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自縄自縛日記

加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『新海』、高木元輝+加古隆『パリ日本館コンサート』

2012-03-12 00:36:15 | アヴァンギャルド・ジャズ

加古隆+高木元輝+豊住芳三郎『新海』(Kaitai Records、1976年録音)を何度も聴いている。因縁浅からぬ3人の邂逅とでもいうべき記録である。

加古隆 (p)
高木元輝 (reeds)
豊住芳三郎 (ds)

副島輝人『日本フリージャズ史』(青土社、2002年)と、本盤の予約時に書かれたKaitai Recordsの解説(>> リンク)などから整理してみる。

富樫雅彦が事故に倒れたあと、高木・豊住デュオがはじまった。豊住はかつて富樫のボーヤであった。この関係は1年2ヶ月続き、1971年4月、豊住はシカゴのAACMを訪ねに渡米する。その直前、同月の演奏が、豊住芳三郎+高木元輝『If Ocean Is Broken(もし海が壊れたら)』(1971年)(>> リンク)として残されている。そして高木が1973年秋、パリに旅立つが、既にインドネシアに向かっていた豊住とはすれ違いになってしまう。パリでは、高木はノア・ハワードらと活動していた加古隆と組み、『パリ日本館コンサート』(1974年)というライヴ録音を残している。

高木と豊住の2人が再度組んだのは、1975年のことだった。ひとあし先に帰国した高木元輝が、豊住芳三郎の帰りを待ちわびて企画したコンサートは、「7つの海」と題され、1975年7月に行われた。その一部を記録したレコードが、豊住芳三郎『藻』(1975年)(>> リンク)である。同年の傑作『モスラ・フライト』(>> リンク)は、アート・アンサンブル・オブ・シカゴの曲「苦悩の人々」を演奏していることでも知られているが、実は、その4年前の『If Ocean Is Broken』でもその端緒を聴くことができる。

そして翌1976年、加古が一時帰国し、1月に高木、豊住、加古の三者が相まみえる。この記録が、本盤『新海』であり、その前日の録音『滄海』である。なお、同月には加古と豊住との共演盤『パッサージュ』も吹き込まれている(聴いたことはない)。

さて『新海』だが、いきなりの高木元輝のバスクラによる変な音に驚かされる。何かを語ろうとして語りつくせないようなテナーサックスとソプラノサックスも素晴らしい。当時、スティーヴ・レイシーの影響が云々されたようだが、自分はむしろ、1960年代後半にオーネット・コールマンと共演し、『黒い星を探せ』(1966年)を吹き込んでいた頃の、初期のデューイ・レッドマンを想起する。

豊住芳三郎のパーカッションは何だかもう吹っ切れているようで、富樫雅彦的な部分もあり、奔放な部分もあり。スタイルをストイックに狭めず、抑制せず、破綻のエッジを敢えて提示するくらいの「スキゾ」的(死語か)な演奏が、「らしい」もののように感じる。勿論、愉しそうに様々な叩きを試している様子が目に浮かぶようで、こちらも愉しい。加古隆のピアノは、ノア・ハワードとの諸作と同様、「何かが起こりそう」な予兆を強く感じさせる硬質なもので、これもまた良い。

今回、高木・豊住デュオによる1曲の記録が付いた限定版を購入した。これが実は驚きなのであって、手探りで始まったデュオが、やがてあるパーカッションのパターンに触発され、高木はソニー・ロリンズばりの明るいフレーズを連発する。そうすると、それに呼応して、豊住はカリプソリズムを刻み始めるのである。このようなカラーもあったのだな。何故だか、1回だけ聴いた高木元輝の晩年のライヴで、演奏後にサインを求めたところ、「照れちゃうな!」と実に人間くさく微笑んだ氏の顔を思い出すのだった。

あらためて、高木元輝+加古隆『パリ日本館コンサート』(TRIO、1974年)を聴いてみる。

高木元輝 (ts, ss)
加古隆 (p)
Kent Carter (b, cello)
Ron Pittner (ds, perc)

ベースのケント・カーターは当時加古隆とピアノトリオ作やノア・ハワードのグループで共演していた仲間であり、サウンドの色もそのような雰囲気を持っているような印象がある。貴重なドキュメント、演奏も素晴らしい。ただ、高木元輝+加古隆+豊住芳三郎の邂逅を聴いてしまうと、後者により魅かれざるを得ない。

もう1枚Kaitai Recordsから買ったLP『槍海』は、また日を改めて聴く。折角の機会なので、大事にじっくり聴きこみたい。(ところで、この2枚を予約したところ、ご返信のメールに「やっと繋がった」と書かれていた。このような意外なリンクはとても嬉しい。)

●参照
豊住芳三郎+高木元輝 『もし海が壊れたら』、『藻』
高木元輝の最後の歌


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