浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

オスカー・フリードの「ヘンゼルとグレーテル」の主題による幻想曲

2009年09月15日 | もう一つの顔
マーラーの複数の交響曲の伯林初演を行うなど、歴史上の大指揮者と認識されながら数多くのレコヲドが忘れ去られたまま放置されてゐるのが今日取り上げるオスカー・フリートである。フリートは作曲家としてもセンセーションを巻き起こし、当時は絶大な支持を得てゐたことも忘れ去られてしまった。

マーラーの4人の弟子の中で筆頭に挙げられてゐたのがフリートだった。しかし、一つの管絃團に身を留めることが無かったことやナチを逃れて露西亜に亡命したこともあり、他の3人と比べて最も認知度が低くなってしまったやうである。メンゲルベルクは一つの管絃團のリーダーとして長年に亘り君臨した。そして名声を得たメンゲルベルクは数多くの放送録音や商業録音を残してゐる。一方、マーラーの評価はそれほどでもなかったワルターやクレンペラーはその分を長生きして補った。おかげでステレオ録音まで残されてゐる。

フリートを一番高く評価したマーラーの審美眼を信じて一度その作品にも耳を傾けていただきたいものだ。フリートの師でもあるフンパーディンクの「ヘンゼルとグレーテル」をもとにした幻想曲には、親しみのある名旋律が次々と登場する。それが単なるつぎはぎのメドレーではなく、一体となってまとまりのある一つの楽曲に仕上がってゐる。管絃樂のアレンジも素晴らしい。自身がホルン吹きであり、画家であり、犬のブリーダーでもあり、吹奏樂作品も作曲してゐるフリートだが、管楽器と打楽器群と色彩と犬の扱いに巧みを凝らしてゐるのが感じ取れる。

ただし、指揮者としてのフリートはマーラーの2番弟子メンゲルベルクに及ばないことが一つある。それは、管絃のピッチ調整に対する感覚である。メンゲルベルクのレコヲドは、らっぱ式録音時代のあの紐育フィルハーモニック交響樂團ですらきちんとした音程でレコヲドを残してゐるくらいだから、相当厳格な指導を行ってゐたやうだ。一方、フリートの関心事はもっと別なところに向いてゐて、どうやらチューニングに30分を費やすやうなエネルギーの使い方はしなかったやうである。

しかし、この演奏は伯林フィルハーモニーとのものであり、伯林國立歌劇場管絃團との演奏よりも音程やアンサンブルの不揃いは少ない。1928年の電気録音である。

盤は、米國Music & ArtsによるSP復刻CD CD1167。


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