
《ハヤチネウスユキソウ》(平成23年7月11日撮影)
そして高校生になる頃には、賢治のことも賢治の作品も共によくわかってもいない<*1>のに、私は賢治を最も尊敬するようになっていた。
さて、私がなぜ当時賢治を最も尊敬するようになっていったのかということを今になって振り返ってみると、それは、
賢治は貧しい農民たちのために己の命まで犠牲にして献身した。
という、いわば聖人・宮澤賢治像を育ませてもらったからのようだ。そしてどうしてそうなったのかというと、私が学校で先生から教わった国語の教科書がどのようなものであったかの記憶は定かではないが、当時はおそらく下掲のような国語の教科書等で賢治のことを教わったことが最たる理由であったような気がする。
【『中等新国語 文学編 二上』(坪内松三編、光村図書出版、昭和26年10月10日発行)】

【〃目次】

の中には
五 詩碑をたずねて
(一)雨ニモマケズ
という項もあり、103p以降にその項が以下のように載っている。
【103p】

【104~5p】

【106~7p】

【108~9p】

そして、あの「雨ニモマケズ」は次のように載っている。
雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病氣ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒドリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ<*2>
今にしてみれば、賢治はあくまでも「サウイフモノニ/ワタシハナリタイ」と言っているだけなのに、生徒の私たちは先生から「賢治はこのように生きたのだ、君たちもこのように生きなさい」と説諭され、その当時は素直だった私は、「そうだよな、せめて「雨や風などに負けずに」生きていこう」と自分に言い聞かせた気がする。風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
一日ニ玄米四合ト
味噌ト少シノ野菜ヲタベ
アラユルコトヲ
ジブンヲカンジョウニ入レズニ
ヨクミキキシワカリ
ソシテワスレズ
野原ノ松ノ林ノ蔭ノ
小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ
東ニ病氣ノコドモアレバ
行ッテ看病シテヤリ
西ニツカレタ母アレバ
行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ
行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ
北ニケンクヮヤソショウガアレバ
ツマラナイカラヤメロトイヒ
ヒドリノトキハナミダヲナガシ
サムサノナツハオロオロアルキ
ミンナニデクノボートヨバレ
ホメラレモセズ
クニモサレズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ<*2>
のみならず、109pには、
かれが死の前日、見知らぬ農夫が肥料のことで尋ねてきたとき、病状を知っている家人は気が気でなかったが、かれは病床を起き出て階下の玄関に客を迎えた。そして、一時間もきちんとすわってていねいに教えていたということである。
<『中等新国語 文学編 二上』(坪内松三編、光村図書出版)>という解説もあったから、「賢治ってすげぇ!、賢治は貧しい農民たちのために己の命まで犠牲にして献身したんだ。まさに聖人・君子じゃないか」と私はいたく感銘したおぼろげな記憶がある。
かようにして、私が最も尊敬する人物はいつしか賢治になっていた。
<*1:投稿者注> 私は、今でも相変わらず『春と修羅 第一集』がよくわかっていない。ただ例えば、勇壮というよりは逆におとなしいとさえも言えるような「雛子剣舞」(「子供念仏剣舞」とか「稚児剣舞」とも呼ばれる)を元にして、よくぞここまで勇猛果敢で、圧倒的迫力のある心象スケッチ「原体剣舞連」に創り上げたものよと、賢治のそのずば抜けた創造力に感心はする。あるいは、私から見れば「第四次」の特異な感覚がなければ書けないだろうと思われる童話「やまなし」や「おきなぐさ」、そしてあの「星の王子さま」に勝るとも劣らないと私は信じている「なめとこ山の熊」はとりわけ、何度読んでも感動が薄れない。もちろんそこにも、賢治の類い稀なる天賦の才を見る。はたまた、『同第三集』は、残りの詩篇はさておき、少なくとも「〔あすこの田はねえ〕」」や「和風は河谷いっぱいに吹く」等の詩篇にはいたく感動したものだ。
<*2:投稿者注> この教科書の「雨ニモマケズ」は、カタカナだし、「一日ニ玄米四合ト」となっているが、戦後この「雨ニモマケズ」がひらがな書きに変えられたり、改竄されて「一日ニ玄米三合ト」となったものもある。一方で、この『中等新国語 文学編 二上』の奥付は下掲のようになっているから、

この教科書の著作者は垣内 松三、執筆者は石森延男であり、この人たちには矜持と信念があったということが窺える。

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