みちのくの山野草

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高瀬露に関する著作の奇妙な扱われ方

2018-06-04 10:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露
 私は5月末時点では、
 高瀬露の〈悪女〉の濡れ衣を晴らそうとする著作に関しては以前からどうも変な事態が起こっている。そしてそれと似たようなことがこうしてまたもや起こってしまうと、私のある懸念は益々強まってくるのだが、それは次回へ。
と述べようと思っていたのだが、今回はその「似たようなこと」の一つに関して論じてみたい。

 私は11年ほど前から、恩師岩田純蔵先生(宮澤賢治の甥)の黙示のミッションとでも言えばいいのだろうか、私が恩師から与えられた使命だと思って賢治のことを調べ続けてきた。
 それは今から半世紀も前のことだが、賢治の甥である恩師は私たちを前にして、
 賢治はあまりにも聖人・君子化され過ぎてしまって、実は私はいろいろなことを知っているのだがそのようなことはおいそれとは喋れなくなってしまった。
という意味のことを嘆いたことがあるからだ。
 実際調べてみると、「賢治年譜」等において常識的に考えればおかしいと思われるところが、特に「羅須地人協会時代」を中心にして幾つか見つかる。そこでそれらの検証等をしたところ、やはり皆ほぼおかしかった<*1>。ということは、これらのことなどが、恩師が嘆いていたことの具体例だったのだろうか。

 そしてその中の一つに、巷間、〈高瀬露悪女伝説〉といわれているものがあった。しかし、この伝説はある程度調べてみれば信憑性の危ういことが容易に判る。したがって、この伝説によって高瀬露は、いわれなき〈悪女〉という濡れ衣を着せられ、人格が貶められ、尊厳が傷つけられているという瑕疵が賢治に関わって存在していることになりそうだ。となればそれは重大なことである。もちろん人権問題そのものだからだ。

 このことについては、上田哲が新たな証言や客観的資料を基にして再検証し、当時勤務していた七尾短期大学の論文集である『七尾論叢 第11号』(平成八年)に、「「宮沢賢治伝」の再検証㈡―<悪女>にされた高瀬露―」と題して論文を発表した。それまでは宮澤賢治研究家の誰一人としてこの伝説を本格的に検証した人はおらず、等閑視してきた。それ故に、世間は一方的な情報のみを受け容れ続けてこの<悪女>伝説を生んだと言えそうだが、それを上田が他に先駆けて再検証してみたところ、実はそれは冤罪的伝説であったということが実証できたという、画期的でほぼ唯一の論文であろう。ところが私は当初この論文を見ることができなかった。

 まずは、賢治に関してはほとんどの図書等が揃っている『宮沢賢治イーハトーブ館』に訊いてみたところ、『同第11号』はなかった。次に上田哲のお嬢さんが、『父は、岩手県立図書館に同号も寄贈しているはず』と言っている、ということを私は知人から教わったので同館に訊いてみた。すると、他の幾つかの号はあったが、肝心の『同第11号』は所蔵されていないという。そこで今度は、花巻市立図書館にお願いをして国会図書館に問い合わせてもらったところ、他の号はほとんど所蔵されているが『同第11号』はないという。
 そこでいっその事、七尾短期大学に問い合わせようとしたところ、もはや同学は存在していなかった。それならばと、石川県立図書館を直接訪れてみたのだがやはり所蔵されていなかった。『同論叢』は第1号~20号までの全20巻があるのだが、唯一『第11号』だけがないという。そこで、七尾市立図書館ならばと思って直接当館を訪ねてみたのだが、残念ながら他の号はあっても同号はなかった。
 なお石川県立図書館の館員から、金沢大学には所蔵されているであろうということを教わったので、私の知人を介して直接調べたもらったところ、確かに同大学の付属図書館には『第11号』が所蔵されているという。

 つまり、私が調べた限りにおいては、『七尾論叢 第11号』(平成八年)の現物が所蔵されている図書館は金沢大学付属図書館だけである。しかし、同館は一般人が少なくとも気軽に行ける所ではない。したがって、私が知る限りでは、市井の人が行ける公的な図書館等で『七尾論叢 第11号』を閲覧できる所はなく、同論文を読むことは現実的にはほぼ不可能であろう。

 一方私は、この『第11号』を是非とも見てみたいと思ったのであれこれ手を打ってみた結果、当時『七尾論叢 第11号』の編集委員であった三浦庸男氏(当時埼玉学園大学教授)を知ることができて、同氏から『同第11号』をお譲りいただけたので現在はそれを所有している。そこで、この論文を多くの方々に読んでもらいたいと願って、上田哲のご遺族から同論文の転載許可をいただき、その旨を三浦教授にご報告したところ、もはや七尾短期大学は存在していないということもあり、転載は問題ないだろうという御判断を貰えたので、上田哲との共著『宮澤賢治と高瀬露』

を平成27年に自費出版した次第だ。そしてその第一部として、上田哲の論文
  「宮沢賢治伝」の再検証㈡ ―〈悪女〉にされた高瀬露 ―
  (『七尾論叢 第11号』(吉田信一編集、七尾短期大学発行)所収)
をそこに転載させてもらった。

 このことを通じて私が危惧していることは、〈高瀬露悪女伝説〉を検証し、それを公にすることを妨げる何らかの不可解な力が働いているのではなかろうかということであり、高瀬露は〈悪女〉などではないと主張する著作が広く読まれることを歓迎していない動きが一部にあるのかな、とさえもつい疑わざるをえないのであった。どうも、高瀬露に関する著作が奇妙な扱われ方をされている、ということを私は否定しきれない。

<*1:註> この度出版した『本統の賢治と本当の露』(鈴木守著、ツーワンライフ出版、定価(本体価格1,500円+税))の第一章「本統の賢治」においてもこれらのことを論じている。

 本書は、「仮説検証型研究」という手法によって、「羅須地人協会時代」を中心にして、この約10年間をかけて研究し続けてきたことをまとめたものです
 現在、岩手県内や東京の書店におきまして販売されおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813
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