のメカニズム

2009-02-26 09:12:22 | 植物の知恵と戦略

この項は、『② 植物が“時”を認識する仕組み』の後編です。

花は美しい。
花の美しさの価値が認識され再発見されたのは、ヨーロッパ社会においては16世紀後半からのようだ。日本でもほぼ同じ時期からだが、江戸時代は平和が続いたため庶民レベルまでこの審美眼が浸透したようであり、江戸末期に日本に来た西欧人はこの水準の高さに驚いている。(末尾に抜粋を掲載)

しかし、人間社会の変化がどうであれ植物は花をつけ、この花は、植物にとってのパートナーを求めるサインのあらわれであり、子孫を残す大切なプロセスだ。

花にとってのパートナーは、昆虫であったり風などであり、決して人間ではない。
このパートナーに来てもらい花粉をたっぷりとつけ他の花々に受粉してもらいたいという願いがこめられている。

この呼び込みの看板・ネオンサインが花であり、餌・食料となる蜜や花粉がこれから行われる労働の対価でもある。或いは撒き餌となるチラシ・ティシュなのかもわからない。

(写真)まだ咲いているセミアトラータの花


長日植物・短日植物
開花の準備は、夜の長さの変化を感じ取って始まる。
夏至を境に夜が長く日中が短くなると開花の準備が始まるのが夏から秋咲きなどの短日植物であり、冬至を境に昼が長くなると開花の準備がされるのが春咲きからの長日植物となる。

花が咲くまでの開花の準備には三つのプロセスがあるという。まず最初に「つぼみが出来るプロセス」、第二に「つぼみが生長するプロセス」、第三が「開花」である。

どこがどう違うのかといえば、
最初の「つぼみが出来るプロセス」とは、植物が成長するところは芽の中にある成長点だが、この成長点が葉を作ることをやめ“つぼみ”を作るようにスイッチが切り替わることをさす。そして花芽を形成する。
第二段階はこの花芽がつぼみとして花弁・雌しべ・雄しべを成長させ形を作っていく。
そして、最後の第三段階で開花する。

アサガオの暗黒と開花の実験
小学校の理科実験などでアサガオの栽培観察などがあったが、出題者の先生もわかっていないかもしれない実験がある。内緒で子供・孫達に教えると良さそうだ。

アサガオは単日植物の典型的な植物であり、日中が短くなり夜が長くなると開花の準備に入る。そこで、発芽し双葉になったばかりのアサガオを、人為的に夜を長くしてあげると、一度だけでも敏感にこれを感じ取り開花の準備に入るという。具体的には真っ暗なところに一日(14時間以上)入れておくだけでよい。
アサガオの苗の数が多くあれば、何時間暗くすると開花するかという関係が調べられ、先生も驚く研究発表となる。夏休みの研究テーマとしていけそうだ。

この逆もまたありで、明るい室内でアサガオを育てると開花しないでつると葉だけが育つことになる。明るい街灯の下のアサガオは花を咲かせないということになる。水遣り・肥料が問題ではなかったのだ。

植物の感知センサーは、『葉』
植物の暗黒を感じ取る精度はきわめて高いようで、15分間の違いをも認識するという。
そしてどこでこの暗黒を感知しているかというと『葉』だという。
かなり精度の高いセンサーのようだ。

また、植物によりこのセンサーが作動し開花の準備に入るトリガーが異なるようだ。
短日植物のシソは、暗黒時間8時間以上を7~8回認識すると花芽が分化する。同じ短日植物の大豆の場合は、暗黒時間10時間以上で、数回認識すると花芽が分化するという。

このバラツキは、植物の生存に関わる過去の経験が何らかの形で影響しているのだろう。1回でも認識するアサガオ、8回以上ないと認識しないシソでは、シソの方が安全弁機能が内蔵され疑り深い或いは慎重だと感じるがどうだろうか?
花が咲かないことには生き残れない。シソの場合は、8日間も確認して大丈夫と思い咲くのだろうか?

植物の生存戦略も、こんなところから見ると面白そうだ。
堅苦しくいうと、自らの経営資源を花を咲かせ、タネを結び、次につなげるということで、環境の変化に如何に適合するように創り上げてきたか?
そして種間の競争に生き残ってきたか? が見えてくるかもわからない。

(写真)黒に見えるダークブルーのディスコロールセージの花


認識と伝達
アサガオは葉が長時間の暗黒を1回でも認識すると開花行動をとる。そこで、14時間暗闇に置いたアサガオの葉を直ぐに切り取ると開花しないという。ということは、開花しろという伝達が成長点に届かなかったということになる。
しかし、切り取る時間を遅らせると開花するという。

このことは、葉から茎の成長点まで開花指令をのせて運ぶ物質があるのではないかという仮設が成立するが、この物質はいまだに発見されていない。
ホルモンなのか?ニューロンなのか?何なのだろう?この謎が解けたらノーベル賞がもらえるだろう。

もしこれがわかれば、新しい伝達方法とヴィークル(乗り物)の可能性が広がる。
マクルーハンは「メディアはメッセージだ」といったが、植物からわかるメディアとメッセージの関係は、人間のアナロジーで考え、ロボットなどに応用してきた認識と伝達の考え方を根底から変える可能性がありそうだ。

