思惟石

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『火宅の人』檀一雄がうらやましい。

2017-11-24 17:59:09 | 日記
4年ほど前に、檀ふみ・阿川佐和子の名作エッセー
『ああ言えばこう食う』を読んで、
ふたりの上品でチャーミングな物言いと
お互いのくさし方の気持ちよさに、
ステキな人たちだなあと思って、憧れと羨望を抱きました。

(ちなみに、そのちょっと前に『スープ・オペラ』『変愛小説』を読むまで、
阿川佐和子と岸本佐知子を混同していたポンコツの私がいる)

この親友コンビ、性格や嗜好や思考がちぐはぐなんですが
芯の部分は似通っていて、本当に良い友人関係なんだなあと

そんな二人の大きな共通項が、「父が作家」であることです。

と言いつつ、私は阿川弘之も檀一雄も読んだことがなかった。

ついでに言うと、ふたりの娘さんの目を通じて語られる
作家であり父である姿が面白くもあり滑稽でもあり、
あと、ちょいちょい怖かったりもして。
ふつーの家に育った私にはうかがい知れない複雑な前半生も、
エッセーの魅力の大きな部分に感じられたのです。

要するにね、娘さん視点が面白いから、それを大事にしたいなと。
父の小説は読まなくていい。むしろ読まない。
思ってたんと違ったらイヤだから。というようなことを思ったわけですよ。

じゃあなんで読んだんだって話しですが。
積読だったんですよ。
私の中で娘応援ブームも落ち着いてきたし。

で、『火宅の人』です。
檀一雄が5人もこどものいる家庭をうっちゃって
愛人とあーだこーだする「最後の無頼派小説家」のセキララ私小説です。

なにやってんだよオッサン、というあらすじですが、
文章や構成がうまくて、読んでいて惹き込まれます。

檀一雄は口述筆記が多かったそうですが、
しゃべりながら表現も構成も同時に考えていたのでしょうか。
しかも酒飲みながら。
すごいな!

愛人との身動きできないような関係を
無駄に高尚に考察したり、開き直ったフリしてナイーブなこと言ったり
妙に豪快な行動に出たりユーモアたっぷりに自己批判したり、
「最後の無頼派」と言われている割に
なんというか、愛すべきすっとこどっこい感があって、
面白く読んでしまいます。
ついでに生きることに関して、結構考えさせてもくれます。

どうでもいい細部ですが、
上巻の途中で、自分に関する考察をしていて
太宰や安吾といっしょに、自分たちを蒲柳の質であると自覚し、
どうせ長生きしないだろうと無茶ばかりした
みたいなくだりがありまして。
その続きで、どうも蒲柳の質だったのは太宰と安吾だけで、
自分は勘違いだった。めちゃ頑丈な質だったようだ。
と言った結論に至るんです。マジメなトーンで。
(手元にないので、すごく適当です)
なんというか、読者のツッコミ待ちかな?
「お前以外全員が知ってたよ!」っていう。

そんな愛らしさ(?)が随所に溢れてて、
もうね、ホント、男として最低最悪ですが(奥さん偉い)
読んでるうちに価値観がぐるっと一周半くらいまわって
「生まれ変わったら檀一雄になりたい…」
というくらいの、妙な羨ましさが湧いてきます。
読んで良かった。

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