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詩集「反マトリョーシカ宣言」 大橋政人 (2022/10) 思潮社

2022-08-24 11:58:58 | 詩集
第16詩集。125頁に31編を載せる。

収められた作品の表面上の特徴としては、平易な言葉、短い詩行、ということになるのだろうが、そこにあらわされてくるものはかなりややこしい。自由に触手を伸ばした感覚が捉えた世界である。見た目の奥にあるものを捉えているのだ。まるで、小さな穴を何気なく覗きこんだら、その穴はずっと深いところへつづいている感じである。

「海」。ここで描かれる海ではのっぺりとした波が打ち寄せているようだ。子どもたちは「海面を/ベリベリベリと/引きはがしたりして/遊んでいる」のだ。海面の下をのぞきこんだりもできるのだ。一方で大人たちは、

   舟で沖に出て
   長い棒の先に
   水平線を引っかけて
   いま大きく
   浜まで引っぱってくるところ

作者が捉えた海は、己の形を持たない水が満ちている場所ではなく、まるで一枚の大きな布のように形を持っている。作者の中にひろがる海は、作者自身を包み込んでしまうようなものなのだろうか。

「りんかく線」。私たちはともすれば物事を形で捉えようとする、形にとじ込めようとする。そんな行為を、若干の皮肉もまじえて、ぬり絵にたとえている。

   始めは
   りんかく線だよ
   色は後からだよ

   りんかく線から
   色がはみ出していけないよ

   ぬり絵はいつも
   そんなことばかり言っている

本当の物事は形などにとらわれることはないのだ。この感覚は、チューリップに話しかける「カタチを脱ぐ」でも詩われている。

「空も悪い」では、話者は「空が大きいから/私は小さい」と言う。空としてはそんなことを言われても困ってしまうだろうが、この感覚は何となくわかる。この作品の最終部分は理屈など超えたところで共感を呼ぶ。ああ、そうだよな、と思ってしまう。

   私も悪いが
   空も悪い

   空があるから
   いつまでも
   私は悲しい

作者はまど・みちおを敬愛しているという。そして言葉の世界と実物の世界の違いを確認し、また精神実験の実験記録の記述したという。噛みしめると、ほのかな甘さの奥にしっかりとした味が潜んでいる詩集だった。
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