梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

煙草入れあれこれ

2005年11月08日 | 芝居
先日「煙草盆」を御紹介しました以上、「煙草入れ」についても御説明しないわけにはまいりません。本日の写真は、やはり『大経師昔暦』で、師匠梅玉が使っております「煙草入れ」でございます。
「煙草入れ」は基本的に、写真下部の細長いモノ、キセルを入れる<煙管筒>と、写真上部の財布状のモノ、細かく刻んだ煙草の葉(単に「刻み」ということが多いです)を入れる<叺(かます)>から構成されますが、写真のように、<煙管筒>と<叺>を、共布で作ったものは「袂落とし」と呼んでおりまして、<煙管筒>を<叺>に挟んだ上で、懐に入れて携帯することになります。
これに対して、木製や象牙製の<煙管筒>に、紐で<叺>をつなげ、筒の部分を扇子と同じ要領で帯に差し込んで携帯するのが「筒差し」と呼ばれるもので、この場合<叺>は革製、布製など色々な場合がございます。
さらに、<煙管筒>と<叺>を、紐や鎖で<根付>につなげ、この<根付>を、帯の背中側やや右寄りに挟むのが「提げ煙草入れ」。
これらが基本的な「煙草入れ」の種類でございますが、役柄、演目、時代設定にあわせて、細工や大きさも変わりますし、様々なバリエーションがあることはいうまでもございません。

さて次は「煙管」についてですが、こちらも様々な種類があって御紹介しきれませんのでかいつまんで。
煙管は煙草を詰める<雁首>、管状になっている<羅宇(らお)>、口をつける<吸い口>から構成されます。<雁首><吸い口>は必ず金属製、<羅宇>は竹、木製になることが多いのですが、写真のように<雁首>から<吸い口>までをつなぎ目のない一本の金属でつくるものもありまして、これは<延べ煙管>とよんでいます。写真のものや、大きさは違えど『助六』の揚巻、『廓文章』の夕霧が使うのは<銀の延べ煙管>ですね。

写真をよく見るとおわかりになると思いますが、煙管の<雁首>に、すでに<刻み>が詰められております。これは、あらかじめ詰めておくことで、舞台でいざ煙草を吸う場面になって、演者は煙草を詰めるフリをするだけで済む。詰める作業に気をとられなくてよくなるというわけです。ただし、ニ服以上吸う場合は、ニ服目以降は自分で実際に詰めることになります。
<刻み>は、JTさんから出ている数少ない煙管用煙草「小粋」を使用しております。小さい紙袋に入っており、ある程度ほぐしてから<叺>に入れるのですが、放っておくと乾燥して粉々になってしまいます。そこで、ミカンの皮を小さくちぎったものを一緒にいれておくと、うまい具合に水分が伝わり、湿気らず、かつ扱いやすいまとまりとなるので便利です。
また、<煙管>は使っているうちにヤニが溜まってしまいます。そういう場合は熱湯を通して流し去ったり、紙縒りや針金を通して掻きだしたりすることで掃除をします。

…このヤニ掃除に、「味噌汁」が良いということが、昔から言い伝えられております。味噌の成分が効果的なのでしょうか。実際試したことはございませんが、『嫗山姥』の中で、煙草屋源七に、無理矢理煙草を何服も吸わされた敵役の太田十郎が、クラクラする頭をおさえながら、「コリャ味噌汁で行水をせねばならぬ」と嘆息するのは、そういうことを踏まえたセリフなのですね。