みちのくの山野草

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『イーハトーブ騒動記』について(#2)

2016-05-30 08:30:00 | 賢治関連
《創られた賢治から愛すべき真実の賢治に》
朝日新聞岩手版の報道
 さて、「さっさと帰れ」発言があったと騒がれた6月23日の翌日の24日付「朝日新聞岩手版」には、
    「さっさと帰れ」とヤジ/花巻市議、傍聴席の被災者に――
という見出しの次のような記事が載ったと、前掲書は紹介している。
 ……義援金の使途などを議論していた花巻市議会で二十三日、二階傍聴席にいた震災被災者たちが、男性市議から「さっさと帰れ」と言われたと訴えた。市議会は本会議終了後に各派代表会議を開き、事実関係の調査を始めた。
 議会では一般会計補正予算案が上程され、義援金の使途などについて議論された。正午前に午前中の質疑が突然打ち切られ、傍聴席がざわついた時、議員席からヤジが飛んだ。傍聴席にいたのは市内の温泉旅館に避難している大槌町民ら約二十人。夫を亡くした女性(七十歳)は「私たちの心の痛みを理解してほしい」と語った。
              <『イーハトーブ騒動記』(増子義久著、論創社)55pより>
 ただし、この記事の中にはかなり危惧されるところがある。それは、
   正午前に午前中の質疑が突然打ち切られ、傍聴席がざわついた時、議員席からヤジが飛んだ。
という一文である。もう少し分析的に言えば、
 まずは「正午前に午前中の質疑が突然打ち切られ」についてだが、そのようなことは前掲書は述べてはいないから、これは朝日が取材をしてしかも裏付けを取ったものかどうか、ということである。
 次に「傍聴席がざわついた時」と続けているが、先のような文書表現になっていれば、突然打ち切られたことが原因となって傍聴席がざわついたと、読者の中には解釈する人もあると思うが、それでよいのか。
 そして最後に「議員席からヤジが飛んだ」と断定しているが、断定表現をしている以上はその裏付けを取っているものとは思うが、その根拠は何か。わけても、はたして議会側・議員達からはそのことについての取材を朝日はしたのかという懸念だ。

議長から朝日新聞社に対する照会
 そしてその危惧どおり、6月27日に議会側から朝日新聞社への照会があったことを前掲書は次のように紹介している。
議長から朝日新聞社に対し、掲載記事に関する紹介状。「このことについて本市議会で二十三日、議員個々人を調査したところ、そのような発言をした事実は一切ないことを確認いたしております」とした上で、いかについて二十九日までに回答するよう求める内容。

①記事の内容は、朝日新聞社の記者の方傍聴席の被災者から直接確認され、また直接「ヤジ」をお聞きになりましたか。
②記事は「二階傍聴席にいた震災被災者たちが、男性市議から「さっさと帰れ」と言われたと訴えた」とありますが、具体的には誰が誰に対して発言したものですか。
③この件について、議会側のコメント取材のないまま、記事にされた理由をお聞かせ下さい。
④記事中に「正午前に午前中の質疑が突然打ち切られ」とありますが、昼食前、当局側への確認のため休憩を、いったん十二時になった時点で解き、改めて再開した後、昼食のために休憩に入ったものであります。なぜ、「正午前に……」という表現を用いられたのか理由をお聞かせください。
              <同56pより>
そして同書は続けて、この照会に対しての朝日新聞の回答を次のように紹介している。
 朝日新聞盛岡総局は④の事実誤認の部分については謝罪したものの、その他については「取材源の秘匿」を理由に回答を拒否した。
              <同56pより>
 ということであれば、私から見れば、どうも朝日新聞社の取材姿勢には問題があったということを否定できない。まずは④が事実誤認であったということを認めたわけだから、朝日は議会側には確りと取材をしていなかったことがこれで明らかだからだ。おのずから、上掲6月24日の新聞報道そのものの信憑性までが危ぶまれてしまう。また、①、③について「「取材源の秘匿」を理由に回答を拒否した」という論理が私には全く理解できない。
 また一方で、前掲書によれば「このことについて本市議会で二十三日、議員個々人を調査したところ、そのような発言をした事実は一切ないことを確認いたしております」と議会は朝日に伝えているというが、「議員個々人を調査したところ、そのような発言をした事実は一切ないことを確認」したからといって、「さっさと帰れ」発言が一切なかったという論理には無理があろう。この照会状において③を掲げているように、議会側もそれと同じ論理で傍聴者から聞き取りをせねばなかったはずだからだ。

「議員発言調査特別委員会」の設置
 そして同年6月30日に「議員発言調査特別委員会」が設置され、委員長は
 このまま放っておくと議会の権威を傷つけることになり、市民からも不信の声が高まることを危惧するものです。議会の権威を守り、正常化を果たすため、一生懸命、取り組んでまいります。
              <同56pより>
と就任のあいさつをしたという。
 そしてこれまた前掲書によれば、同年7月4日には傍聴者などからの聞き取りをするために「小委員会」が設置され、傍聴者全員に聞き取りをし、増子氏も尋問されたということだが、その際に委員長は、
 本会議(六月二十三日)において、増子議員は「先ほど議員席から傍聴席に来ている人に向かって「さっさと帰れ」と暴言を吐いた議員がいるので、厳重に注意してください」と発言しています。このことの真意を確認するために、本委員会は設置されました。増子議員は実際にその発言を聞いているのですか。
              <同57pより>
と訊ねたとある。
 ということであれば大きな問題が生じていることに気付く。それはもちろん、先に触れたように前掲書の54pに、増子氏は
 (六月二十三日の)午後の審議の最後にわたしは議長に対して、「これが事実だとすれば、被災者のこころを傷つけるだけではなく、議会全体の品位を汚す許されざる行為だ。事実関係を調査してほしい」と申し入れた。
と述べており、その内容とこれは異なっているし、とりわけ「小委員会」における委員長の質問には重要な前置き「これが事実だとすれば」が欠けていることにである。これがあるとないとでは話は全く違ってしまう。

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◇ 拙ブログ〝検証「羅須地人協会時代」〟において、各書の中身そのままで掲載をしています。

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