モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

昼咲く、イブニング・プリムローズ‘アフリカン・サン’(Evening primrose 'African Sun')の花

2017-06-21 19:37:26 | その他のハーブ

(写真)鮮やかな黄色、イブニング・プリムローズ‘アフリカン・サン’の花


イブニング・プリムローズ(Evening primrose)の園芸品種‘アフリカン・サン’(Evening primrose 'African Sun')は、日が沈んでから咲くのではなく、昼に咲く。
イブニングではなくモーニング・プリムローズという名前のほうがふさわしいが、出自が分からなくなるので親の名前を使ったのだろう?
親との違いはまだある。親は真上に伸び草丈1mにもなるが、アフリカン・サンは60cm程度で横に広がりグランドカバーに適する。
しかも暑さ・寒さ・水不足に強いとなるとかなり楽になる。

アフリカン・サンを開発したブリーダーは、オランダ、ボスコープのW.M. van Nieropという。
ブリーダーのことはこれ以上分からなかったが、ボスコープという町は花卉産業が集中したところのようで、個人及び企業が1000ぐらいあるという。
日本で言えば植木屋が集中している埼玉県川口市の安行などが近いかもしれない。

Googleでボスコープを見ると、碁盤の目のように整理された町割りが見えるが、これを拡大すると、長方形に囲まれて道があるように見える。しかしこれは道ではなく全て運河で、泥湿地を開拓して出来た“島”が農場になっている。

アフリカン・サンは、耐寒性・耐暑性も強いのでパテントがなければ道路を整備した広大な敷地に利用されるのだろうが、オランダの花卉産業のパテントを破ると厄介なことになる。

(写真)開発者の居住地、Boskoop Nederland




アフリカン・サンの親とイブニングプリムローズの話
アフリカン・サンの学名は、エノテラ・フルティコサ‘アフリカンサン’(Oenothera fruticosa 'African Sun')で、エノテラ・フルティコサ(Oenothera fruticosa)が親となる。和名ではキダチマツヨイグサという。
原産地は北アメリカ東部で、乾燥した森林、岩の多い荒地、道端などに生息する。

一方、英名で「イブニング プリムローズ」といえば、黄色の美しい花を夕方から朝方まで咲かせるアカバナ科マツヨイグサ属の植物を総称して使われるが、種としては、学名Oenothera biennis のことを言う。

(写真)Oenothera biennis イブニング・プリムローズ植物画

(出典)ウイキペディア:Otto Wilhelm Thomé 「Flora von Deutschland, Österreich und der Schweiz 1885, Gera, Germany」

和名では、“メマツヨイグサ”と呼ばれるが、竹久夢二の作詞による流行歌「宵待草」が大正時代にヒットした影響で“ヨイマチグサ”と誤解されるようになる。

又、月見草とも混同があるが、月見草は白花の別種で、学名Oenothera tetrapteraという。メマツヨイグサの繁殖力に負け生息地を奪われ、めったにお目にかかれなくなった。

注意することは、“イブニングプリムローズ”で検索すると、健康食品・サプリメントが数多く表示されるように、昔は「cure-all king(万能薬の王様)」のハーブとして使用されていた。しかし、効果・効能は疑問視されるモノが多いので注意が必要だ。

エノテラ・フルティコサ(Oenothera fruticosa)を採取したプラントハンター

アフリカン・サンの親、エノテラ・フルティコサ(Oenothera fruticosa)を最初に採取したのは、英国の植民地ヴァージニアに父に従って1715年に移住したジョン・クレイトン(John Clayton 1686-1773)のようだ。
クレイトン29歳の時で、その後5年間何をしていたのか記録がない。
植民地アメリカでの最初のクレイトンの記録は、1720年に現在のニュージャージ州グロスター郡の書記官で登場し、以後50年間今で言えば土地家屋調査士、司法書士のような仕事を続けた。
いかにも謹厳実直が取り得の貧乏な生活というイメージを持つが、450エーカー(1エーカーを 4047㎡とすると約55万坪)のタバコを栽培するプランテーションを所有し、30人の奴隷を使っていたという。

クレイトンに植物学の影響を与えた人間がいる。
マーク・ケイツビー(Mark Catesby、1682-1749)で、父親が死んで充分な遺産を受け取った彼は、アメリカ植民地バージニア州の長官と結婚した姉とともに1712年にアメリカに渡った。
西インド諸島や、バージニア植民地に住んだ後、1719年にイギリスに戻り、この間に採取した植物標本・種子等を英国で著名なガーデナー、フェアチャイルド(Thomas Fairchild ? 1667 – 1729)に送った。

クレイトンは、このマーク・ケイツビーから植物学の素晴らしさを学んだようだ。
確認は出来なかったが、クレイトンが何をしていたのか分からない5年間(1715-1719)は、ケイツビーとクレイトンは一緒にプラントハンティングをしていたのではないだろうか? と思うほど植民地バージニアで接近していた。

