瀬崎祐の本棚

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詩集「あらゆる日も夜も」 川井麻希 (2018/09) 土曜美術社出版販売

2018-09-25 21:37:47 | 詩集
 第1詩集か。94頁に24編を収める。
「収斂」。どういう状況なのかは不明なのだが、「生きているその事実を吸いこんで不思議を吐きだ」しているのである。帰宅してきた小さな人は傷を負って血だらけで、読み手には夜がとても重いような感じられる。

   あらゆるものが体を閉じていく。眠ってしまうのだろう。
   空気が桃色に染まる。みんな同じひとつの色に染まって
   しまえばいい。私はひとり真っ黒なワンピースを着てい
   てそれがいけなかったのだと悔いるしかなかった。

 収斂していくのは何なのか。血の色も紛らわしてしまう黒色が、夜の暗さと呼応しているようだ。
 誰にとってもそうなのだろうが、これらの詩編は自分のために書かれているのだろう。他者への説明などはしないままに、自分の外へ表出することによって自分の内部とのバランスを保っているのだろう。

 「青灰色の瞳」。静かな声で「赦そうとそのひとは言った」のである。赦されるのは誰なのか、なにが赦されようとしているのか。そして赦されるまでの間になにがあったのか。ここでもそれらの具体的な説明はないままに、時の流れのなかで畏れで揺れている人がいるようなのだ。

   私たちは同じで違うから手を延べれば
   触れる
   今日だからつなぐことができる手を
   どの日にもはなさないで
   歩いていく

   赦そうとそのひとが言ったのだから

 もしかすればとても宗教的な意識があるのかもしれないが、それとは無縁の地点で読んだ。赦されて、私は、私たちは何かから救われたのだろうか。
 これらの作品があまりにも無垢のかたちで表出されているために、思わず作者を気遣ってしまいそうにもなる。そのように思わせる作品の善し悪しは、また別のところにあるのだが。
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