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「賢治研究」の更なる発展のために

2019-05-22 10:00:00 | 「賢治研究」の更なる発展のために
〈『ナーサルパナマの謎』(入沢康夫著、書肆山田)の表紙〉
「賢治研究」の更なる発展のために
荒木 さて、入沢先生が「もっとも必要なもの」として強調するところの二つ、
・何が真実で、何が真実でないかをあきらかに見極めたいという、誠実な探究心
・見極めたものを、ほかの人々と、隔てなくわかち合いたいという熱望
を常に心懸けていれば、俺達は道を誤ることはないと思い始めてはいるのだが、では、その具体的方法論はどうすればいいのだろうか?
鈴木 それは、それこそ石井洋二郎氏のあの式辞が教えてくれると思うのだが。
荒木 それって、どんなものだったっけ。
鈴木 それは、平成27年3月の東京大学教養学部学位記伝達式における学部長石井洋二郎氏の式辞であり、その中で同氏は、あの有名な「大河内総長は『肥った豚よりも痩せたソクラテスになれ』と言った」というエピソードを検証してみたところ、
 早い話がこの命題は初めから終りまで全部間違いであって、ただの一箇所も真実を含んでいないのですね。にもかかわらず、この幻のエピソードはまことしやかに語り継がれ、今日では一種の伝説にさえなっているという次第です。…(投稿者略)…
 あやふやな情報がいったん真実の衣を着せられて世間に流布してしまうと、もはや誰も直接資料にあたって真偽のほどを確かめようとはしなくなります。
 情報が何重にも媒介されていくにつれて、最初の事実からは加速度的に遠ざかっていき、誰もがそれを鵜呑みにしてしまう。
         〈「東大大学院総合文化研究科・教養学部」HP総合情報平成26年度教養学部学位記伝達式式辞(東大教養学部長石井洋二郎)〉
とまず述べて警鐘を鳴らした式辞であり、当時かなり話題になったそれだ。
 そこで私はこの式辞を知って、賢治に関する「定説」や「通説」そして「年譜」の幾つかにおいてまさに石井氏の指摘どおりのことが起こっていると頷いた。そこには、あやふやな情報を裏付けも取らず、あるいは検証もせぬままに、それが真実であるかの如くに断定調で活字にして世に送り出されたものなどが少なからずあることを、ここ約10年間の検証作業等を通じて私は痛感してきたからだ。
吉田 たしかに、「もはや誰も直接資料にあたって真偽のほどを確かめようとはしなくなります」ということが、賢治に関わる分野でさえも起こっているという場面に僕も何度か遭遇してきた。
鈴木 さらに石井氏は続けて、
 本来作動しなければならないはずの批判精神が、知らず知らずのうちに機能不全に陥ってしまう。
と懸念している。まさにそのとおりで、例えば、
・昭和二年は非常な寒い氣候……未曾有の大凶作となった。
・一九二七(昭和二)年は、多雨冷温の天候不順の夏だった。
というような、事実誤認の証言を全く疑わずに、鵜呑みしたかの如き記述が今でも横溢している。
吉田 そういう点では、僕自身も反省していることがある。
荒木 どういう点がさ。
吉田 例えば、
    稲の最適土壌は中性でも、ましてアルカリ性でもない。
ということなどがある。
 以前に一度白状したことがあるように、「水稲にとって最適な土壌は中性でも、ましてアルカリ性でもなく、弱酸性~微酸性(pH5.5~6.5)であるということである」ということについては、鈴木が主張する以前は僕も全く知らなかった。というか、酸性土壌の日本の場合には、石灰を播けば播くほど収穫量が増すとばかり思い込んでいた。まさに「批判精神が機能不全に陥っていた」といえるんだな。
鈴木 そして、石井氏は同式辞を、
 あらゆることを疑い、あらゆる情報の真偽を自分の目で確認してみること、必ず一次情報に立ち返って自分の頭と足で検証してみること、この健全な批判精神こそが、文系・理系を問わず、「教養学部」という同じ一つの名前の学部を卒業する皆さんに共通して求められる「教養」というものの本質なのだと、私は思います。
と締めくくっている。
 そこで私は、一般に「賢治に関する論考」等においては、裏付けも取らず、検証もせず、その上典拠を明示せずにいともたやすく断定表現をしている個所が多過ぎるのではなかろうかということを懸念していたし、もともと私は早い時点から「学問は疑うことから始まる」と教わってきたので、その認識を新たにした。つまり、たまたまそう教わってきたから、
 自分で直接原典に当たり、実際自分の足で現地に出かけて行って自分の目で見、そこで直接関係者から取材等をしたりした上で、自分の手と頭で考えるというアプローチを心掛けてきた。
のであり、これでよかったのだと安堵したのだった。これが私の具体的な方法論であったし、石井氏が教えているそれだとも思う。つまり私は、何のことはない、当たり前のことをただ愚直にやって来ただけだ。
吉田 ところが、というか、それ故にこそ鈴木は、その方法論によって、
 賢治に関しての幾つかのあやかしや、知られざる真実や新たな真実を、延いては本統の賢治を明らかにできた。
ということになりそうだな。
鈴木 お陰様で、いわば賢治の地盤とも言える現「賢治年譜」において、幾つかの大事な場所で液状化現象が起こっていることを幸いにも私は明らかにできた。
 とはいえ、私の主張が全て正しいと言い張るつもりはもちろん毛頭ない。それは、私が定立した仮説が検証できたといっても所詮仮説に過ぎないからだ。しかしながら、私の場合の検証は定性的な段階に留まらずにできるだけ定量的な検証もしたものだ。だから当然、反例が提示されれば私は即その仮説を棄却するが、されなければしない。しかも、例えば、『新校本年譜』には例の「三か月間の滞京」を始めとして幾つかの反例が現にあり、一方でそれに対応する私の立てた仮説には反例が存在しないから、同年譜は修訂が不可避だというものもある。だから、はたして自己満足<*1>だけでいいのだろうかという疑問も実はあった
 そんな折、石井氏のこの式辞を知ったことにより、私は今までのような考え方を改め、「賢治研究」の更なる発展のために、おかしいところはやはりおかしいと粘り強く主張し続けることにした、という次第だ。
吉田 そうだよ。そのような事を怠れば、「賢治研究」のこれからの発展はあまり望めない、ということは歴史が教えてくれているところでもあるのだから。
荒木 しかも、そんな脆弱な地盤にまともな建物が建つわけがないしな。
吉田 そこで僕等のこれから為すべきことが明らかになる。「賢治研究」の更なる発展のために、その液状化現象を解消すべく自らも泥まみれになることだ、と。
荒木 俺、あまりまみれたくはねえな。

