梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

秋の夜長は怪奇とともに

2005年11月09日 | 芝居
今日はお芝居からはなれたお話をさせて頂きます。
『読書の秋』を意識するまでもなく、日頃からいろいろ本を読んでおります私ですが、最近とても面白い本に出会いましたので、ちょっと御紹介させて頂きたいと思います。

創元推理文庫の『日本怪奇小説傑作集』全三巻。第二巻まで読みました。明治から現代までの怪奇小説を選りすぐったアンソロジーなのですが、今まで「怪奇小説」というジャンルに食指が動かなかった私が、思わず知らず貪るように読み進めてしまったほど、それぞれの物語に魅了されました。
今まで知らなかったのですが、森鴎外、夏目漱石、芥川龍之介、谷崎潤一郎、三島由紀夫といった、いわゆる<文豪>たちも、このジャンルに素晴らしい作品を残しているのですね。この人々をはじめとして、二巻までで計三十三名の作家たちの、それぞれの独自の文体で丹念に紡ぎ出された恐怖、戦慄、謎の数々。たんに読者を怖がらせるというだけでなく、人知を越えた<大いなるもの>への畏怖、あるいは人間だれしもが抱えうるであろう<精神の闇>の底しれぬ深さがひしと感じられ、短編ばかりを集めたものにもかかわらず、ずっしりとした読みごたえで、大満足でした。はじめて接する作家ばかりでしたが、なかで「これは!」と思いましたのは、
大佛次郎『銀簪』
夢野久作『難船小僧』
村山槐多『悪魔の舌』
山田風太郎『人間華』
でしょうか。第三巻はまだ刊行されていないと思いますが、今からとても楽しみです。

…もともと私、怖い話が好きなクセに、夜は明かりをつけっぱなしじゃないと寝られないくらいの恐がりなんです。ですので、思い返せば、なんでこんな本を買ったのだろうと思うのですが、<怪奇>そのものよりも、上質の<物語>を楽しむことができたので、精神衛生上、何の問題もございませんでした。

芝居の世界にも昔から伝わる<怪談>が多々ございます。それらこそ、私の安眠をさまたげる、むき出しの<恐怖>なのですが、いつか皆様に御紹介することもございましょう。