うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

桜追い人(はなおいびと)~日本橋物語9~

2015年04月03日 | 森真沙子
 2012年4月発行

 江戸一番の商人の町、日本橋で細腕一本で生きる美人女将お瑛を取り巻く、男と女の愛情劇を描いたシリーズ第9弾。

第一話 春 雷
第二話 男雛と女雛
第三話 冬の猿
第四話 春逝(い)く
第五話 花吹雪一番勝負
第六話 桜 雨 計6本の短編連作

 日本一の商業激戦地の日本橋で、反物屋を商うお瑛。女の細腕一本で老義母を抱え、大店の呉服店と渡り合う。
 そんなお瑛に惚れている岡っ引きの岩蔵が、「両国河岸に、行方知れずのあんたの実父が打ち上げられた」と言って、飛び込んで来た…。

主要登場人物(レギュラー)
 蜻蛉屋(とんぼ屋)お瑛...日本橋室町反物・陶磁器の商い
 お豊...お瑛の義母
 市兵衛...蜻蛉屋の番頭・用心棒
 文七...蜻蛉屋の使い走り
 お民...蜻蛉屋の女中
 お初...蜻蛉屋の賄い、お瑛の婆や
 井桁屋新吉...十軒店新道居酒屋の若旦那
 若松屋誠蔵...日本橋室町紙問屋の主、お瑛の幼馴染み
 岩蔵(とかげの親分)...岡っ引き




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子別れ~日本橋物語6~ 

2013年03月28日 | 森真沙子
 2010年1月発行

 江戸一番の商人の町、日本橋で細腕一本で生きる美人女将お瑛を取り巻く、男と女の愛情劇を描いたシリーズ第6弾。

第一話 大達磨(だるま)
第二話 南東風(いなさ)の吹く夜
第三話 笑う菩薩
第四話 蛍
第五話 鯨の見た夢
第六話 浄夜 計6編の短編連作

主要登場人物(レギュラー)
 蜻蛉屋(とんぼ屋)お瑛...日本橋室町反物・陶磁器の商い
 お豊...お瑛の義母
 市兵衛...蜻蛉屋の番頭・用心棒
 文七...蜻蛉屋の使い走り
 お民...蜻蛉屋の女中
 お初...蜻蛉屋の賄い、お瑛の婆や
 井桁屋新吉...十軒店新道居酒屋の若旦那
 若松屋誠蔵...日本橋室町紙問屋の主、お瑛の幼馴染み
 岩蔵(とかげの親分)...岡っ引き

第一話 大達磨(だるま)
 花筏の仲居のお力の様子がおかしいと、女将の澪はお瑛に相談を持ち掛けた。
 それは、敦賀藩江戸留守居役・堀田浩四郎が在所への帰国にあるのではとお瑛は予測する。
 そして次第に明らかになるお力の過去。浩四郎との間に産まれたひとり息子を、嫡男として堀田家に渡していたお力。浩四郎の帰国と共に、愛息子との縁も切れると、思い悩むのだった。

 太り肉で、不器量だが、元は芸妓として人気のあったお力。その大らかな人柄が、息子の将来と堀田家を思いやり、身を引いた過去。母親としてのお力の姿が、切ない話ではあるが、お力の逞しさが、生き生きと描かれている。

主要登場人物
 澪...日本橋小舟町料亭・花筏の女将
 お力...花筏の仲居
 堀田浩四郎...越前敦賀藩江戸留守居役

第二話 南東風(いなさ)の吹く夜
 大風、大雨の夜更け、訪いを受けた蜻蛉屋。奉公人たちは訝しがり、戸を開ける事を拒むが、難義しているのではとお瑛は、2人を招き入れる。
 そして、夜明けまで待てないと言う2人のために、舟や駕篭を手配し送り届けるのだが、どうにもおかしいと訝しがる市兵衛が後日探ると、2人の姿は跡形もな消え去っていた。
 
 2人は押込み、もしくは盗人であり、是が非でも夜の間に逃亡する必要があった。姫と言われていた娘は実は男だったと市兵衛は気付いていたという、同シリーズでは、これまでにない落ちのあるストーリ展開であると記憶する。
 登場人物も少なく、場面もほとんどが蜻蛉屋であり、お芝居的な物語であり、新鮮であった。面白い。

主要登場人物
 磯野...旗本・阿部源右衛門家の奥女中(?)
 縫...阿部源右衛門家の姫(?)