<*1:投稿者補足> 『本統の賢治と本当の露』の106p~において、 
 そこで正直に言えば、私の検証結果の方が実は真実ではなかろうか、ということを訴える機会と場があればな、と思わないでもない。とはいえ、私の検証結果は賢治の「年譜」や「定説」そして「通説」とは異なるものが多いし、たとい「仮説検証型研究」という手法で検証できたからといってそれが100%正しいと言えるのかと訝る人も多かろうから、今直ぐにはそれは無理だろうということは充分承知している。
 そしてそんなことよりも何よりも、私自身がまずは真実を識りたい、本統(本当)の賢治を知りたいという一念だったから、自然科学者の端くれとして、「仮説検証型研究」等によって幾つかの真実等を明らかにできたことだけで自己満足できたし、それで十分な約10年間だった。しかも結果的にではあるが、「羅須地人協会時代」の賢治は「己に対してはとてもストイックで、貧しい農民のために献身した」と以前の私は思い込んでいたのだが、一連の実証的な考察結果から導かれる賢治はそれとは違っていて、それこそ「不羈奔放」だったとした方が遥かにふさわしい面もあったのだということも識ることができ、《創られた賢治から愛すべき本統の賢治に》より近づいたということで私自身はとても嬉しかった。賢治にも結構人間味があって、以前よりも遥かに身近に感じられるようになったのだった。
と述べたことに対応する。

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 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月231日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
 その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました
 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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