みちのくの山野草

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佐藤勝治の〔聖女のさまして…〕に対する見方

2019-07-03 10:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露
〈「白花露草」(平成28年8月24日撮影、下根子桜)

佐藤勝治の〔聖女のさまして…〕に対する見方
荒木 何だよ、その「それ以前の問題」とは?
鈴木 ちょっと話は長くなるがまずは聞いてくれ。それは佐藤勝治のある見方についてだ。
 知ってのとおり、彼は「賢治二題」という論考において、最初に〔聖女のさまして近づけるもの〕を挙げ、次に今までに何度か引用した「このようななまなましい憤怒の文字はどこにもない」という例の表現を用い、この詩が「奇異の感を与える」と評している。そして続けて、露の実家と佐藤の家が比較的近いせいもあってか、同論考においては、
 私の知つているT家の人々は、しごく素直な、明るい、みじんもいやみやいんけんな所のない、実に気持のいい人々である。…(投稿者略)…
 だからT女こそは彼の前にあらわれた、もつとも不運な女性であつたと私は思つている。…(投稿者略)…
 かの女と交際しなくなつた何年かあとの病床にまで、なぜこのようにも彼の心を乱したのであろうか。私はこれがふしぎでならなかつたが、これを解くたしからしい鍵を見うけたと思うのは次の話である。
と論じている。もちろんT女=露だ。
 そして、「賢治研究に関して貴重な資料を頭の中にたくさんしまつている」と佐藤が称する伊藤忠吉(ママ)から聞き出したというエピソードを、「賢治二題」は次に紹介しているんだ。
荒木 それはまたどんな?
鈴木 それはさ、佐藤が伊藤忠吉に、実は正しくは忠一にだが、に無理矢理、『いやな思い出があつたらきかせてくれとたのんだ』ところ、
 忠吉さんは、ずいぶんためらつた後に、決心したように、実にいやなこと、それを思い出すと今でも腹わたがにえくりかえるようで、先生についてのすべてのたのしい思い出は消え去つてしまうといつて話し出した。
 話といつても簡単であつて、二つである。一つは、…(筆者略)… 常にもなく威丈高に叱りつけた。忠吉さんはあまりの事に口もきけずに、だまつて叱られていた。
 もう一つの話は、忠吉さんがある人(A)に稲コキ用のモーターを手離したいからどこかえ((ママ))世話をしてくれとたのまれていた。そこでさいわい知り合い(B)でほしい人があつたので世話することにしていたら、村の三百代言(C)がこれで一もうけしようと割り込んで来た。そこで彼(C)は賢治に告げ口をしたのである。そこで忠吉さんは賢治によびつけられ、長時間にわたつて叱りとばされた。つまり、忠吉さんは、Cの世話しかけているAのモーターを、Bと組んで安くAから取り上げようとしている。Cの取引の邪魔をし、Aをだましているというのである。話はまるであべこべなのだが、先生はぜんぜん弁解を受けつけず、村でも名高いCの嘘言だけをほんとにして、お前も見下げはてた奴だ、せつかく俺がこれ程お前のために何彼と心をつかつているのに、よくも裏切つたなと、さんざんな叱言である。忠吉さんも、この時はほんとに腹が立つたが、どうしても話を受けつけないのだからしまいには泣くより仕方がなかつた。
と打ち明けてくれたのだそうだ。
 そこで佐藤は、賢治が三百代言の嘘の方を真に受けた結果忠吉は濡れ衣を着せられ、弁解も受け付けられず、賢治からよくも裏切ったなと罵られたというエピソードがあったことを忠吉から聞き出せたといって、それをここで紹介しているのだ。そして佐藤は同論考で次のように考察し、
 特に私のさもあらんと思うのは、彼が、他人の告げ口を信じてすつかり怒つたことである。彼のような善良な人間は、告げ口の名人にかかると、苦もなく信じてしまうものである。三百代言と知りながらも、最愛の弟子も疑つてしまう。
 いわんやその告げ口をする人間が、もすこし上等な人間であり、自分の親しい者であると、たいてい本気になつてしまう。彼のような上品な人間は、告げ口などという下品なことはしたことがないから、上手な告げ口にすぐ乗るのである。「聖女のさましてちかづけるもの」の詩は、まさにこの種の告げ口(告げ口として常套な誇張と悪意とによる)によつて成つたものである。
             <以上いずれも『四次元50』(宮沢賢治友の会)10p~より>
と結論している。
吉田 そうか、善良で上品な彼は忠吉の方を疑ってしまったということか。まして、その告げ口が賢治と親しい人からのものであったならばなおさらその傾向がある、と佐藤は賢治を見ていたのか。そこで佐藤は、このことが〔聖女のさまして近づけるもの〕にまつわる不思議を解く「たしからしい鍵」であると言いたいのだな。

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      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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