第三話 笑う菩薩
 人気噺家の三遊亭小蝶が蜻蛉屋を訪い、お瑛にお百の執拗な贔屓を止めさて欲しいと懇願する。小蝶はお瑛とお百が旧知の仲と思ってのことだが、お瑛は元よりお百の事は知らない。
 また、過去をほじくられたくないお寿々が、お百には迷惑を掛けられていると言う。
 お百はいったい何を目的に小蝶やお寿々に突き纏うのか?

 色ぼけのように描かれているお百が、実は、生き別れの弟を小蝶に重ねていたという展開。そしてお百とお寿々の過去からの確執も、表面的には互いに悪態を付きながらも、切るに切れない情が絡む、大人の関係を描き、終末もお百の素性を明らかにはしないまでも、大方は分かるであろうといった、実に難しい手法で巧くまとめている。

主要登場人物
 お百...商家の女将(?)
 三遊亭小蝶...四ッ谷の噺家
 お寿々(鈴香)...伊勢町・料亭伯楽の女将

第四話 蛍
 人気の雲竹亭弥吉と、その谷町の上州屋長兵門の席に招かれたお瑛。何事も無い宴席に思われたが、長兵門の鼻緒が切れる。今は亡き弥吉の女房のお波を見掛けたと知り合いのお里が現れる上に、霊感のある夕菊が曰くありげな発言をする。
 そして、悪酔いした長兵門が、橋の上から消え去るといったホラーめいた夜になった。

 種明かしは、弥吉の出世のために、長兵門と不義を働いたお波が、長兵門から渡された薬で自害した。弥吉の仇討ちである。
 だが、ラストは、蛍を演出し、幻想的かつホラー、ミステリアスに締めている。
 こちらも、新しい展開で見逃せない。
 
主要登場人物
 お紋...柳橋料理茶屋・一色楼の女将
 雲竹亭弥吉...五代目南北門下の狂言作家
 上州屋長兵門...日本橋履物問屋・高利貸しの大旦那
 夕菊...柳橋置屋・鶴屋の芸妓
 お波(波江)...弥吉の女房

第五話 鯨の見た夢
 醍醐新兵衛の誘いで、鯨を見に、内房の清ノ浦の大井留吉の元に身を寄せたお瑛と市兵衛は、夜更けに傷だらけで逃げ惑う幼い娘・お春を保護したのだった。
 だが、村人たちはお春をただの迷い子として親元へ戻すと屈託が無い。
 当のお花は怯え、市兵衛から離れない有様に、お瑛と市兵衛は、生け贄をキーワードにお春救出に…。
 だが、村全体から包囲されたお瑛と市兵衛、お春は、屋敷を囲まれ火をつけられ絶体絶命の危機に落ちるのだった。
 心あるお房の機転で、窮地を脱したお瑛らは、江戸へと生き延びる。
 
主要登場人物
 醍醐新兵衛...内勝山・鯨組総元締
 お春...漁師の娘
 大井留吉...勝山清ノ浦・廻船問屋の主
 お房...大井家の女中

第六話 浄夜
 蜻蛉屋に連れ帰ったが、未だ言葉を発しないお春。だが、絵にだけは興味を示すので、画塾に通わせていたのだが、浮世離れした画の師匠・東風庵一斎の借金のかたに悪名高き金貸し・大福屋に連れ去られてしまう。
 その大福屋の主・久蔵が、お春を養女に迎えたいと申し出た矢先、お春の実の父親である忠助が、嫌がるお春を連れ去るのだった。
 そして、お春は川に身を投げて逃れ、それを救おうとして、久蔵も川に飛び込む。

 久蔵の過去と、表向きの無情な金貸しではない顔が明らかになるも、久蔵の行方は知れず、お春は尼僧院に預けられて物語は終焉となる。
 「第五話 鯨の見た夢」からの連作となるが、計算された緻密な運びであった。
 
主要登場人物
 お春...房総勝浦・漁師の娘
 東風庵一斎...十軒店画塾の師匠
 大福屋久蔵...通旅籠町・金貸しの主
 忠助...房総勝浦の漁師、お春の父親

 これまで飛び飛びで読んだ同シリーズではあったが、我が知る限りシリーズ先高傑作だろう。切なさ、そして生き様、人としての情など、感慨深い作品である。
 今回にして初めて、市兵衛の需要さに気が付いた。
 同シリーズを読んでいなくても森氏を知らなくても、この作品から入って欲しい。




