梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之博多日記24・『私と沙翁』

2006年02月21日 | 芝居
博多座ビルの一階に、演劇関係書のみを扱う<紀伊国屋書店>がございます。歌舞伎はもとより、宝塚、能狂言、ストレートプレイなどあらゆるジャンルの脚本集、解説書、俳優写真集が集められ、小さい間取りながらも充実した品揃えです。
先日ここで、『シェイクスピア作品ガイド37』(出口典雄 監修/成美堂出版)という本を買いました。シェイクスピアの全作品のあらすじ、みどころ、ウンチクを、豊富な写真とともに紹介する、見て楽しく読んで納得のお得な一冊です。

中学生の頃、なんとなく『ロミオとジュリエット』や『オセロ』を読んだ(おそらく福田恆存訳)ことはあったのですが、さほど興味は魅かれませんでした。それが、私が歌舞伎俳優になり、そして歌舞伎以外の舞台も拝見するようになってから、あらためて各作品の面白さに気がつき、虜になっております。
よく言われることですが、やっぱり<コトバの魅力>ですね。ストレートに言えば三十秒で済みそうな用件も、美辞麗句と機知に富んだ言い回しで、五分近い長セリフになったりするのが、冗漫といえばそれまでなんでしょうが、そこがなんともいえないお芝居らしさ、遊び心ですよね。本来ならば英語の押韻があったり、駄洒落があるわけですが、小田島雄志さん、松岡和子さんはじめ、翻訳家の方々のご苦心で、日本語でも十分楽しめるのは、有り難いことです。

これまで、『夏の夜の夢』『マクベス』『リチャード三世』『ロミオとジュリエット』『ハムレット』『ペリクリーズ』『タイタス・アンドロニカス』『お気に召すまま』を生の舞台で拝見(ほとんどが蜷川幸雄さん演出)し、『冬物語』『オセロ』『ウィンザーの陽気な女房たち』をテレビ中継で観ることができましたが、まだまだ観たい演目はいっぱいです。
そういえば、シェイクスピアと歌舞伎のご縁も深いですね。古くは明治初期に『ヴェニスの商人』を翻案し『何桜彼桜銭世中(さくらどきぜにのよのなか)』の外題で上演したのを始めとして、仮名垣魯文の『葉武列土倭錦絵(はむれっとやまとのにしきえ)』は二十年ほど前に高麗屋(染五郎)さんが上演なさいました。また、なにも歌舞伎に翻案することもなく、ストレートプレイとしてのシェイクスピア劇に、歴代の歌舞伎俳優が主演なさっていることは皆様ご存知でございましょうし、昨年の菊五郎劇団による『NINAGAWA 十二夜』は大きな話題となりましたね。
コトバ遊びや洒落が駆使されるセリフ、エンターテイメント性豊かな芝居作り、共通する部分は多いと思いますが、人の心を打ってこそのお芝居。どちらも数百年の時を超えて、現代に生きる我々のに何かを伝えてくれるというのは、すごいことですね。

ありえないことですけれど、もし私がシェイクスピア作品のどれかを主演することになったら、何を演じるでしょうか? う~ん、観た演目からしか考えられないですけど、『ハムレット』のハムレットは面白そうだな…。『夏の夜の夢』で劇中劇をする職人さんたちも楽しそうだし、いっそ『マクベス』の魔女は?
でもその前に、今の私の滑舌では、あの長いセリフの一行もろくに言えません!

最後に…。

この世界はすべてこれ一つの舞台 人間は男女を問わず すべてこれ役者にすぎぬ

『お気に召すまま』に出てくるセリフです。