梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

猫がニャーオと

2005年11月04日 | 芝居
今月の『大経師昔暦』の第一場で、猫の鳴き声が聞こえてくる場面が二ケ所あります。
まずは、助平な番頭、助右衛門が、下女のお玉にちょっかいをだしているところへ、邪魔するように。
続いては、そのお玉と、大経師家の家内であるおさんが、男選びの難しさを話している最中に。
最初の鳴き声はおさんが飼っている雌の三毛猫の鳴き声、次のはこの雌猫に引き寄せられた近所の野良猫の声。それぞれ鳴き方が変わりますが、この鳴き声も、私達弟子の立場の者の仕事でございます。
以前にも申しあげたかもしれませんが、ひろく<効果音>は弟子の仕事とされておりますが、なかでも<鳴き声>は様々な種類がございまして、ニワトリ、ウグイス、カラス、スズメのさえずり、秋の虫、面白いところでは赤ん坊の泣き声もございます。これらはみな、<笛>を使って音を出すものでございまして、<ニワトリ笛><ウグイス笛><虫笛><赤子笛>というように、それぞれ専用の笛が考案されております。ただスズメのさえずりは、<虫笛>の先っぽを、湯飲みに入れた水に浸けて吹くことで出しております。水の泡立つブクブクという音が、ちょうどうまい具合にチュンチュンと変化するのですね。
さて本題の<猫の鳴き声>ですが、これは笛などは使わず、江戸家小猫師匠のように、実際に「ニャーオ」と役者が言うのです。この他に、実際に役者が鳴き声を発するものは、先月上演しました『河庄』や、『高時』での、犬くらいのものでしょう(先月の『貞操花鳥羽恋塚』での鼠は、音響さんが、合成による鳴き声を担当していましたね)。
今回の猫の声担当は、私の一期後輩の中村竹蝶(たけちょう)さんです。セリフに合わせて鳴かなくてはならないので、キッカケを逃さないように気をつけてのぞんでいるとのこと。二ケ所の声の鳴き分けもバッチリですし、とっても猫っぽいと思います!

…しかしまあ、今月の歌舞伎座夜の部は、『日向嶋景清』で千鳥が飛び、続く『鞍馬山誉鷹』では白い大鷹、『連獅子』ではズバリ獅子が出て前半には蝶々もからみますし、そしてこの『大経師昔暦』の猫。生き物がいっぱい出てきますね。