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旅立ちの鐘~日本橋物語5~ 

2012年08月03日 | 森真沙子
 2009年7月発行

 江戸一番の商人の町、日本橋で細腕一本で生きる美人女将お瑛を取り巻く、男と女の愛情劇を描いたシリーズ第5弾。



第一話 四つ刻(午前十時)の鐘
第二話 五つ刻(午後八時)の鐘
第三話 九つ刻(午前零時)の鐘
第四話 八つ刻(午前二時)の鐘
第五話 暮れ六つ(午後六時)の鐘
第六話 七つ刻(午後四時)の鐘 計6編の短編集

主要登場人物(レギュラー)
 蜻蛉屋(とんぼ屋)お瑛...日本橋室町反物・陶磁器の商い
 お豊...お瑛の義母
 市兵衛...蜻蛉屋の番頭
 文七...蜻蛉屋の使い走り
 お民...蜻蛉屋の女中
 お初...蜻蛉屋の賄い、お瑛の婆や
 若松屋誠蔵...日本橋室町紙問屋の主、お瑛の幼馴染み
 岩蔵(とかげの親分)...岡っ引き

第一話 四つ刻(午前十時)の鐘
 浅草三の酉の夜、番頭の市兵衛が、身重の娘を川の中から救い上げ、蜻蛉屋に連れ帰って来た。娘ははなぜ身投げしようとしたのか…。
 話の上でしか登場しない千吉ではあるが、その存在感は大きく、彼に同情を隠せない。切ない結末である。

主要登場人物
 お郁...千住本宿太物問屋近江屋の娘
 千吉...遊び人  香具師
 笹屋熊五郎...浅草釣堀屋の主
 彦市...龍閑寺に住まう按摩


第二話 五つ刻(午後八時)の鐘
 子猫を拾ったお瑛だったが、野良猫の始末に難義する婆やのお初に飼うのを渋られ、捨て猫の面倒を見ていると言う、蔵前の釣り具店へ預けに向かった先で、若い侍に見咎められる。
 陥れられた若侍の話だが、この若侍こと片桐清三郎の頭の回転の良さと機転に、感服。胸の透く話に終わっている。

主要登場人物
 片桐清三郎...某藩江戸屋敷詰め藩士
 笹川陶太郎...某藩江戸屋敷詰め藩士、清三郎の上役


第三話 九つ刻(午前零時)の鐘
 梵天堂に、3年前に瑞縁寺に売った鐘が、僧2人の命を奪った「呪いの鐘」との曰く付きで返されてきた。年代物ではあるが、銘が読み取れず縁起来歴も分からない。僅かな手掛かりを元に、お瑛は古地図を手に入れ、件の鐘の出所を探る。
 謎解きは怪談ではなく、人的企てとして解決されるが、何かにつけお瑛が頼りにする、幼馴染みの若松屋誠蔵がここでもひと肌脱ぐ。だが2人の間に色っぽい気配はなく、この2人の関係は如何なるものか。シリーズのどこかで触れているのだろうかと気になった。
 また、空念の動きは見事であるが、空念があれだけ調べたのなら、梵天堂佐九郎、お瑛は無駄骨なのではないだろうか。

主要登場人物
 梵天堂佐九郎...神田連雀町の道具屋の主
 お美和...佐九郎の女房
 空念...行脚の修行僧
 西郡辰之進...近江藩士

 
第四話 八つ刻(午前二時)の鐘
 紀州屋の次男慎次が、押し込み人殺しのかどで、火付け盗賊改めにお縄になった。だが、慎次はどんな拷問にも無実を訴え続ける。そのありばいの証言をも否定する慎次。お瑛は、紀州屋の闇を知る。
 このシリーズは語られるだけで登場しないのだが、その人物の男気に圧倒される。この章も慎次の男気と、女の小狡さがメインである。

主要登場人物
 紀州屋又兵衛...新材木町薪炭問屋の主
 慎次...又兵衛の次男
 松江...又兵衛の後妻
 お絹...又兵衛の娘、慎次の義妹
 彦市...龍閑寺に住まう按摩


