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自縄自縛日記

田野大輔『愛と欲望のナチズム』

2019-02-26 08:22:34 | ヨーロッパ

田野大輔『愛と欲望のナチズム』(講談社選書メチエ、2012年)を読む。

「退廃芸術」のこともあり、ナチスドイツは性を抑圧していたのかと考えてしまうが、そうではなかった。また、「優性思想」にのみ依拠したものでもなかった。実は矛盾だらけであったことが、本書を読むとよくわかる。 

ナチズムは、旧来の小市民的で「偽善的上品」な性道徳を批判し、性愛を促進した。すなわち、性の「健全」化が指向された。だが、ことは偏ったイデオロギーのみで進むものではない。権力構造の中では欲にまみれた者が続出する。またその権力の形からして、ミシェル・フーコー的な生政治化した。同性愛は迫害された。

そして、こういった権力の形が管理売春に結びつき、一方で、権力の矛盾が市民の渇望と結びついた。要は単に性道徳が崩壊した。そこにはナチズムが重視した人種差など関係なかった。

「「民族の健全化」を標榜し、性的不道徳の一掃につとめたはずの政権のもとで、かくも無軌道な男女関係が幅をきかせるようになったのは、いったいどういうわけだろうか。それはもしかすると、ナチズムによる性生活への介入の、ある種の逆説的な帰結だったのではないか。」

人間の性を国家目的(生産)に動員させようとする社会など、ろくなものにはならないという歴史的教訓である。それでは「家族」という縛りを「生産」に結び付けようとする日本社会はどうか。

●参照
芝健介『ホロコースト』
飯田道子『ナチスと映画』
クロード・ランズマン『ショアー』
クロード・ランズマン『ソビブル、1943年10月14日午後4時』、『人生の引き渡し』
ジャック・ゴールド『脱走戦線』ジャン・ルノワール『自由への闘い』
アラン・レネ『夜と霧』
マーク・ハーマン『縞模様のパジャマの少年』
ニコラス・フンベルト『Wolfsgrub』
フランチェスコ・ロージ『遥かなる帰郷』
ミック・ジャクソン『否定と肯定』マルガレーテ・フォン・トロッタ『ハンナ・アーレント』
マルティン・ハイデッガー他『30年代の危機と哲学』
徐京植『ディアスポラ紀行』
徐京植のフクシマ
プリーモ・レーヴィ『休戦』
高橋哲哉『記憶のエチカ』
クリスチャン・ボルタンスキー「アニミタス-さざめく亡霊たち」@東京都庭園美術館
クリスチャン・ボルタンスキー「MONUMENTA 2010 / Personnes」


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