みちのくの山野草

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「演習が終るころはまた」の「演習」とは

2019-08-27 16:00:00 | 子どもたちに嘘の賢治はもう教えたくない
《ルリソウ》(平成31年5月25日撮影)
子どもたちに嘘の賢治はもう教えたくない

 今度は、賢治が昭和3年8月10日に実家へ戻った件についてである。このことについては、
 八月、心身の疲勞を癒す暇もなく、氣候不順に依る稻作の不良を心痛し、風雨の中を徹宵東奔西走し、遂に風邪、やがて肋膜炎に罹り、歸宅して父母のもとに病臥す。
              〈『宮澤賢治研究』(草野心平編、十字屋書店)所収の「宮澤賢治年譜」より〉
が通説だと私は認識していた。
 ところが、『阿部晁の家政日誌』等によって当時の花巻の天気を調べてみると、《表5 昭和3年6月~8月の花巻の天気》の如くだった。

 よってこの表からは、この年の夏はいかにも夏らしい日が続いており、気候不順であったとはとても思えない。また、「風雨の中を徹宵東奔西走」するような、「風雨」は続いていないことも覗える。
 さらには賢治の健康状態に関する証言等を調べてみると、この「通説」を否定するものも少なからずあったので、これもおかしいということに気付いた。
 要するに、「風雨の中を徹宵東奔西走し、遂に風邪」をひくというような「風雨」が8月10日以前にあったとは考えられないのだ。

 一方、賢治が教え子澤里武治に宛てた同年9月23日付書簡(243)には、
……やっと昨日起きて湯にも入り、すっかりすがすがしくなりました。六月中東京へ出て毎夜三四時間しか睡らず疲れたまゝで、七月畑へ出たり村を歩いたり、だんだん無理が重なってこんなことになったのです。
演習が終るころはまた根子へ戻って今度は主に書く方へかゝります。
             〈『新校本宮澤賢治全集第十五巻書簡・本文篇』(筑摩書房)〉
と書かれている。しかし「すっかりすがすがしくなりました」ということであれば、病気のために実家に戻って病臥していたと云われていた賢治なのだから、普通は「そろそろ根子へ戻って以前のような営為を再開したい」と伝えたはずだ。
 ところが実際はそうではなくて、「演習」が終るころまではそこに戻らないと澤里に伝えていたことになるから、常識的に考えてこれもまたおかしいことだということに私は気付いた。同時に、賢治が実家に戻っていた最大の理由は「演習」のせいであって病気のせいではなかった、ということをこの書簡は示唆しているとも言えそうだ。
 ならば、そのような「演習」とは一体何のことだろうかと私は長らく気になっていた。それが、
 労農党は昭和三年四月、日本共産党の外郭団体とみなされて解散命令を受けた。…(投稿者略)…
 この年十月、岩手では初の陸軍大演習が行われ、天皇の行幸啓を前に、県内にすさまじい「アカ狩り」旋風が吹き荒れた。
             〈『啄木 賢治 光太郎』(読売新聞社盛岡支局)28p~〉
という記述に偶々出くわして、「演習」とはこの昭和3年10月に岩手で行われた「陸軍大演習」のことだと直感した。そこで、他の資料等も調べてみたところ、賢治の教え子小原忠も論考「ポラーノの広場とポランの広場」の中で、
 昭和三年は岩手県下に大演習が行われ行幸されることもあって、この年は所謂社会主義者は一斉に取調べを受けた。羅須地人協会のような穏健な集会すらもチェックされる今では到底考えられない時代であった。
            〈『賢治研究39号』(宮沢賢治研究会)4p〉
と述べていた。どうやら、先の私の直感は正しかったようだ。

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               電話 0198-24-9813

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