Sightsong

自縄自縛日記

ジャック・ゴールド『脱走戦線』

2015-01-03 01:41:25 | ヨーロッパ

ジャック・ゴールド『脱走戦線』(1987年)を、VHSで観る。

原題は『Escape from Sobibor』、すなわち、『ソビブルからの脱出』である。ソビブルは、アウシュビッツ、トレブリンカ、マイダネクなどと並び、6つの絶滅収容所の1つである。絶滅収容所は強制収容所と異なり、はじめから、ユダヤ人を殺すことを目的として作られた(マイダネクとアウシュビッツは強制収容所を兼ねた)。映画では、収容されるユダヤ人に対し、当初は労働だと偽装している。

ナチスによるソビブルでのユダヤ人への対処は凄惨を極めた。しかし、家族が殺されても、ナチスに従わなければならなかった。脱走した者はすぐに捕らえられたため、囚人たちは、収容者全員(600人)で脱出することを計画する。そのために、示し合わせてSSたちを殺し、鉄条網を突破して森へと走った。見張りのウクライナ兵たちが乱射し、逃げる囚人たちは次々に倒れていったが、300人ほどは森へと逃げ込み、戦後も生き延びた。

芝健介『ホロコースト』によれば、この武装蜂起は1943年10月14日になされ、数十名が地雷原を超えて森に脱出したとある。人数のことはともかく、ユダヤ人がソ連軍捕虜(ルドガー・ハウアーが演じる)と協力して蜂起したことは史実に沿っている。同書によれば、ソビブルにおいてガス室が稼働していた約1年半の間に、約25万名が殺害されている。6室で1日に約1300名の殺害が可能であり、遺体は、長さ50-60m、幅10-15m、深さ5-7mの巨大な穴に遺棄されたという。

もちろん、使命感と義務感でここまで残酷になりうるのかということは想像を遥かにうわまわる。映画ではいかにもサディスト的なSSたちが登場するのだが、やはりアクション映画の閾を超えるものではない。なぜならば、個々の狂に耳を傾けなければならないからであって、それはプロットによって語ることはできないと思えてならない。

『ショアー』を撮ったクロード・ランズマンが、その後、ソビブル絶滅収容所について手がけたドキュメンタリー『ソビブル、1943年10月14日午後4時』を観ると、歴史を物語として語ることの困難さを実感する。

●参照
芝健介『ホロコースト』
飯田道子『ナチスと映画』
クロード・ランズマン『ショアー』
クロード・ランズマン『ソビブル、1943年10月14日午後4時』、『人生の引き渡し』
ジャン・ルノワール『自由への闘い』
アラン・レネ『夜と霧』
マーク・ハーマン『縞模様のパジャマの少年』
ニコラス・フンベルト『Wolfsgrub』
フランチェスコ・ロージ『遥かなる帰郷』
マルガレーテ・フォン・トロッタ『ハンナ・アーレント』
マルティン・ハイデッガー他『30年代の危機と哲学』
徐京植『ディアスポラ紀行』
徐京植のフクシマ
プリーモ・レーヴィ『休戦』
高橋哲哉『記憶のエチカ』


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