瀬崎祐の本棚

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詩集「ラベンダー狩り」 大西久代 (2022/10) 七月堂

2022-11-25 22:40:56 | 詩集
105頁に28編を収める。

「燃えあがる」は、のうぜんかずらになってしまった話者のモノローグ。話者は鮮やかな朱色で次々に咲き続け、我が身を燃えあがらせている。落下していく分身の花も、「燃やしたものをとり込んで/再生を予感する」のだ。

   のうぜんかずらとなった私の転変
   針を含んだ口先さえ愛(いと)おしい

誰にでも大なり小なりの変身願望はあるだろう。何ものかに絡まりつきどこまでも空の高みに向かおうとする意志がこの変身にはあるようだ。鋭く尖った針も、我が身を守るというよりも、他者を攻撃することも厭わないという心根であるのだろう。

「ふね」は、浜に置き去りにされひっくり返っている、おそらくは朽ちようとしている古い木造船を詩っている。かつては女や男の物語もこのふねでくり広げられたのだろう。

   砂にめりこんだおもては
   とおい記憶を腐敗させてしまった
   幻の夏のさびしさを
   知るものだけがふねを痛める

どこかで我が身と重ね合わせた風景を見ていると読み取るのは、穿ちすぎか。

「ラベンダー狩り」では「一気に殺れ!」という「夜の声に促され」て話者は紫花を刈り取る。何があったのか、刈り取らなければならなかった説明はないのだが、そこにはやむに已まれないものがあったのだろう。根は鉢の中で細り、花は衰えていたのだ。

   その夜
   ないラベンダーの葉がひっそり
   震え続けた
   あの世の果てで
   くずれおちる微かな おと

詩集に収められたどの作品でも閉塞した状況が感じられる。そんな中で一生懸命に言葉を紡ぐことで耐えているような雰囲気があった。

詩集の最後近くには95歳で亡くなられたお母様を詩った作品4編も収められていた。ご冥福をお祈りします。
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