随煩悩6-2:愛情欲求と不健全な嫉妬

2006年04月15日 | メンタル・ヘルス

 精神分析的な発達心理学によれば、生まれたばかりの人間・赤ちゃんは、まったく自分と他者と世界とが融合しているような心理状態にいるとされます。

 自他未分化であるために、これまでしばしば「覚り」と混同されてきました。

 しかし、自我以前(プレ・パーソナル)と自我以後(トランス・パーソナル)は自我状態でないというところが似ているだけで、ほとんどまったくと言っていいほど発達段階の違うものです。

 赤ちゃんの心は、未分化な自己中心性の状態にあり、それを「ナルシシズム」といいます。

 やがて自分とお母さんが別の存在であること、自分と世界が別のものであることをしだいに学習していき、長い成長期間を経て、ようやく「自我」を形成します。

 しかし心の奥・深層にナルシシズムの核は残り続けるといわれています。

 自我は、自分と他者・世界が分離していることを自覚しつつ、自分のナルシシズム的な傾向のある欲求と他者・社会・世界の要求することとの間にあって、調整・適応をしていく心の機能です。

 唯識が「マナ識」と呼んでいるのは、心の奥で「ナルシシズム」という核を残しながら、実体視された「自我」が形成された状態のことだと考えていいでしょう。


 さて、愛情に関する「嫉妬」の話です。

 私たちにはマナ識があり、したがって「我愛」という根本煩悩を抱えているため、世界と他者が、自分のために、自分を中心に存在していてほしい、しているべきだ、しているはずだというナルシシズム的な思い込みを――人により程度の差はあっても――持っているようです。

 愛情でいえば、まわりの(自分にとって重要な)人は私を愛するべきだ、誰よりも私をいちばん愛するべきだ、〔できれば〕私だけを愛するべきだ、という過剰な愛情への欲求・渇望を持ちがちです。

 しかし、親であれ、恋人であれ、伴侶であれ、友人であれ、私を中心に、私のために生きているわけではなく、私だけを愛するというのは無理な注文です。

 もちろん関係の近い・遠いというのはあって当然ですから、私にとって重要な人ができるだけ私を愛してくれることを望むのは、不自然でも不当でもありません。

 〈自然な欲求〉です。

 ある程度までは、「権利」だと言ってもいいでしょう。

 しかし、「愛情を独占する権利」というのはない、と私は思うのですが、どうでしょうか?

 愛情を独占したいというのは――程度はいろいろで、許容範囲というのがあると思いますが、いきすぎると――〈神経症的な欲求〉になってしまいます。

 嫉妬も、特に男女の関係では、程度が軽いものであれば、安定した誠実な関係を維持するために役立つことがあります。

 論理療法では、「健全な嫉妬」と「不健全な嫉妬」を区別しています。

 軽度の「健全な嫉妬」なら、愛情関係のスパイスになったり、関係持続のサプリメントくらいにはなるでしょう。

 しかし、過剰な独占欲から生れる「不健全な嫉妬」は、体験した人は誰でも身に沁みているように、まず自分をひどく苦しめます。

 さらに、少し冷静になってみればすぐわかるように、相手をひどく煩わせていることも確かです。

 そして、その結果、二人が幸せになるかというと、法則的に幸せにはならないようです。

 過剰な独占欲は、マナ識の我愛から生れる「貪り」つまり過剰な欲望なのです。

 そして過剰は欲望から生まれる随煩悩である「嫉妬」は、自分をも相手をも苦しめ煩わせるのですから、まぎれもなく「煩悩」ですね。

 不健全な「嫉妬」の薬は、まず嫉妬は自分も相手も誰も幸福にはしない「煩悩」であるということへのしっかりとした理解・気づきです。

 特に論理療法的な知恵としていうと、嫉妬は、相手の愛情を得たい、さらには独占したいという欲求から生まれるものですが、嫉妬しすぎるとうるさがられて相手の愛情を失うということへの気づきが大切です。

 得ようとしているものを失わせる感情は、まったく不合理な、損な感情です。

 嫉妬心が高まりかかったら、「私は、相手の愛情を得たいのだろうか、失いたいのだろうか。嫉妬することで、より多く愛情を得られるのだろうか、失うのだろうか。嫉妬を激しいかたちで表現するのと、穏やかなかたちで表現するか、あるいは今は抑えておくのと、長い目で見たら、どちらが自分の幸せ・満足につながるだろう」と考えるといいようです。

 「でも…」と言いたくなっている方、あなたは今感情を発散あるいは暴発させることと、長い目で見て幸せになることと、どちらが心理的に得になると思いますか? 得するのと、損するのと、どちらかお好きですか?

 ……あ、これは唯識の入門授業から唯識と論理療法の統合の話に進んでしまっていますね。

 今日は、ここまでにしましょう。



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コメント (3)
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