瀬崎祐の本棚

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詩集「ひかりの方へ」  中村明美  (2015/09)  版木舎

2015-09-22 22:59:18 | 詩集
 第3詩集。93頁に18編を収める。
 「釣り人が帰って」。釣り人が鰺を流し台に置いたまま眠ったので、「私らは/暮れ果てた地上から/泡立つ海へと/深く滑り落ちた」のである。起きているときの、言い換えれば、この世界で生きているときの私らは、内に孕んでいるものを隠しているのだろう。

   だから私らは
   闇の中で微かに光る
   背中の銀色の鱗を
   隠しもしないで
   深く
   その夜を眠ったのだ

 人には見られない場所で、私らははじめて別の世界へもぐりこんでいくのだろう。
 中村の作品の魅力は、地につくところを持たずに漂うような位置に世界が形成されているところにある。その世界は漂いながらも、この世界に匹敵する重さを有しているはずなのだ。
 「ねむる」は、「ねむるねむる るる」といったように、「るる」という音が繰り返しあらわれて、背を丸めて別の世界に入っていくイメージが巧みに作り出されている。「薄墨の底を行」くと、「鶏につかまった」り、「生臭い生き物の影が横切ったり」するのである。

   遠くに錆びたらせん階段。木戸病院は既
   に砂まみれで 日も暮れたし もうねむ
   るしかない るるる と沈み続ける。た
   ぶん そこでまたうまれるはずだ。

   ゆるしてね。もうみんな死んでしまって。

 ここでは、起きている世界と眠りの世界が生と死に結びついているようで、そのあわいを漂っている意識の独白が魅力的である。
 詩集の後半の作品には現実の世界の匂いがどこかに染みているようなものもあり、その点は私(瀬崎)にはちょっと残念であった。
 「家を曳く」の感想は、詩誌発表時に「現代詩手帖」詩誌評に書いた。
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