クレイトンは、彼が49歳の1735年からオランダの植物学者で、リンネの2命名法の守護者を自負するグローノビウス(Johan Frederik Gronovius 1686-1762)などに採取したバージニア原産のハーブ・果物・木等を編集したカタログ及び植物の種子と標本を送っていた。

グローノビウスは、このカタログをラテン語に翻訳して「Flora Virginica(1739-1743)」として出版した。本の表紙にはクレイトンの名前が入っているが、断わりなしの無断借用だった。今なら著作権侵害で学者生命を絶たれるが、この時代でも許されることではなかった。
クレイトンは、ヒトが良すぎるのか抗議をしなかっただけでなく追加の植物標本なども提供した。

しかし、これで懲りることなく1746年にはカナダでの植物採取、1747~1748年はミシシッピー川以西での植物採取、そして1758年には、オランダの植物学者グローノビウスに盗作された「Flora Virginica」の新改訂版を書き上げ、今度は親交がある英国の園芸家として著名なピーター・コリンソン(Peter Collinson 1694 – 1768)に送った。

この原稿の植物画は当時最高の植物画を描くゲオルグ・ディオニシウス・エレット(Georg Dionysius Ehret 1708-1770)だった。

その作風を感じてもらうために以下に掲載させてもらった。

(植物画)Selenicereus grandiflorus (夜咲くサボテンの女王) by Ehret. Plantae selectae. Ionnes Elias Haid filius. Tab. 31

(出典)Botanical Art & Artists

残念なことにこの新改訂版は出版されず、クレイトン死亡後の1787年に原稿を保管していたオフィスが火災で焼失し、この時に燃えてしまった。
エレットの植物画がなくなったことも残念だ。

ここまでは、クレイトンを実りのない人生を送ったと思ってしまうだろうが、クレイトンを評価するヒトは多く、英国の植物界を世界レベルに引き上げた立役者、サー・ジョゼフ・バンクス(Sir Joseph Banks, 1st Baronet 1743 −1820)は、1794年にクレイトンがオランダの植物学者グローノビウスに送った数百もの植物標本を手に入れ、ロンドンの自然史博物館にクレイトン標本館を作った。

アフリカン・サンの親、エノテラ・フルティコサ(Oenothera fruticosa L. 1753)は、1753年にリンネによって命名されている。1735年からリンネと親交があるオランダのグローノビウスにバージニア原産の植物標本を送っているので、採取したのはクレイトンであることが確信できる。

気になる採取者がもう独りいた。時期不明でアンドレー・ミッショー(André Michaux 1746-1802)の名前が登場した。
彼は、1785年11月にニューヨクに到着し1796年にフランスに戻るためにアメリカを去ったので、この間に採取しただろうから植民地バージニアのプラントハンターとして知られているジョン・クレイトン(John Clayton 1686-1773)が最初の採取者となる。

ミッショーについては“マリーアントワーネットのプラントハンター”アンドレー・ミッショーとして記載しているので過去の作品を参照していただきたい。

(写真)匍匐して広がる黄色の花Evening primrose 'African Sun'


イブニング・プリムローズ‘アフリカン・サン’(Evening primrose 'African Sun')
・アカバナ科オノテラ属(マツヨイグサ属)の耐寒性がある多年草
・学名はエノテラ・フルティコサ‘アフリカンサン’(Oenothera fruticosa 'African Sun')、英名がイブニング・プリムローズ‘アフリカン・サン’(Evening primrose 'African Sun')。
・属名の‘Oenothera エノテラ’は、ロバの捕獲者を意味するギリシャ語の“onos therasオノス・ザラス”、又は、ワインシーカーを意味する“oinos theras オイノス・ザラス”に由来するという。又、ラテン語での“oenotheraオノテラ”は、“汁が睡眠を引き起こす可能性のある植物”を意味する。種小名の‘fruticosa’は、“低木状の”を意味する。
・原種エノテラ・フルティコサ(Oenothera fruticosa)の原産地は、メキシコ北東部からアメリカ合衆国のテキサス州にかけての地域が発祥の地と考えられている。
・‘アフリカンサン’('African Sun')のブリーダー(生産者)は、オランダ、ボスコープのW.M. van Nieropという。オランダは、花卉産業が優れていて有名だが、ボストークには数多くのナーサリーがあり、日本で言えば埼玉県川口市の安行のようなところのようだ。
・‘アフリカンサン’は、葉は濃い緑色、細長い槍状で、草丈60cm程度で横に広がり、開花期は初夏から秋と長く、ラッパ状の黄色の花を昼間に咲かせる。陽が沈んでから咲くイブニング・プリムローズの特色を昼に持ってきた園芸品。

コメント (2)

