2004年1月発行
深川中島町の木戸番夫婦、笑兵衛とお捨を中心に、そこに暮らす人々の営みを描いた人情時代小説。「深川澪通り木戸番小屋」シリーズ第4弾。
主要登場人物(レギュラー)
笑兵衛...深川中島町の木戸番
お捨...笑兵衛の妻
弥太右衛門...中島町の自身番に詰める差配人(いろは長屋の差配人)
太九郎...中島町の自身番に詰める書役
神尾左馬之助...北町奉行所定町廻り同心
伝次...岡っ引き(左馬之助の小者)
勝次...賄い屋の弁当運び(元南組三組の纏持ち)
おけい...勝次の妻
第一話 女のしごと
第二話 初恋
第三話 こぼれた水
第四話 いのち
第五話 夜の明けるまで
第六話 絆
第七話 奈落の底
第八話 ぐず 計8編の短編連作
女のしごと
合巻本を読んだり酒を嗜んだりと、己の自由になる刻(とき)を堪能するおもよだったが、お艶が爪に火を灯して貯めた銭で見世を持つと聞くと穏やかではない。
金に齷齪しながらも、見世の主となるか、それよりも、楽しみながら豊かな時を送るか。どちらが正かなど分からない生き方の違いを問う。
主要登場人物
おもよ...永代寺門前仲町料理屋磯浜の女中
お艶...黒江町居酒屋瀬川の女将
初恋
武家であったが借金のかたに商家へ嫁いだ紫野は、そこでの居たたまれない日々を救ってくれた年松と駆け落ちをし、いろは長屋に住んでいたが、年松は重い労咳にかかっていた。
おしず(紫野)の婚家での生活の辛いが、折角巡り会った「初恋」の人が労咳であるといった設定が悲しい。幸せになって欲しいのだが。
主要登場人物
おしず(紫野)...年松の妻
年松...下駄の歯入れ屋
楠田勢之助...紫野の兄
こぼれた水
出戻りのお京を、夫の江屋山左衛門が囲っているらしいとお加世は気付いていた。居たたまれずにお加世は山左衛門の跡を付けたが、それを知った山左衛門はついに店を空けたのだった。
お京といった男を翻弄する女を相手に、憎々しい思いを抱くお加世の心中察するに余りある。そして残酷な山左衛門の言葉にが悲しい。
主要登場人物
お加世...江屋山左衛門の妻
山左衛門...横山町釘鉄問屋江屋山の主
お京...馬喰町釘鉄問屋坂本屋修三郎の妹
いのち
江戸留守居役の養子になり、将来を嘱望されていた木村寛之進は、火事で逃げ遅れたおせいを助け代わりに命を失った。一方助けられたおせいは老婆であり、身寄りもなく、周囲の嫌われ者である。自分を助け、若い命を失った侍のことを皆が嘆き悲しむ様を見ていると拗ねたくなった。
寛之進は序盤に振りだが、それにしても悲しい。市井の金棒引きでなくても、おせいと寛之進の将来を計ろうというものだ。寛之進のような清廉な人は薄命なのだと思ってみても割り切れない思いが残った。
主要登場人物
おせい...繕い物
木村寛之進...某藩江戸留守居木村頼母の養子
宇佐美要助...某藩江戸詰勘定方、寛之進の朋友
夜の明けるまで
中島町の自身番の書役の太九郎に、好きな女が出来たようである。だが相手のおいとは不幸な結婚経験があり、人の親切を素直に受け入れられない。そして太九郎が自身番で倒れ…。
意固地なまでのおいとだが、不幸な過去が人を信じられなくされるとは良くある事。そして口さがない噂に胸を引きちぎられるような思いなのだろう。物語に結末は描かれていないが、続編にて太九郎と結ばれて欲しい。
ただ、ひとり息子の佐吉の世話をするおいとは、心優しい母である。二人で鰻を食べた帰りに身投げをしなくて良かったと胸を撫で下ろしたものだ。
主要登場人物
おいと...仕立屋
おかつ...大工磯次の妻
絆
店も傾き、家族も亡くした駒右衛門は、若かりし頃、追い立てるようにして暇を出した妾の生んだ娘を捜していた。だが、漸く見付かった娘は、定職を持たない亭主を繋ぎ止める為に、駒右衛門の持つ家作を売って金に換えるのが目的だった。
