梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之博多日記13・『勉強させて頂きます!』

2006年02月10日 | 芝居
『女伊達』を終えて、そろそろ一時間たつところです。
今日も無事に、そして元気よく勤めることができました。イキを合わせることは相変わらず難しいことですが、だんだんと慣れてきたかな、という感じです。いつも終演後に舞台を録ったビデオを見て、みんなで反省しているのですが、「ここがよくない」「明日はこうしたら」というような、ダメのだしあいだけではなく、ちょっと面白かった失敗や、おかしな出来事のリプレイに、一同爆笑することもしばしばです。決して深刻な雰囲気にならずに、明るい気持ちのまま明日への改善を考えることができるのは、とても有り難いことだと思います。
今日はたまたま、初日近辺の映像を見てみることになりました。つい十日前のことなんですが、やっぱり全員のイキも動きもバラバラで、完成度は全然低いものでした。毎日毎日の繰り返しの中では気がつかなかったことですが、しっかり着実に前進していたことにホッとすると同時に、これからも気を緩めずに、さらなる進歩を精進いたします。

さて、三月はお休みを頂くことは以前お伝えいたしましたが、三月八日、一日だけ舞台に出ることになりました。
といいますのは、今研修中の第十八期歌舞伎俳優研修生の、二回目の研修発表会がこの日にございまして、彼らは実技の発表として『修禅寺物語』を上演するのですが、全部の役数よりも研修生の人数が少ないので、主要な役は研修生が、脇役は卒業生が出演するというかたちになりまして、今回私が、<修禅寺の僧>のお役を勉強させて頂くことになったのです。
どちらかというと<老け>に近いお役ですので、どこまでなりきれるか不安ではございますが、以前から勉強してみたかったお役ですので、本当に有り難いことだと思っております。このような機会をくださった国立劇場養成課様、出演をお認め下さった師匠に感謝の気持ちでいっぱいです。ご指導は紀伊国屋(田之助)さんでございますので、万事を伺って一生懸命勤めて、研修生の晴れの舞台のお手伝いをさせて頂きます。

過去にこのような舞台に出させて頂いたことが一度ございます。十六期生の卒業発表会の、立ち回りの発表演目『小金吾の立ち回り』の小金吾役です。いわずとしれた『義経千本桜・小金吾討死の場』を改訂し、立ち回りを見せるために演出しなおしたもので、猪熊大之進も出てきませんから、小金吾も死にません。捕り手に囲まれて、キマッたまま幕になります。
研修発表会ではよく上演される演目で、指導は尾上松太郎さんです。私の卒業発表会のときもこの演目で、そのときは市川新七さんが小金吾役で出演して下さいましたが、今度は自分が勉強させて頂くこととなり、はじめて「からまれる」方の立ち回りを体験することができたわけですが、立ち回りのシンは動きすぎてはいけないということや、トンボを返す間の取り方、刀の扱い、手負いの役の動きや台詞まわしまで、沢山のことを学ぶことができました。
目の前で研修生の捕り手が<返り立ち>をしたり、あるいは花道で自分が<返り越し>されたり、「どんたっぽの合方」という下座に合わせたゆったりとした動きから「忠弥の合方」のスピーディーでスリル満点の早斬りまで、見得もたくさんさせて頂きましたし、なんだかしだいにこっちが興奮してしまって…。研修生全員が、私のキッカケで一斉に<三徳>を返り、打ち上げの見得とともに幕が閉まったときは、十六期生と一緒に、無事にやり遂げることができた喜びを分かち合い、感無量でした。
一回ぽっきりの舞台ですので、無論反省点も残りましたが、こういう機会でないと演じることができない役を経験することは、本当に色々なことを気づかせくれます。

来月の<修禅寺の僧>も、また新たな挑戦というわけで、真摯に、真剣に、十八期生と一緒にいい舞台をつくってゆきたいと思っております。
…少なくとも、「研修生より下手!」 なんて思われないように…。