梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之博多日記18・『足下のおしゃれ?』

2006年02月15日 | 芝居
劇場で働く私たち歌舞伎俳優、演奏家さん、そして付き人さん衣裳さん床山さんといったスタッフの方々に至るまで、劇場内ではいわゆる<楽屋履き>を履いて、廊下や舞台裏を往来しております。
<楽屋履き>には、必ずコレ、といった規則はございません。雪駄をはじめとして、サンダルとかスリッパなど、様々です。サッとつっかけて出てゆけるのが身上ですから、まかり間違ってもスニーカーやズックなどの靴類は選ばれません。俳優さんは、雪駄が大半でしょうか。私は、写真のような履物です。裏はゴムなので滑りにくくていいです。
俳優さんによっては、足に白粉を塗る役用の履物を別に用意して、普段使いの履物が白粉で汚れないようになさったりもいたしますね。

雪駄や草履を履いておりますと、使い込むうちに鼻緒が切れたり裏革がはがれたりと、壊れてしまうことがございますので、その都度新しい物にとりかえたり、あるいは修理に出したりいたします。東京歌舞伎座ですと、楽屋に履物屋さんが営業にいらっしゃるので、その方から購入したり直しをお願いしたりいたします。
私は壊れるたびに新規に購入です。そそっかしい上にバタバタ走り回るので、しょっちゅう鼻緒が切れてしまいます。ですのであまり上等な物は買えませんが、柄や形状にはこだわって選んでおります。
…名題下部屋ですと、時には五十人以上の俳優がいるわけですから、楽屋の上がりかまちには、沢山の履物が並びます。そんな状態で、すぐに自分の履物を見つけるのはけっこう大変なんです。全く同じ形の履物を、三、四人が履いていることもざらで、何か目印をつけなくては判別できません。みなさん、たいていは鼻緒やかかとが当たる部分(履いたら見えなくなる)に印を書くことが多いですね。「◯◯三郎」という芸名なら「三」を書いたり、紋を簡略化して書いたり。なかには暗号のようなものもあったりして、なかなか楽しいです。誂えで、焼きごてで自分の芸名や屋号などを焼き付けてらっしゃる方もいらっしゃいます。

私の履物も、そろそろ鼻緒が緩んできました。東京に帰ったら、次のを選びませんとね。