桑の海 光る雲

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槍穂縦走・その5

2010-09-01 19:27:40 | 旅行記

穂高岳山荘はそういうわけで満員であり、自分の寝床で夜までを過ごすことができない。外のテラスもツアー客や自炊する人達に占領されており座ることもできない。仕方なく、玄関横のテレビ前のスペースか、本棚のある読書スペースにある椅子に腰掛けて時間を過ごす他はない。

もちろん有料のインスタントコーヒーなどをすすりながら、夕食までの長い時間を過ごした。椅子に座って寝ようとも思ったのだが、ここは玄関横、人が入れ替わり立ち替わりするのと、おばさま方が声高におしゃべりしているのとで、とても寝られる雰囲気ではない。読書室の本をあれこれ読みながら2時間ほども過ごしただろうか。途中空腹のあまり800円也のラーメンをすすったが、インスタントではなさそうであった。

さて、その夜に同じ布団に”同衾”することになった学生風の男性とは、ちょっと言葉を交わしただけであった。布団も俺がいない間に敷いてくれていた。たまに寝床に戻ると、さらに隣に寝ることになった別の男性と話をしている。何だか俺が長い時間寝床に来ないので、ちょっと困っているようである。

長い間待ってようやく夕食である。満員であるため3回交代制で、部屋ごとに呼ばれて食べに行く。1回目では俺の部屋は呼ばれなかった。ところが、スタッフが5人分席が空いているという。すぐに4人は埋まったが、1人は最後まで埋まらない。スタッフが2度目に声をかけて回っているのに応じて食卓に着いた。夕食のメニューはこれまで泊まったキレット小屋・剱山荘・槍ヶ岳山荘とあまり変わりはないが、一番豪華な感じがした。同じ食卓の人達は半分くらい食べ終わっていたわけだが、早食いな俺は他の人達に先んじて食べ終え、さっさと読書室の椅子に戻った。

その後もひたすら読書を続けた。特に深田久弥の著作集と「山と渓谷」があったのはありがたかった。気温が下がってきたので紅茶(インスタント・1杯250円也)を2杯飲んだが、これがいけなかった。8時前になったので持ってきたサプリを飲み、狭い寝床に入って寝ようとしたのだが、少しも眠くならない。隣の夫婦と話していると、上の階からグループが声を合わせて歌を歌っているのが聞こえてくる。9時を回ったので耳栓をして寝ようとするが、まったくダメである。周囲からは寝息やいびきも聞こえてきたが、とにかく眠れない。隣にいる男性もそのようである。消灯時間になって一斉に部屋の電気が消えたが、状況に変わりはない。

いつしか眠りに落ちたのだろうか?眩しさで目が覚める。見ると、暑さのためにだれたが入り口の戸を開けたままにしたらしいのだが、そこから廊下の電灯の明かりが入ってきて、何と俺の顔にだけ差し込んでいたのだった。両隣の男性の顔には当たっていない。これにはまいった。目を閉じても気になって仕方がない。その上外はかなりの風が吹いているらしく、ひゅーひゅーという音も聞こえてくる。しかも満員の部屋はかなり蒸し暑い。多くの人が毛布から手や足を出して寝ている。疲れている体なのに、このまま行くと眠れないまま夜が明けてしまう恐れがある。

そこで思い切って廊下を挟んだ向かいの部屋に行くことにした。ここは誰も使っておらず、それはツアー客を引率するガイドを泊めるために確保した部屋だからだという噂が流れていた。それがなければ、俺はさっさとこの部屋に移動して寝るところだったのだが、山小屋では時に夜でも宿泊客がやってくることがある。それで皆が遠慮して、この部屋に行くことはなかったのである。でも、俺の部屋に最後に入った人は、隣にたまたま誰も来なかったために、2人分の寝床を1人で使っている。携帯の充電が切れたので時間はわからないが、真夜中にやってくる登山客はいないだろうし、俺がいなくなれば隣の男性も少しはゆっくり寝られるだろうと勝手に決め込み、思い切ってその時間になっても無人のその部屋に移動し、布団を敷いて寝ることにしてしまった。

その後はそれまでに比べるとやや眠れたように思う。でも、部屋はちょうど外のキャンプ場で寝ている人が、小屋の外にあるトイレを利用するために、ヘッドランプを付けて歩いていくルートに面していたので、そうした人が来るたびに足音とライトの明かりで目が覚めてしまうのは困ったものであった。

結局翌朝までの間にトータルで2,3時間しか眠れなかったように思う。隣に寝ていた男性も大して眠れなかったようだ。部屋の明かりが一斉に点くと、部屋の半分ほどの人は既に出発していた。彼らは奥穂高岳の山頂で日の出を見るために、暗い中出発していったのである。窓の外を見ると、雲海の彼方が赤く染まり始めている。夕べは一面のガスの中であったが、朝になるとやはり晴れた。山の天気とは不思議なものである。きっと今日も午前中は良い天気で、昼になるにつれて雲が出てきて、午後は曇って雷雨になるのだろうと予想された。

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