第五話 暮れ六つ(午後六時)の鐘
 若くして身投げした扇屋お紋の遺骸が打ち上げられた場に、父親が地蔵を建立したと知ったお瑛は、線香を手向ける為に、遠いかの地へ向かうのだった。
 そこで、思いも掛けず、かの地にまつわる鐘の由来を聞く事になる。
 この話は他と一線を画している。登場人物は、お瑛と名もない釣り人の男性のみ。そして話は過去の遡り、その話の終末に泡のように儚い男性像。
 珍しいファンタジーであった。

主要登場人物
 釣り人...店の主風
 室町時代の人物
 丹治未堂...鎌倉の鋳物師
 丹治秀直...鎌倉の鋳物師、未堂の甥
 柏...未堂の娘
 
第六話 七つ刻(午後四時)の鐘
 按摩を生業にする座頭の彦市は、客であるお倫を憎からず思い、その使い走りも厭わなかった。だが、ある日の頼みは尋常ではなく、直感で命の危機を感じ、辛くも蜻蛉屋へ駆け込むのだった。
 こういった話は真底堪える。善良な者を巻き込み己の私欲を満たす人物。多かれ少なかれそういった人は何時の時代もいるが、保身の為、何ら関わりのない人物を巻き込む者の人としての情に訴える作品。
 ラスト2行は深い。

主要登場人物
 彦市...龍閑寺に住まう按摩
 お倫...材木問屋栃木屋の妾
 天戒...荒布町法輪寺の僧
 お種...龍閑町総葉屋の娘
 貞吉...お倫の下男
 蜥蜴の親分...岡っ引き
 
 お瑛さんの回りは問題だらけ。本人は決してトラブルメーカーではないのだが、否応無しにトラブルに巻き込まれてしまう。
 同時に何て顔の広い人なのだ。日本橋周辺は知り合いばかり。
 この作品にて彦市がクローズアップされた。その後も彦市は登場するかと思われたが、後続のシリーズ7、8しか読んではいないが、もはやこの作品が彼の終焉だろうと思われる。
 騙されても陥れられても、好いた女を思う彦市の心が切ない作品だった。
 この作家さん。作品に波もあり、女性にしては情景描写は下手であるが、人が心に隠し持ち、決して他人には知られたくない部分をずばりと指摘している。
 3冊読んで、改めてこれまでと違った視点で、共鳴出来る作家だと感じた。
 結末が、可哀想でお涙ちょうだいなら、読者も寸の間感動するだろう。だが、前にも書いたが、どの話も悲惨結末に持っていかない辺りが、この方の大きさでもあろう。それであって、訴え掛けるのだ。
 増々読んでみたい作家になった。時刻に見合わせたストーリーも見事である。



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お日柄もよく~日本橋物語8~

2012年08月02日 | 森真沙子
 2010年8月発行

 江戸一番の商人の町、日本橋で細腕一本で生きる美人女将お瑛を取り巻く、男と女の愛情劇を描いたシリーズ第8弾。


第一話 消えた花嫁

第二話 美しい秘密

第三話 見果てぬ夢

第四話 迷い道

第五話 月下氷人

第六話 鬼女の詫び状
第七話 猫奉行

エピローグ 長編

主要登場人物(レギュラー)
 蜻蛉屋(とんぼ屋)お瑛...日本橋室町反物・陶磁器の商い
 お豊...お瑛の義母
 市兵衛...蜻蛉屋の番頭
 文七...蜻蛉屋の使い走り
 お民...蜻蛉屋の女中
 お初...蜻蛉屋の賄い、お瑛の婆や
 若松屋誠蔵...日本橋室町紙問屋の主、お瑛の幼馴染み

