桑の海 光る雲

桑の海の旅行記・エッセー・書作品と旅の写真

書道について47

2008-05-07 21:26:42 | 日記・エッセイ・コラム

○3年生の頃⑧

今井先生のお宅でコレクションを拝見し、一番大きな制作室で皆で先生を囲んで記念撮影をした。この時の写真は、今井凌雪・村上翠亭という、「書道に親しむ」という番組を通じて、私を書の道に導いた大恩人の両先生と一緒に写った唯一の、そしてそんな意味で私が最も大切にしている写真である。

今井凌雪先生との出会いは、実はその時が始めてではなかった。3年生の夏に、大学の先生の中村伸夫先生から「今度雪心会展が上野の森美術館であるんだけど、そこで筑波の学生も交えて座談会をしたいと先生が言っている。できれば雪心会員ではない学生がいいとも言っているので、できれば君に行ってほしいんだけど。」と言われた。私は彼の今井先生と直に接することができると聞き、即座に承諾した。

座談会の前に一通り作品を鑑賞し、印象をメモするなどしたが、今井先生に会えるという緊張感で、個々の作品の細かな感想はまとめられなかった上、それも座談会では少しも役に立たなかったのだった。

控え室で座談会は始まった。私は何と今井先生の向かいにOさんと並ぶことになった。先生は病気が回復されたばかりであったが、テレビで見たのと同じ、にこやかな表情をたたえておられた。座談会には、今井先生と中村先生、西橋香峰先生、中国からの留学生の鄭さん、大学の先輩の池田さん、そして在学中の先輩であるOさんと私。私は最年少で、しかも居並ぶ方々は錚々たる面々で、私は緊張しきってしまった。

座談会の前半は、半分以上が先生の独演会で、それに他の先生方が一言二言コメントを加えるという感じで、私とOさんは出る幕がなかった。しかし、後半に入って先生から直にコメントを求められ、思いつくことをぽつりぽつりと話し始めた。すると話したことの10倍くらいのコメントが先生や先輩方から返ってくる。それに対してコメントを求められると、私は答えに窮してしまった。(後で座談会の内容が「新書鑑」にまとめられたが、私はろくな発言をしていない。)

ただただ冷や汗と顔を赤らめるばかりの座談会は2時間ほどで終わったが、全体としてやはり先生の独演会で、後で中村先生に頼まれ、私が文字に起こしてみると、今井先生と中村先生のやり取りだけで座談会全体の4分の3以上を占めていたのだった。

座談会は私自身にとっては極めて不十分なものに終わってしまい、大変心残りなことであった。しかしその3年後、私もOさんもともに雪心会に入会し、今井先生に師事することになるのである。思えばこの座談会が、今井先生に私が師事する大きなきっかけとなっていたのだった。

コメント
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