みちのくの山野草

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『本統の賢治と本当の露』(140~143p)

2021-01-09 12:00:00 | 本統の賢治と本当の露
〈『本統の賢治と本当の露』(鈴木守著、ツーワンライフ出版、定価(本体価格1,500円+税)〉




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つまり、第一章の〝2.〟の㈠~㈥等の評価がどう定まるかは歴史の判断に委ねていいと思っている。
 だが一つだけ、決して俟っているだけではだめなものがある。それは、濡れ衣、あるいは冤罪とさえも言える〈悪女・高瀬露〉、いわゆる〈高瀬露悪女伝説〉の流布を長年に亘って放置してきたことを私たちはまず露に詫び、それを晴らすために今後最大限の努力をし、一刻も早く露の名誉を回復してやることを、である。もしそれが早急に果たされることもなく、今までの状態が今後も続くということになれば、それは「賢治伝記」に最大の瑕疵があり続けるということになるから、今の時代は特に避けねばならないはずだ。なぜなら、このことは他でもない、人権に関わる重大問題だからである。それ故、「賢治伝記」に関わるこの瑕疵を今までどおり看過し続けていたり、等閑視を続けていたりするならば、「賢治を愛し、あるいは崇敬している方々であるはずなのに、人権に対する認識があまりにも欠如しているのではないですか」と、私たち一般読者までもが世間から揶揄や指弾をされかねない。
 一方で露本人はといえば、
 彼女は生涯一言の弁解もしなかった。この問題について口が重く、事実でないことが語り継がれている、とはっきり言ったほか、多くを語らなかった。
〈『図説宮沢賢治』(上田哲、関山房兵、大矢邦宣、池野正樹共著、河出書房新社)93p~〉
というではないか。あまりにも見事でストイックな生き方だったと言うしかない。がしかし、私たちはこのことに甘え続けていてはいけない。それは、あるクリスチャンの方が、
 敬虔なクリスチャンであればあるほど弁解をしないものなのです。
ということを私に教えてくれたからだ。ならば尚のこと、理不尽にも着せられた露の濡れ衣を私は一刻も早く晴らしてやりたいし、そのことはもちろん多くの方々も願うところであろう。
 まして、天国にいる賢治がこの理不尽を知らないわけがない。少なくともある一定期間賢治とはオープンでとてもよい関係にあり、しかもいろいろと世話になった露が今までずっと濡れ衣を着せ続けられてきたことを、賢治はさぞかし忸怩たる想いで嘆き悲しんでいるに違いない。それは、結果的に賢治は「恩を仇で返した」ことになってしまったからなおさらにだ。だから、「いわれなき〈悪女〉という濡れ衣を露さんが着せられ、人格が貶められ、尊厳が傷つけられていることをこの私が喜んでいるとでも思うのか」と、賢治は私たちに厳しく問うているはずだ。そこで私は、露の名誉回復のためであることはもちろんだが、賢治のためにも、今後も焦らず慌てずしかし諦めずに露の濡れ衣をいくらかでも晴らすために地道に努力し続けてゆきたい。
 それからまた、かつてはいたく感動していた「稲作挿話」や「和風は河谷いっぱいに吹く」等に、予期もせぬ客観的事実についての虚構等があったことを識って、私はもはやこれらの詩には殆ど感動しなくなったから、正直一時期は裏切られたという思いを禁じ得なかった。そこで、こんな嫌な経験をこれからの若者たちにはもうさせたくはないという願いも私の中では強い。本書がそのための一助になれば嬉しい。
 以上が、ここ約10年をかけて「羅須地人協会時代」を中心にして検証作業等を続けてきた結果、私が辿り着いたことのほぼ全てだ。幸い、賢治に関しての、今まで隠されてきた真実や新たな真実の幾つかを、延いては本統の賢治を私は明らかにできた。そこで、それらの一つ一つが恩師岩田教授が嘆いたあの「いろいろなこと」に当たっているだと私は得心し、これでほんの少しだが恩師に恩返しができたものと思って今は正直ほっとしている。
 また、「〈悪女〉にされた高瀬露」というテーマで初めて公的に露のことを論じた上田哲の論文は何故か未完だったので、それを承けて私ここまで調べてきたつもりだが、その任も少しは果たせたと思っている。
 というわけで、本書では、本統の賢治は実はこんな人だったのだということを前半では幾つか浮き彫りにし、後半では、露の濡れ衣をいくらかでも晴らしたいという一念から露の本当の姿に迫ってみようとしたのだが、さて如何だったでしょうか。
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 最後になりましたが、ご指導やご助言そしてご協力を賜りました阿部弥之氏、安藤勝夫氏、伊藤博美氏、入沢康夫氏、故岩田有史氏、岩手日報社様、岩渕信男氏、牛崎敏哉氏、大内秀明氏、鎌田豊佐氏、菊池忠一郎氏、菊池忠二氏、工藤留義氏、佐藤誠輔氏、澤里裕氏、新庄ふるさと歴史センター様、平國友氏、高橋カヨ氏、高橋征穂氏、故千葉益夫氏、千葉滿夫氏、日本現代詩歌文学館様、花巻市立図書館様、望月善次氏、遊佐栄一氏、そしてお世話になりました多くの皆様方に深く感謝し、厚く御礼申し上げます。
 また、ツ―ワンライフ出版 細矢定雄社長には、私如き老骨の原稿をこのような一冊の本にして出版していだきましたことに改めて御礼申し上げます。大変ありがとうございました。
 平成29年12月29日
著者
 資料一 「羅須地人協会時代」の花巻の天候(稲作期間)<*1>

 <*1:投稿者註> 字が小さいので、見づらい方は次をクリックして下さい。
   3160 羅須地人協会時代の花巻の全天候 

***************************『本統の賢治と本当の露』(鈴木守著、ツーワンライフ出版、定価(本体価格1,500円+税)の販売案内*************************
 
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,650円(本体価格1,500円+税150円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
           〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
                      電話 0198-24-9813
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