 大店山城屋に招かれたお瑛は、信じられない話を聞かされる。その日は、山城屋の娘の婚礼の日であるが、当の花嫁が行方知れずになった為、風貌の良く似ているお瑛に身代わりを務めて欲しいと言うのだ。
 花嫁は自ら姿を眩ませたのか、それとも勾引しなのか…。花嫁の身を案じながらも後に引けない山城屋の頼みに、お瑛は身代わりを承諾する。
 山城屋の娘の失踪事件を章ごとに語り手を変え、その日一日を追いながら、過去を顧みる。語り手が違えど混乱する事なく、自然な流れで違った視線から描く手法が新鮮である。
 前回、切なさも主入れもなく宇江佐真理さんの完勝と書いたが、土下座して詫びたい思いだ。宇江佐さんがどうのではなく、場面場面で主人公(語り手)を変えながら、これ程迄に完成度の高い作品は初めてである。
 特に「第四話 迷い道」のお珠(みよ)、隅田川甚五郎と、「第五話 月下氷人」のお染、明石屋辰二郎の件は目頭が厚くなった。是非とも隅田川甚五郎の後日談をスピンオフで描いて欲しい。
 そして最後の最後に語り手となった棚橋左衛門之丞国義。大きな人物である。この人の嫁が、お郁で良いのか否か。お郁に関しては、器量良し、分限者の娘をかたにきた、単なる嫌な娘としか捕らえられなかった。
 最後は相思相愛ながら、身分の違いから10数年を要してしまった。それでも国義は先妻の町江への思いは色褪せていないと、奇麗に纏めている。
 色仕掛けで男をたらし込もうとしたり、お郁には最後まで共感出来なかったが、誰ひとり不幸にはなっていないながらに、つのる思いを描いている素晴らしい作品と言えるだろう。
 お瑛さんは脇役。この物語は、「日本橋物語」シリーズを脱しても成り立つ話である。
 因にカバーイラストの花嫁を先導する男は、蜻蛉屋の藍半纏姿だが、物語上、この男は権八と思われ、正しくは船茂の半纏ではないだろうか。お瑛が身代わりとなってから蜻蛉屋は関わっていない。お郁は白無垢姿になっていない。とすれば、白無垢はお瑛であり、先導は、権八しかいない。
 何はともあれ、ほかの作品も購入した、読みたいシリーズとなった。

主要登場人物
 山城屋嘉次郎...上野池之端醤油問屋の主
 お郁...嘉次郎の娘
 お徳...嘉次郎の女房
 兵蔵...山城屋の番頭
 お粂...お郁の乳母、日本橋堀江町船宿船茂の女将
 権八...お粂の息子、船茂の船頭
 棚橋左衛門之丞国義...御勘定方、お郁の婚礼相手
 曲淵猪蔵...山城屋の用心棒夜番、元紀州藩お馬廻り
 乙吉...山城屋の用心棒昼番
 喜八...岡っ引き
 新川弥平太...定町廻り同心
 お珠(みよ)...山城屋女中(牛込漬物屋菊一女中→府中墓石屋養女)
 隅田川甚五郎...大道芸人
 枡屋伝兵衛...日本橋小網町行徳彼岸廻り塩問屋の主
 お染...伝兵衛の娘
 明石屋辰二郎(千住廻船問屋武蔵屋の倅)...新堀町下り塩問屋の次男
 町江...国義の先妻
 神崎蔵ノ介...国義の上役、町江の兄


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やらずの雨~日本橋物語7~ 

2012年07月31日 | 森真沙子
 2010年8月発行

 江戸一番の商人の町、日本橋で細腕一本で生きる美人女将お瑛を取り巻く、男と女の愛情劇を描いたシリーズ第7弾。



第一話 藤娘

第二話 はやぶさの七

第三話 十六番目の男

第四話 朝顔市の女

第五話 鬼火 計5編の短編集

主要登場人物(レギュラー)
 蜻蛉屋(とんぼ屋)お瑛...日本橋室町反物・陶磁器の商い
 お豊...お瑛の義母
 市兵衛...蜻蛉屋の番頭
 文七...蜻蛉屋の使い走り
 お民...蜻蛉屋の女中
 お初...蜻蛉屋の賄い、お瑛の婆や
 若松屋誠蔵...日本橋室町紙問屋の主、お瑛の幼馴染み
 井桁屋新吉...十軒店新道居酒屋の若旦那
 岩蔵(とかげの親分)...岡っ引き
 
第一話 藤娘
 お瑛の元に、以前、若松屋誠蔵の子を宿し女手一つで育てるお絹が顔を出し、誠蔵に繋を付けて欲しいと告げた。折しも、猿渡九谷の窯元四代目圓次郎の作を蜻蛉屋で即売する催しが開かれる。
 お絹の過去と女心が、交差する。
 勝手ではあるが、お絹の心情は察するに余あり、取り返しの付かない人生ながら、漸く大切な事に気付いた女心が描かれている。

