瀬崎祐の本棚

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詩集「夜更けわたしはわたしのなかを降りていく」 水出みどり (2017/10) 思潮社

2017-11-25 10:00:30 | 詩集
 第5詩集で93頁。Ⅰは行分け詩14編、Ⅱに散文詩9編が収められている。
「水のらせん階段を降りて」。そこには町が沈んでいたのだ。雪が降り、海鳴りが響く町である。そこでは言葉を発しないひとびとが行き交っているようで、

   ひとびとの背には
   まだひれが残っている
   行き交うとき
   ときにしなやかに優しく
   ときには愛撫するように激しく
   ひれを振りあう

 そして話者は、少女だった日に「みうしなった/父を/この町で探す」という。幻想的な情景と作者の切ないような思いが、自然に溶けあっている作品となっていた。

 「ぬぎ捨てた影を」は14行の短い作品だが、「月の光をぬすみ蛇が脱皮している」といった鮮やかなイメージを差しだしてくる。そしてわたしも「白いひかりを盗」んで脱皮しているのである。それは「赤い舌に/焔をとも」すことでもあるのだ。

 作者は医療従事者のようで、精神が脆くなった病室の人たちも描かれている。しかし、脆くなった精神を抱えた有り様は、そのままでその人の尊厳であるわけだ。生きた証があらわされていることに変わりはないだろう。

 詩集最後には、巻頭の「水のらせんを降りて」と呼応し合うように作品「夜更けわたしはわたしのなかを降りていく」が置かれている。わたしのなかには、わたしの知らない場所があり、そこを降りていくと、そこには海がひろがっていたのだ。

   いつかわたしは波のおおきな循環のひと
   しずくになる。寄せては返す波のひとし
   ずくになってあなたのなかへ還っていく。

 自分が何か大いなるものに組み込まれていたことに、あらためて気づいたのかもしれない。それはしずかに満ちてきてわたしを濡らすのだろう。
コメント
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