慌ただしく僅かな滞在時間ではあったが、雪の大絶景に満足し最終のロープウエーで
麓駅に戻る。
その日は、奥飛騨温泉郷の焼岳山麓、中尾高原にある「山荘 錫杖」に宿を取った。
目の前には噴煙を上げる焼岳、背後に錫杖岳を望む、混浴露天風呂からの景色が
自慢の温泉宿だ。
夕暮れて、露天風呂に身を委ね、ふと見上げると雪化粧した笠ヶ岳と錫杖岳がすぐ
そこに見える。「錫杖か・・」
心地よい湯にどっぷりと首まで浸かりながら、ふと一人遠き日の出来事を思い出す。
もう40年以上も前の事である。
出身校も配属された職場も違っていたが、同期入社のI君とは妙に気が合った。
当時はお互いにアルコールに弱かったので、夜の町を飲み歩くこともなく、四季を
通じて鈴鹿の山々を何度も一緒に歩き、冬に成るとスキーをしに志賀高原に通った。
そんなI君は、本格的な登山がしたいからと、地元の山岳会に入会し、離れて行った。
それ以後、なかなか予定が合うことも無く、当然のことのように一緒に山歩きもスキーも
する機会も無い日が続いていたそんなある時、悲報が飛び込んできた。
今となっては詳細を知る術は無いが、当時の新聞報道によれば山岳会での山行で
錫杖岳に行き、ロッククライミング中滑落したらしい。
山での滑落遭難死、それは僅か20年余りの儚い、余りにも短い青春の終焉であった。
少し雲が出て来た。天気は確実に下り坂に向かっている。
黒いシルエットとなった錫杖を仰ぎ見て、「どの辺りだったのだろうか・・」と静かに
目を閉じるのである。(続)
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