付録【幕末の頃の日本人の美意識】
幕末の1860年に日本に来たイギリスのプラントハンター、ロバート・フォーチュン(Robert Fortune )が帰国後に書いた「幕末日本探訪記」がある。現在これを酒の間に読んでいるが、イギリス人から見たこの頃の日本がわかって面白い。日本人の花・植物への関心のところだけを抜粋すると次のように書かれている。

「馬で郊外の小ぢんまりした住居や農家や小屋のかたわらを通り過ぎると、家の前に日本人好みの草花を少しばかり植え込んだ小庭をつくっている。日本人の国民性の著しい特色は、下層階級でも皆生来の花好きであるということだ。(中略)もしも花を愛する国民性が、人間の文化生活の高さを証明するものとすれば、日本の低い層の人々は、イギリスの同じ階級の人たちに較べると、ずっと優って見える。」

江戸郊外を散策してのフォーチュンの感想で、日本の庶民文化の高さをほめているが、リーダー階層に関しては言及していない。この点は、今も昔も変わらず国際レベルに到達していないのだろう。

わき道に入ってしまったが、英国人から見た日本の美しさが新鮮に感じるのでどこかで紹介したい。

参考資料:『花の自然史』北海道大学図書刊行会 
第13章『花が季節や時を告げる仕組み』甲南大学 田中 修
※ 田中さんの文章は読みやすくわかりやすい。

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植物の知恵と戦略 ② 植物が“時”を認識する仕組み

2009-02-02 09:07:57 | 植物の知恵と戦略

サクラはどうして同じ時期に咲くの?
花は“時”を告げてくれる。
フクジュソウが咲き、梅が咲き、チュウリップが咲き、サクラが咲く。
そしてだんだん春らしくなっていき、カレンダーがなくとも季節の推移がわかる。

時計のように正確ではないが、大体同じ時期に芽を出しそして花を咲かせる。
これを不思議とは思わないであるがままに受け入れてきたが、“どうして同じ時期に花が咲くのだろう”という疑問をもってしまった。

植物たちは、“時”を知っているから大体同じ時期に花を咲かせるのだが、この仕組みをひも解いてみることにした。

(写真)待ち遠しいサクラです(2008年4月清水公園のサクラ)


植物の“時”の認識
植物はその長~い長~い歴史の中で、天動説などに惑わされることもなく、地球は自転しながら太陽の周囲を回っているということをわかっていたようだ。

つまり、「冬至(12月22日頃)からは昼が長くなり、夏至(6月21日頃)から夜が長くなる。」というメカニズムを認識して活用していたことになる。

エジプトのピラミッドが東西南北の方位を正確に認識して作られていたとか、古代マヤでは惑星の軌道から“時”を計算していたなども不思議だが、植物が地球の自転・公転を活用して“時”を認識していたことには驚いてしまう。

ということは、「温度」もある程度はこれに関係してくるが直接的ではなく、「光」を感受して“時”を認識しているというのが答えになる。さらに驚くことは、“光”の明るさではなくその逆の“夜”の長さを認識しているという。確かに、昼間は、かげったりさえぎられたり光は不安定なので“夜”の長さの方が安定性がある。

言い換えると、植物は夜の長さを認識し花芽を形成する。という。
このことを「光周性(こうしゅうせい)」というそうだが、1920年に米国の植物学者ガーナー(W.W.Garner)とアラード(H.A.Allard)によって発見された。
この発見者も植物の賢さに驚き、あまりのすごさに絶句したのではないだろうか?

人間社会では、地球が太陽の周りを回っているという地動説がバチカンの教皇庁に認められたのは、なんと1992年だったのだから。

いまではこのメカニズムを利用して、電照栽培という電灯の明かりにより出荷時期に合わせてつぼみを作らせる花卉生産がされている。キクなどがその代表だが、年中花が出回ることになった。

人間にとってはハッピーだったが、植物にとっては知られたくないことが知られてしまったと臍をかんでいるかもわからない。
植物は、自分を残すために花をつける。正確には自分の遺伝子を残すために花を咲かせ実をつける。しかし、実・種子は人間の食料ともなるので花を咲かせることがコントロールできるようになれば、 『植物工場』が可能となる。
産業革命、IT革命のつぎにプランツ(植物)革命が来る可能性がある。IT革命の省資源化・低エネルギーのさきは、省資源化・低エネルギー・地球環境の保全(酸素を供給し、地球の温度を下げる働きもある)のグリーン革命かもわからない。
太陽光をエネルギー源とし、植物をソフトマシーンとした工場が出来上がるのだろう。

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植物の知恵と戦略 ① フクジュソウのニッチな生き方

2009-01-25 09:01:35 | 植物の知恵と戦略

今年から、気になっていた不思議な植物の生き方をテーマとして取り上げていこうと思う。年間で20テーマも取り上げられたら上出来と考えているがはたしてどうなるだろうか?