サルビア・パテンス(Salvia patens)の花

2017-06-07 08:03:45 | セージ&サルビア
(写真)サルビア・パテンスの花


サルビア・パテンスの美しいブルーの花が咲いた。

このブルーの色を称してジェンシャン・セージ(gentian sage)とも呼ばれる。

サルビアの中では5㎝ほどの大柄な花で、対になって二個の花が咲き、この花が咲くと初夏を感じさせる。

これまでは、冬場の扱いに失敗し2年目の花を見たことがなかったが、今年は大成功で多年草である証明が出来た。

(写真)一対の花


サルビア・パテンスの詳しい情報はこちら

サルビア・パテンスの園芸品種ケンブリッジ・ブルー’の花

コメント

カナリア・アイランド セージ(Canary Island Sage)の花

2017-06-01 07:08:11 | セージ&サルビア
(写真)サルビア・カナリエンシス(Salvia canariensis)の花


アフリカ大陸の北西沿岸、イベリア半島の南西方向の大西洋上にある島、カナリア諸島原産のサルビア、カナリア・アイランド・セージ(Canary Island Sage)の花が咲いた。

サルビアには珍しい赤紫色系のマゼンタ(magenta)色とでも言うのだろうか? 
そろそろ咲くのではと期待しつつ、その初めての出会いは驚きと感動があり、初めて栽培する植物の初めての花は何時も印象深い。

(写真)カナリア・アイランド・セージ:銀緑色の葉と赤紫の苞(ホウ)


このカナリア・アイランド・セージは、四角く綿毛に覆われた角ばった茎に銀緑色の細長い葉が対生に生えているだけでも存在感があったが、この後の開花を予告するように赤紫色の苞が出現したときは、これだけでも十分という感じだった。

久しぶりに二度楽しめたサルビアだった。

(写真)カナリア・アイランド・セージ:葉と花


カナリア・アイランド セージ(Canary Island Sage)
・シソ科アキギリ属(サルビア属)の耐寒性が弱い多年草
・学名は、サルビア・カナリエンシス(Salvia canariensis L. 1753)、コモンネームがカナリア・アイランド・セージ。
・原産地は、アフリカ北西部沿岸の大西洋上にあるスペイン領のカナリア諸島。
・草丈は1.2m程度で株張り1.0mと大きく育つ。
・葉は銀緑色で細長く対生し、開花期に赤紫色の苞が茎の先端につく。
・開花期は5~9月。赤紫色系のマゼンタ(magenta)色の口唇形の花を次から次へと咲かせる。
・日差しのあるところで乾燥気味に育てる。
・丈が伸びるので花を飾るついでにカットすると良い。


【付録:原産地 カナリア諸島について】
カナリア諸島は、水深2000mもの大西洋上に浮かぶ火山島という。実際はものすごく深い海底からマグマが吹き出てそれが固まって出来た島だが、途中で折れないかなと心配するが誰も心配していないようだ。

大陸移動時前には、カナリア諸島があるアフリカ北西部と北アメリカ、ボストン等があるニューイングランド辺りが接していたので、新・旧大陸の植物の関係が近いところだという。
さらに、ヨーロッパ、北アフリカが氷河でおおわれた時には、カナリア諸島にはこの氷河による影響がなかったため生物の固有種が多いところだという。

【カナリア諸島 原産の植物】
カナリア・アイランド セージ(Canary Island Sage)、レースラベンダー(ピナータ・ラベンダーPinnata Lavender)は、このブログでも取り上げた。

有名なのは、高さ3mにもなりその外形から「宝石の搭」と呼ばれるエキウム・ウィルドプレッティ(Echium wildpretii)で、これは巨大なアリ塚のように見えるが、良く見ると薄い赤色の花が密集して咲いている。

(写真)エキウム・ウィルドプレッティ(Echium wildpretii)

(出典)ウイキペディア

まるで炎のようだが、オウムのくちばし(parrot's beak)が正解です。
マメ科の匍匐性がある多年生植物で、そういえば近所の道路にも庭から脱走して一面に広がっていた。身近にカナリア諸島の固有種が浸透しているようです。

(写真)ロータス マクラツス(lotus maculatus)

(出典)CalPhotos is a project of BSCIT University of California, Berkeley

【カナリア諸島の由来】
井上陽水の歌に「カナリア」という曲があり、カラオケで覚えようかなと思っていたが、最近は飲みに行くのに飽きてしまったので歌う機会が極端に減ってしまった。
この、小鳥の「カナリア」は原産地カナリア島に由来している。

さて、島の名前の「カナリア」はと言えば、カナリア諸島7島の紋章が、7つの島を真中にして両サイドに1対の犬が向かい合っている。
ラテン語で“Insula Canaria”は、“犬の島”を意味し、諸説あるが、古代ローマの学者、大プリニウスが、島に多くの野犬がうろついていることを最初に伝えたことにより“犬の島=カナリア島”となったと言う。
カナリア諸島のイメージが、 “鳥”から “野良犬”に代わると 大分幻滅するが、陽水のカナリアを口ずさみながらイメージの再構成をしようと考え直した。

コメント