だから放射能・原発は危険だったんだ! 基本の基本から2

2011年05月23日 | 原発と放射能

 前回、「放射線が分子結合を切断・破壊するという現象は、被曝量が多いか少ないかには関係なく起こります。」というところまで紹介しました。
 続いて、次のような文章があります(ポイントを明確にするために改行、番号を加えた箇所があります)。

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 被曝量が多くて、細胞が死んでしまったり、組織の機能が奪われたりすれば、やけど、嘔吐、脱毛、著しい場合には死などの急性障害が現れます。こうした障害の場合には、被曝量が少なければ症状自体が出ませんし、症状が出る最低の被曝量を「しきい値」と呼びます。

 ただ、この「しきい値」以下の被曝であっても、分子結合がダメージを受けること自体は避けられず、それが実際に人体に悪影響となって現れることを、人類は知ることになりました。
 広島・長崎に原爆が落とされ……米国は一九五〇年に、被爆者の健康影響を調べる寿命調査(LSS)を開始し、広島・長崎の近距離被爆者約五万人、遠距離被爆者約四万人、ならびに原爆炸裂時に両市にいなかった人(非被爆対象者)約三万人を囲い込んで被爆影響の調査を進めました。
 ……それらの人々を半世紀にわたって調査してきた今、五〇ミリシーベルトという被曝量に至るまで、がんや白血病になる確率が高くなることが統計学的にも明らかになってきました。

 そのため、確率的影響と呼ばれるこれらの障害については、それ以下であれば影響が生じないという「しきい値」がなく、かつどんなに低い被曝量であっても被曝量に比例した影響が出ると考えるようになりました。この考え方を「直線・しきい値なし」(LNT)仮説と呼びます。

 低レベル放射線の生物影響を長年にわたって調べてきた米国科学アカデミーの委員会は、二〇〇五年六月三〇日……一連の報告の七番目の報告を公表……一番大切な結論として、以下のように書かれています。

 「利用できる生物学的、生物物理学的なデータを総合的に検討した結果、委員会は以下の結論に達した。被曝のリスクは低線量に至るまで直線的に存在し続け、しきい値はない。最小限の被曝であっても、人類に対して危険を及ぼす可能性がある。こうした仮定は「直線、しきい値なし」モデルと呼ばれる」

 それでも、原子力を推進する人たちは、「直線、しきい値なし」仮説すら認めようとせず、五〇ミリシーベルト以下の被曝領域では被曝の影響がないかのように主張しています。

 ①生物には放射線被曝で生じる傷を修復する機能が備わっている(修復効果)、

 ②あるいは放射線被曝すると免疫効果が活性化される(ホルミシス)から、量が少ない被爆の場合には安全あるいはむしろ有益だ

というような主張すらあります。
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 ここで注意しておきたいのは、私たちが原発事故以降、特に政府関係者やNHKや自治体関係者から聞かされてきたのは、私の記憶では、推進派の主張だけだったということです。

 ①と②のような話は、実にあちこちで耳にしました。たぶん①や②も部分的には正しいのでしょう。

 特に生命体に修復効果=自己修復能力=自己治癒力がある程度まであるからこそ(ただし無限ではない)、これまでの原爆の実験や原発の事故などで放出され残留しているものも加えて、世界中の人が日常的に受けている――すべてが「自然界にある」と言い換えられていると思いますが――微量の放射能被曝があるにもかかわらず、ただちにすべての人に顕著な症状が出るわけではないのでしょう。

 しかし、それは「分子結合が切断されない」ということでもなければ、「危険を及ぼす可能性がゼロ」ということでもないのではないでしょうか。

 しかも、米国科学アカデミーというかなり信頼してもいい(かもしれない)機関の、長年にわたる研究の科学的結論である「被曝のリスクは低線量に至るまで直線的に存在し続け、しきい値はない。最小限の被曝であっても、人類に対して危険を及ぼす可能性がある。」という説を、「こういう説もある」という程度にさえ、知らされてこなかった、今でも知らされていないのではないでしょうか。

 それは、関係者が①私たち同様無知だったのか、②パニックを恐れて隠蔽したのか、③善意に解釈すればよけいな心配をしないよう心遣いをしてくれたのか、どうなのでしょうか。

 どれでもあっても、「情報操作」であることはまちがいありませんし、①なら無責任、②なら犯罪的、③ならまさによけいなお世話であり、たとえ善意であっても、一方的でない公平な情報を知る権利の侵害だ、というほかありません。

 そして、知ってみて、素人目には「どんなに低い被曝量であっても被曝量に比例した影響が出る」という説のほうが正しそうに思えました。

 さらに私は、大きな危険に対しては、起こった後で対処する「治療志向」ではなく、予めありうる危険はできるだけ避ける「予防志向」を採用すべきだ、と考えていますので、そういう意味で危険の可能性を警告してくれる「直線・しきい値なし」仮説に耳を傾けるべきだと思います。

 ともかく、「(○○以下なら)放射線は安全だ」は「原発は安全だ」という神話と同類の神話ではないかと疑われてなりません。



隠される原子力・核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ
クリエーター情報なし
創史社



コメント (4)
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