第一回は、 『フクジュソウの光を集める花とその生き方』

(写真)パラボラアンテナのようなフクジュソウの花


フクジュソウの花は、黄金色に輝いている。
陽がさすと花びらが開き、太陽を追いかけて動く。そして陰ると閉じる。
花の形は、深皿のようだがよく見るとパラボナアンテナのようでもある。
ここに、フクジュソウの知恵があった。

フクジュソウの生態は面白いということを以前ふれた。 (興味があればこちらを)

簡単にまとめると、フクジュソウはこんな特徴を持っている。
1.落葉する広葉樹林の南東の斜面に自生する。(落葉するので陽がさしやすい立地戦略)
2.雪が消える頃に雪を割り地上に顔を出し花を咲かせる。(競争が少ない時期を選択)
3.花は陽の光を受け開き、陰ると閉じる。また花は陽の光を追いかけて動く。(悪環境に適したオペレーションの仕組み)
4.花が咲いてから茎と葉を伸ばし、日光を一杯に受け光合成で根に養分を蓄積する。(受粉を優先しその次に自分の生存)
5.この間2-3ヶ月ぐらいで、他の植物が葉を出す頃には日陰に埋没するので、地上部が枯れて地下で冬眠に入る。(無駄なエネルギーを使わない省エネ生存)

わずか2-3ヶ月しか地上に顔を出さないで生存している植物があること自体不思議だが、これがフクジュソウが生存してきた生き方で、この限られた時間・立地。競争環境を最大限に生かす仕組み出来上がっていたから驚く。

生物の究極的な目的は、自分の遺伝子を数多くばらまき種の生存を高めるところにあるという。イギリスの動物行動学者ドーキンス(Richard Dawkins 1941-)は、『THE SELFISH GENE(生物=生存機械論)』という著書で“生物は遺伝子の乗り物だ”とまで言い切っているが、個体は死亡しても遺伝子は受け継がれていくので、なるほど一理ありと思う。

植物にとって、“受粉”が遺伝子をばらまく重要なイベントとなる。
フクジュソウは、虫媒花であり虫を集めてその身体についた花粉を受精しタネを作るだけでなく、自分の花粉を虫に手助けしてもらいばらまく。

虫を引き寄せるために、普通は蜜を作り花粉を食糧として提供したりしているが、フクジュソウは蜜を作らない。
なぜかという理由はわからないが、蜜を作るということはエネルギー多消費型で割が合わないのだろう。この蜜を作ったタイプは淘汰されて現在のタイプが生き残ったのかもわからない。(あくまでもこの説は推測です。)

黄金色に輝くフクジュソウの花びらは、光を反射しやすい色彩とパラボラアンテナ状の形で、花の中央部に太陽光を集める働きをしているという。
外気と5~6℃違うというので、花の中は別世界を提供することになり虫たちにとっては暖が取れる。温まった身体は活動的になり花粉をつけた虫たちが飛び廻ることになる。

自分の花粉をつけた虫が飛び廻ってくれることはこの上ない満足なのだろう。
これでめでたしめでたしで終わってもよいが、まだ先があった。
北海道大学の工藤岳准教授の実験では、雌しべが受粉した花を二つのグループに分けその種子の結実を観測した。第一のグループはそのままで、第二のグループからは花びらを取り除いた。

これは、パラボラアンテナのように光を集める働きは、虫を呼ぶためにあるのかそれ以外のことのためにあるのかを実験で観察したのだが、受粉後花びらを切り取ったグループでタネを作ったのは50%だったが、花びらを切り取らなかったグループでは70%がタネを作ったという。
フクジュソウの暖を作り出す仕組みは、虫をひきつけるだけでなく、自分のタネを作り出すのにも一役買っていたという。

“利己主義な遺伝子”
これをドーキンス風に解釈しなおすと次のようになる。
フクジュソウは、虫たちに暖を提供し、食糧としての花粉も提供する。
何と素晴らしいことではないかということで、これを虫たちに彼らの利益を提供するので『利他主義』とするが、この仕組みがうまく機能・循環することはフクジュソウ個体の遺伝子が生き残ることであり素晴らしいほどの『利己主義』なのだ。
ということになる。

遺伝子はわがままで利己主義だ。というのがドーキンスの説だが
フクジュソウの生き残り方は、狭い隙間をぬったニッチな生き方であるが、
他の植物との競争、昆虫との共存などで合理的で効率的な生き方がされている。
地球温暖化と都市化がフクジュソウの生存環境を狭めているが、地球の寒冷化はその生存領域を広げる予感がする。
厳しい環境での生き方として一つのモデルケースとなりそうだ。

いろいろな生き方がないと環境の変化に適応できない。
『植物の知恵と戦略』という今回のテーマでは、そのいろいろな生き方を植物から学んでみようと思う。
ただし、ドーキンスの説を社会学に適用するのは土俵が異なるのでいただけない。
たとえば、株式会社の資本=株も利己的な遺伝子かもわからないが、利他的な行為がない利己主義は循環しないので破綻するはずであり破滅に導く。
昨今の自分だけ生き残ろうとする首切りは、存在している社会を崩壊させるものでもあり、どの社会で生き残ろうとしているのか選択する余地がないはずだ。

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