みちのくの山野草

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私見・「ヒドリ=ヒデリ誤記」説

2024-04-08 12:00:00 | 菲才でも賢治研究は出来る
《コマクサ》(平成27年7月7日、岩手山)

 先に、賢治のあの「ヒドリ」と「ヒデリ」に関して少しく投稿したところだが、この際このことに関する私見等を以下に述べさせてもらいたい。

⑴ 賢治は『雨ニモマケズ手帳』には、たしかに
    ヒドリ
と書いている。
⑵ 〔雨ニモマケズ〕は、「ヒドリ」以外は全ていわゆる標準語で書かれているから、「ヒドリ」もそうであると判断せざるを得ない<*1>。
⑶ 〔雨ニモマケズ〕は基本的には「対偶法」(「対句法」)が用いられている。
⑷ 主語は「ワタシ」、つまり作者の賢治である。

 したがって、 
   ヒドリノトキハナミダヲナガシ
   サムサノナツハオロオロアルキ

の意味は、
   賢治はヒドリの時は涙を流し
   賢治は寒さの夏はおろおろ歩き
となる。
 そこで、『広辞苑 第二版』(新村出編、岩波書店)の「ひどり」の項を見てみると、ただ一項目だけあり、
   【日取】或ることを行う日をとりきめること。また、その期日。
となっているから、上掲の「ヒドリ」は「或ることを行う日をとりきめること」となり、
   賢治は「或ることを行う日をとりきめる」時は涙を流し
となる。すると、この文が補足説明なしで日本中の人びとにはっきりと意味が通じるか否かが大問題となる。
 もちろん、石川栄助氏の「ヒドリは永訣のこと」とか「ヒドリとは「悲しみの日」のこと」のように、「永訣」や「悲しみの日」という補足説明がつけば日本中の人びとにも通じるかもしれないが、補足説明なしではそのような意味だということは日本中の人びとに通じないと、残念ながら判断せざるを得ない。
 よって、賢治の「ヒドリノトキハナミダヲナガシ」はどこかに誤記がある蓋然性が高いということになる。となれば、それは「ヒドリ」であるとしかほぼ考えられない。なんとなれば、「……トキハナミダヲナガシ」と「……ナツハオロオロアルキ」は対偶法でペアになっていて、なんら不自然さがないから、これらの部分が誤記であるとは考えられないからだ。
 では、「賢治はヒドリの時は涙を流し」の「ヒドリ」は何の誤記かというと、対偶法であることから「ヒデリ」の誤記である蓋然性が極めて高い、ということに気付くことは至極自然だ(要は、賢治も人の子、間違うこともたまにはある。そして実際に、賢治は結構誤記がある)。
 畢竟、
 「ヒドリ=ヒデリ誤記」説と「ヒドリはヒドリだ」説のどちらが真実である蓋然性が高いのかというと、前者の方が後者よりはるかに高い。
というのが私見であり、結論だ。

 なお、
   「ヒドリ」は南部藩では公用語として使われていて、「ヒドリ」は「日用取」と書かれていた。……①
という主旨のことが『宮澤賢治のヒドリ』(和田文雄著、コールサック社)の中で述べられているが、それは強弁であり、神聖であるべき資料(「新田開発の奨励」)を改竄して①の典拠にしているという誹りを受けかねない。
 そしてまた、「ヒデリにけがちなし(ヒデリに不作なし)」という俚諺を根拠にして、「ヒデリノトキハナミダヲナガ」す必要はないから、「ヒデリノトキハナミダヲナガ」すことはあり得ないので、ヒドリがヒデリの誤記であるはずがないと主張する方もあるが、その俚諺は一般論である。時には「ヒデリノトキニナミダヲナガ」す人々がいたことは、それこそ賢治が下根子桜に移り住んだ年の稲作については、稗貫の隣の紫波郡内の赤石村や不動村が大旱魃で飢饉一歩手前であったことを連日報道していた新聞報道
       
             《「大正15年稲作」旱害惨状報道(昭和2年1月9日付『岩手日報』)》
からも明らか(連日のように、地元はもとより近県、遠くは東京等からも陸続として義捐や救援の手が差し伸べられているという新聞報道がなされている)である。つまり、「ヒデリに不作あり」ということも実際に起こるのである。

<*1:投稿者註> この「ヒドリ」は標準語ではなくて方言だと主張する人もあるが、もしそう主張したいのであれば、当然、どうしてこの一語だけが方言なのかという説得力のある理由をその場合には提示せねばならぬはずだが、それを提示できた人を私は見つけられずにいる。

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