国民が世界一幸福な国・デンマーク

2009年01月11日 | 持続可能な社会

 新年にひいた風邪がぶり返し、咳がひどかったので、大事を取って2日も寝ており、8日、今年最初の木曜日の講座も休んでしまいました。

 体調調整がようやく間に合って、金曜日は、大学の授業再開、2コマの後、新横浜に直行して新幹線に乗り、夜は大阪で講義というスケジュールを無事こなしました。

 まだ風邪気が抜けきりませんが、なんとか現場復帰という感じです。

 往復の新幹線の中で、ケンジ・ステファン・スズキ『デンマークという国 自然エネルギー先進国――[風のがっこう]からのレポート』(合同出版、2003年)を読みました。






 ここのところずっと、まず「持続可能性ランキング第一位」の国からという意味があってスウェーデンに集中していたので、買ってあり気になりながら積読のままだった本の一冊でした。

 デンマークは、世界有数の福祉国家であることは今さら言うまでもありませんが、2006年の世界経済フォーラム・ダボス国際会議のランキングでは、経済の国際競争力も、スイス、フィンランド、スウェーデンに次いで第4位でした。

 世界自然保護連盟2001年の「国家の持続可能性ランキング」でこそ、ドイツに次ぐ13位でしたが、風力発電、バイオガスなどの自然エネルギーの利用に関しては世界でももっとも進んだ国です。

 そして特筆すべきことは、2006年のイギリス・レスター大学のホワイト氏の「国民の幸福度ランキング」で第1位だったことは、知る人ぞ知るです。

 つまり、住んでいる人びとが世界一幸福な国なのです(うらやましいっ!)

 こうしたデータからも明らかなように「経済と福祉」は矛盾・トレードオフの関係にあるどころかむしろ相互に促進し合う関係にある、というか、関係にできるのですね。

 そして、北欧諸国ではニュアンスの差はあっても、経済と福祉のベースとして持続可能な環境が不可欠であることは明快に認識され、具体的な施策が進められているようです。

 そういう意味で、時間を見つけて、スウェーデン以外の北欧諸国についても、もう少し知りたいと思っていました。

 そんな中、ご縁があって、「デンマークに学んで日本をいい国にしたい」という志でデンマーク留学して帰ってきた方と近々お会いすることになったので、ここで少し知識を得ておこうと思い、読めたら読もうとバッグに入れました。

 新幹線の席に坐ってちょっとページを開いてみると、とても興味深く、文章も明快で、すいすいと読めました。

 往復で読み終えた感想は、「(スウェーデン同様)デンマークよ、(やはり)おまえもか」ということであり、論理療法でいう、不健全な羨望に限りなくちかい「健全な羨望」という感じでした。

 (不健全と健全の差は、わかりやすく言うと、「うらやましい! ねたましい! くそーっ」でおしまいの気分と、「うらやましい! 私もそうなりたい! きっとそうなってみせるぞ」という気持ちの差です。)

 内村鑑三『デンマルク国の話』以後、今日に到るまで、デンマークがなぜ・いかにして幸福度世界一の国を建設できたか、180頁という比較的短いページ数でとてもわかりやすく述べられています。

 私の問題関心と関わって印象に残った箇所をいくつか、引用・紹介します。

 最後に近い箇所に、「『デンマークはわずか535万人の人口だから……』という話をよく聞きます。」とあったのには、思わず笑ってしまいました。

 私たちもしょっちゅう聞く、「スウェーデンは小さい国だからできたのでは」というのとそっくりではありませんか。

それに対する著者の答えは、こうです。
「たしかに、国の規模が小さいと、国家運営は楽かも知れません。国家の運営のあり方を語るばあい、国土の規模、人口は前提条件になりますが、それ以外のすべての条件を踏まえたうえでなお、もっとも重要な要件は、その国に住む人びとが『国のあるべき姿をどう考えているか』ということだと思います。たとえば、北海道の国土面積は8万3000キロ平方メートルでデンマークの約2倍、人口はデンマークより約35万人多い570万人です。デンマークは国家で、北海道は地方自治体ですから、直接比較することはできませんが、少なくとも面積と人口だけで比較しますと、北海道の人びとはデンマーク以上の生活が出来る条件を十分持っているはずです。」(161頁、赤字は筆者)

 叙述の順序からいうと、スズキ氏は「第1章 デンマークという国」で端的に、「デンマークの国のかたちを理解するには、やはり宗教をはずすことはできません。デンマークでは、キリスト教の一派、ルーテル教会が『デンマーク憲法』(第4条)で国教と定められています。……デンマーク人の心の拠り所でもある『国民教会』は約3400カ所あり、日曜日とキリスト教関連の祭日には礼拝が行なわれます。牧師はその日の聖句に合わせて国内外の出来事を取り上げて説教を行ない『共生の精神』を説きます。」(p.29-30)と指摘しています。

 またいろいろな箇所で、「デンマーク人の理想主義(人生の意義を、理想を実現するための努力に置く思想)、人道主義(人間愛を根本におき人類全体の福祉の実現を目指す立場。…)の精神」が、福祉、教育、環境に関する具体的な施策すべてのベースにあることを指摘しています。

 そして、近代デンマークを導いた2人の指導者を紹介しています。

 その第1は、内村鑑三も紹介していたダルガス(1828-94)です。

 ダルガスは、19世紀なかば、ドイツとの国土戦争に敗れたデンマークにあって、失意の国民たちを「外に失ったものは内で取り戻す」と励まし、荒れたヒースの原野を開拓し、防風林を植え、農地を増やし、酪農を勧めて、近代の豊かな農業国家デンマークの基礎を築いた人です。

 その第2は、執筆、講演、そして国民高等学校や農業学校の創立などを通して、デンマーク国民の「共生の精神」を育てたといわれる牧師・教育家のグロントヴィ(1783-1872)です。

 それらの先駆者が残した国民教育、指導者教育の伝統が、現代の世界一幸福な国デンマークの基礎になっていることはまちがいなさそうです。

 その歴史的条件はスウェーデンと基本的におなじだと思います。

 あれもこれもうらやましいことばかりでしたが、特に次のところが、もう羨望の的でした。

 「デンマーク入国1年半後、入学したコペンハーゲン大学でたくさんの印象深い学生や教授に出逢いました。ある教授が国家経済理論の講義で「国家経済とは家庭経済を大きくしたものである」と語ったことが今も記憶に残っています。『家庭における両親の役割は子どもを育て、その生活を守るために働くのだとすれば、政治家、役人には国を守り、国民を守る義務がある』という教授の信念は、国家観、行政に携わる者への期待感を端的に表すものでした。/コペンハーゲン大学政治経済学部の卒業生のほとんどは中央官庁の役人や政治家になっていきますが、この教授の考え方は、デンマークという国のあり方を端的に表現していると思いました。」(152頁)

 デンマークは、こうした共生の精神、共生のためのリーダーとしての理想の教育を、建前ではなく――建前なら日本にも似たようなものがあるわけですが――本音として受け止めた若者たちが、次世代のリーダーとして育っていく教育機関――真のエリート養成機関――が、国の中心的な教育機関としてある国なのですね。

 国民が世界一幸福な国ができる理由は、スウェーデンでもこの国でも単純明快です。

 優れたリーダーと優れた国民性。

 日本もそういう国にしたいものです……できるでしょう。

 かつては「十七条憲法」という国家理想があり、上杉鷹山のようなリーダーもいた国なのですから。




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コメント (3)
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