第5詩集で93頁。Ⅰは行分け詩14編、Ⅱに散文詩9編が収められている。
「水のらせん階段を降りて」。そこには町が沈んでいたのだ。雪が降り、海鳴りが響く町である。そこでは言葉を発しないひとびとが行き交っているようで、
ひとびとの背には
まだひれが残っている
行き交うとき
ときにしなやかに優しく
ときには愛撫するように激しく
ひれを振りあう
そして話者は、少女だった日に「みうしなった/父を/この町で探す」という。幻想的な情景と作者の切ないような思いが、自然に溶けあっている作品となっていた。
「ぬぎ捨てた影を」は14行の短い作品だが、「月の光をぬすみ蛇が脱皮している」といった鮮やかなイメージを差しだしてくる。そしてわたしも「白いひかりを盗」んで脱皮しているのである。それは「赤い舌に/焔をとも」すことでもあるのだ。
作者は医療従事者のようで、精神が脆くなった病室の人たちも描かれている。しかし、脆くなった精神を抱えた有り様は、そのままでその人の尊厳であるわけだ。生きた証があらわされていることに変わりはないだろう。
詩集最後には、巻頭の「水のらせんを降りて」と呼応し合うように作品「夜更けわたしはわたしのなかを降りていく」が置かれている。わたしのなかには、わたしの知らない場所があり、そこを降りていくと、そこには海がひろがっていたのだ。
いつかわたしは波のおおきな循環のひと
しずくになる。寄せては返す波のひとし
ずくになってあなたのなかへ還っていく。
自分が何か大いなるものに組み込まれていたことに、あらためて気づいたのかもしれない。それはしずかに満ちてきてわたしを濡らすのだろう。
「水のらせん階段を降りて」。そこには町が沈んでいたのだ。雪が降り、海鳴りが響く町である。そこでは言葉を発しないひとびとが行き交っているようで、
ひとびとの背には
まだひれが残っている
行き交うとき
ときにしなやかに優しく
ときには愛撫するように激しく
ひれを振りあう
そして話者は、少女だった日に「みうしなった/父を/この町で探す」という。幻想的な情景と作者の切ないような思いが、自然に溶けあっている作品となっていた。
「ぬぎ捨てた影を」は14行の短い作品だが、「月の光をぬすみ蛇が脱皮している」といった鮮やかなイメージを差しだしてくる。そしてわたしも「白いひかりを盗」んで脱皮しているのである。それは「赤い舌に/焔をとも」すことでもあるのだ。
作者は医療従事者のようで、精神が脆くなった病室の人たちも描かれている。しかし、脆くなった精神を抱えた有り様は、そのままでその人の尊厳であるわけだ。生きた証があらわされていることに変わりはないだろう。
詩集最後には、巻頭の「水のらせんを降りて」と呼応し合うように作品「夜更けわたしはわたしのなかを降りていく」が置かれている。わたしのなかには、わたしの知らない場所があり、そこを降りていくと、そこには海がひろがっていたのだ。
いつかわたしは波のおおきな循環のひと
しずくになる。寄せては返す波のひとし
ずくになってあなたのなかへ還っていく。
自分が何か大いなるものに組み込まれていたことに、あらためて気づいたのかもしれない。それはしずかに満ちてきてわたしを濡らすのだろう。