瀬崎祐の本棚

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詩集「水差しの水」 江口節 (2022/09) 編集工房ノア

2022-09-13 22:53:31 | 詩集
第10詩集。120頁に31編を収める。2つの詩集を挟んで、この10年間の作品を集めたとのこと。

「ギフト」。「沈みゆく太陽の光が」この世界に射しこむ。いちにちが終わるということは、次のいちにちが始まるということであり、それは今日を生きた者へのご褒美なのだ。

   いちにちを 生きるということ
   ときに 悔いのように
   あるいは 夢のように
   だが
   等しくご褒美をもらうのである
   このわたしにも

強制収容所で日没の光景を見逃さないようにしていたという逸話が重い。それを思えば、この”ギフト”に代えようのない意味を与えられるように、いちにち毎を生きなければいけないなあと、あらためて気づかされる。この詩集の作品は、そのように大事に生きていくなかから生まれてきている。

「普通電車」。特急や新幹線と違って、普通電車では沿線の風景が親しく感じられる。知っている風景にも知らない風景にも物語が共にあるのだ。そして最終連、

   「うまいめし屋があるんだ」と言ったな
   今もあるんだろうか
   遠い川を渡った息子が
   しばらく暮らした坂の街に

普通電車の窓外の風景は、逝ってしまった息子さんへの思いも連れてくるのだ。作品「花屋の前で」は、息子さんの婚約者であっただろう人へ向けたもの(詩誌発表時に簡単な紹介記事を書いている)。どちらの作品にも、波たつような高ぶりのものではなく、これからも作者の気持ちの底に静かに横たわりつづけるであろう切ない感情があった。

「皿が並べられ」。皿を見た「ちいさきひと」がまだ言葉にはならない声を漏らす。ちいさきひとの言葉はこれから増え、それは純粋に喜びに繋がるのだろう。かたや、言葉で詩を書こうとする話者は、その言葉を探しつづける。最終部分は、

   不自由で不完全なのは
   言葉なのかひとなのか、ただ
   ひとは
   広い大きい世界に支えられているのだと
   それだけは分かってくる

   詩を書いていると

こうして、詩を書いてこれからも生きていこうとする作者の思いが潔い。
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