店が傾いたり、資金面での事情もあったのだが、大店の主らしく情を介さなかった駒右衛門が、何もかもを失ってたったひとりの娘の為なら何もかも投げ打つ覚悟を決めた矢先に、娘は父を恨み財産だけが目当てであった。おるいの生い立ちなれば、それも致し方ないと思う。が、ラストはほろりと出来る。
主要登場人物
駒右衛門...元大島町材木問屋大和屋の主
おるい...駒右衛門の庶子
亀吉...おるいの亭主、無職
奈落の底
おさわに深い恨みを抱くおたつは、おさわに復讐を遂げるべく、生真面目な荷揚げ人足の三郎助を抱き込むのだった。
「止めて。こんな良い人を巻き込まないで」と叫びたくなった。それでも純な三郎助は、出来る範囲でおたつに協力をしてしまう。どうか三郎助を罪人にしないで欲しい。そう思いながら頁をめっくったものだ。
主要登場人物
おたつ...相川町料理屋甲子屋の女中
三郎助...荷揚げ人足
おさわ...大島町蕎麦屋和田屋喜八の妻
おとく...相川町長屋差配人長次郎の妻
ぐず
婚家から離縁されたおすずは、一時は喰うにも事欠いていたが、今では絵双紙屋を繁盛させていた。だが、15年前、駆け落ちを誓った与吉を裏切った形になった事に心を痛め…。
15年振りの与吉の言葉が良い。おすずさんの目に狂いはなかった。爽やかな終焉である。
主要登場人物
おすず...熊井町絵双紙屋の女主
四郎兵衛...日本橋室町乾物問屋大黒屋の主、おすずの兄
おやえ...建具職人勘助の妻
林三郎...本石町鰹節問屋大須賀屋の主、おすずの元夫
与吉...京橋の指物師
シリーズ4冊を読み、この作品が一番胸に響いた。愛情のない結婚生活に破れた女たちが3編描かれているが、婚家を去った訳は夫の不実と似通ってはいても、現在の生き様の違いが興味深い。
わたくし個人は、「いのち」の木村寛之進を殺さないで欲しかった願って止まない。
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深川中島町の木戸番夫婦、笑兵衛とお捨を中心に、そこに暮らす人々の営みを描いた人情時代小説。「深川澪通り木戸番小屋」シリーズ第4弾。
主要登場人物(レギュラー)
笑兵衛...深川中島町の木戸番
お捨...笑兵衛の妻
弥太右衛門...中島町の自身番に詰める差配人(いろは長屋の差配人)
太九郎...中島町の自身番に詰める書役
神尾左馬之助...北町奉行所定町廻り同心
伝次...岡っ引き(左馬之助の小者)
勝次...賄い屋の弁当運び(元南組三組の纏持ち)
おけい...勝次の妻
第一話 女のしごと
第二話 初恋
第三話 こぼれた水
第四話 いのち
第五話 夜の明けるまで
第六話 絆
第七話 奈落の底
第八話 ぐず 計8編の短編連作
女のしごと
合巻本を読んだり酒を嗜んだりと、己の自由になる刻(とき)を堪能するおもよだったが、お艶が爪に火を灯して貯めた銭で見世を持つと聞くと穏やかではない。
金に齷齪しながらも、見世の主となるか、それよりも、楽しみながら豊かな時を送るか。どちらが正かなど分からない生き方の違いを問う。
主要登場人物
おもよ...永代寺門前仲町料理屋磯浜の女中
お艶...黒江町居酒屋瀬川の女将
初恋
武家であったが借金のかたに商家へ嫁いだ紫野は、そこでの居たたまれない日々を救ってくれた年松と駆け落ちをし、いろは長屋に住んでいたが、年松は重い労咳にかかっていた。
おしず(紫野)の婚家での生活の辛いが、折角巡り会った「初恋」の人が労咳であるといった設定が悲しい。幸せになって欲しいのだが。
主要登場人物
おしず(紫野)...年松の妻
年松...下駄の歯入れ屋
楠田勢之助...紫野の兄
こぼれた水
出戻りのお京を、夫の江屋山左衛門が囲っているらしいとお加世は気付いていた。居たたまれずにお加世は山左衛門の跡を付けたが、それを知った山左衛門はついに店を空けたのだった。
お京といった男を翻弄する女を相手に、憎々しい思いを抱くお加世の心中察するに余りある。そして残酷な山左衛門の言葉にが悲しい。
主要登場人物
お加世...江屋山左衛門の妻
山左衛門...横山町釘鉄問屋江屋山の主
お京...馬喰町釘鉄問屋坂本屋修三郎の妹
いのち
江戸留守居役の養子になり、将来を嘱望されていた木村寛之進は、火事で逃げ遅れたおせいを助け代わりに命を失った。一方助けられたおせいは老婆であり、身寄りもなく、周囲の嫌われ者である。自分を助け、若い命を失った侍のことを皆が嘆き悲しむ様を見ていると拗ねたくなった。
寛之進は序盤に振りだが、それにしても悲しい。市井の金棒引きでなくても、おせいと寛之進の将来を計ろうというものだ。寛之進のような清廉な人は薄命なのだと思ってみても割り切れない思いが残った。
主要登場人物
おせい...繕い物
木村寛之進...某藩江戸留守居木村頼母の養子
宇佐美要助...某藩江戸詰勘定方、寛之進の朋友
夜の明けるまで
中島町の自身番の書役の太九郎に、好きな女が出来たようである。だが相手のおいとは不幸な結婚経験があり、人の親切を素直に受け入れられない。そして太九郎が自身番で倒れ…。
意固地なまでのおいとだが、不幸な過去が人を信じられなくされるとは良くある事。そして口さがない噂に胸を引きちぎられるような思いなのだろう。物語に結末は描かれていないが、続編にて太九郎と結ばれて欲しい。
ただ、ひとり息子の佐吉の世話をするおいとは、心優しい母である。二人で鰻を食べた帰りに身投げをしなくて良かったと胸を撫で下ろしたものだ。
主要登場人物
おいと...仕立屋
おかつ...大工磯次の妻
絆
店も傾き、家族も亡くした駒右衛門は、若かりし頃、追い立てるようにして暇を出した妾の生んだ娘を捜していた。だが、漸く見付かった娘は、定職を持たない亭主を繋ぎ止める為に、駒右衛門の持つ家作を売って金に換えるのが目的だった。
店が傾いたり、資金面での事情もあったのだが、大店の主らしく情を介さなかった駒右衛門が、何もかもを失ってたったひとりの娘の為なら何もかも投げ打つ覚悟を決めた矢先に、娘は父を恨み財産だけが目当てであった。おるいの生い立ちなれば、それも致し方ないと思う。が、ラストはほろりと出来る。
主要登場人物
駒右衛門...元大島町材木問屋大和屋の主
おるい...駒右衛門の庶子
亀吉...おるいの亭主、無職
奈落の底
おさわに深い恨みを抱くおたつは、おさわに復讐を遂げるべく、生真面目な荷揚げ人足の三郎助を抱き込むのだった。
「止めて。こんな良い人を巻き込まないで」と叫びたくなった。それでも純な三郎助は、出来る範囲でおたつに協力をしてしまう。どうか三郎助を罪人にしないで欲しい。そう思いながら頁をめっくったものだ。
主要登場人物
おたつ...相川町料理屋甲子屋の女中
三郎助...荷揚げ人足
おさわ...大島町蕎麦屋和田屋喜八の妻
おとく...相川町長屋差配人長次郎の妻
ぐず
婚家から離縁されたおすずは、一時は喰うにも事欠いていたが、今では絵双紙屋を繁盛させていた。だが、15年前、駆け落ちを誓った与吉を裏切った形になった事に心を痛め…。
15年振りの与吉の言葉が良い。おすずさんの目に狂いはなかった。爽やかな終焉である。
主要登場人物
おすず...熊井町絵双紙屋の女主
四郎兵衛...日本橋室町乾物問屋大黒屋の主、おすずの兄
おやえ...建具職人勘助の妻
林三郎...本石町鰹節問屋大須賀屋の主、おすずの元夫
与吉...京橋の指物師
シリーズ4冊を読み、この作品が一番胸に響いた。愛情のない結婚生活に破れた女たちが3編描かれているが、婚家を去った訳は夫の不実と似通ってはいても、現在の生き様の違いが興味深い。
わたくし個人は、「いのち」の木村寛之進を殺さないで欲しかった願って止まない。
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