主要登場人物
 お絹(おりん)...馬喰町公事宿屋山佐の下働き
 四代目圓次郎(竹次郎)...加賀豊浦藩猿渡郷陶工


第二話 はやぶさの七
 余命幾許もない定七は、賭場で見掛けた若い男が、どうも洪水で流され行方知れずの我が子ではないかと疑念を抱く。手掛かりを求め定七に変わってお瑛を訪った京蔵の口から、お瑛は意外な真実を耳にする。それは、蜻蛉屋存続に関わるある一件にあった。
 定七の息子探しと言うよりも、たった一度の出会いが、お瑛に染みた定七の面影が印象的な作品。

主要登場人物
 定七(はやぶさの七)...渡世人
 お仲...定七の女房、日本橋小網町足袋屋藤村屋の娘
 京蔵...渡世人
 竜七...渡世人 


第三話 十六番目の男
 失火で店を閉めた大店井筒屋の奉公人たちが、5年前後顔を揃えた。失火の原因を探る噂話に花が咲く中、その火事で焼死した番頭の重兵衛に出会ったと、寅吉が息を弾ませ現れる。そして与志田の女将志津の口から、同時に焼死した女中頭のお菅と重兵衛の意外な関係が洩らされる。
 失火なのか、放火なのか。その目的は。
 お瑛と松五郎の淡い恋心を搦めながら、5年前の井筒屋の内状、事件当夜の様子。そして奉公人それぞれが抱える秘密などが語られ、正しく同窓会。
 そして結末は煙に巻かれたままといった完成度の高い一編である。 

主要登場人物
 松五郎...本所木綿問屋の番頭、元大伝馬町木綿問屋井筒屋の手代
 千蔵...呉服問屋の着付係り、元井筒屋の手代
 清次郎...小間物の行商人、元井筒屋の手代
 留七...芝居小屋の呼び込み、元井筒屋の手代
 寅吉...貸本担ぎ、元井筒屋の丁稚
 伍助...廻船問屋の算盤方、元井筒屋の丁稚
 志津...蔵前料理茶屋与志田の女将


第四話 朝顔市の女
 朝顔市でお瑛は、お稲を見掛けた気がした。だが、その女は、評判の占い師の神田乙女であるらしい。地廻りの岡っ引きに寄れば、余りに事件を言い当てるので、近く奉行所の手が入ると言う。お稲であれば放っておけず、お瑛が確かめてみると、意外な真実が…。
 ひとりの男との出会いが、女を悪事に走らせる。そしてそれが分かっていても女は、どこかで男を信じる気持ちを捨てられない。女心を逆手に取った悪しき話である。

主要登場人物
 神田乙女(お稲)...占い師
 お瀧(滝川)...お耳様(看取り人)
 願真...破戒僧


第五話 鬼火
 武家に嫁いだ登勢は、里帰りの帰りに幼馴染みのお袖とばったり出会した。数年振りの出会いは、お袖をすっかり変貌させ、登勢はお袖に誘われるまま悪所で身を売るようになる。
 だが、数カ月後、登勢は一通の脅迫状を受け取り、その差出人が、お瑛も義兄弥太郎ではないかと疑惑が掛る。
 話自体は、「必殺シリーズ」の序盤のような展開。結末は、ハッピーエンド。物語としては山場もあり纏まってはいるが、どうしてもこの主人公の登勢の行動が掴めず。美男で真面目な夫に添え、姑との確執もなく幸せな筈が、単に好色な女だったのだろうか? とすれば、それなりの悲惨な結末や、堕落した人生が待っていても良いのだが、何事もなかったかのように、貞淑な妻に戻っている。寸の間の気の迷いか? にしては解せず。

主要登場人物
 朝比奈良太郎...若年寄配下御勝手方勘定所組頭
 登勢...良太郎の妻、日本橋通町呉服問屋加賀屋の娘
 お袖...式亭櫓庵の妾、日本橋通町乾物屋の娘
 式亭櫓庵...黄表紙作家
 郁...深川仲町料理茶屋生島屋の女将
 
 著者の作品は初めて読ませて頂いた。この「日本橋物語」もシリーズ化されているので、人気の作品だろう。確かに、短編集として読み易い。無駄な登場人物おらず、並びに回想シーンも分かり易い。
 美人独身女将が市井の出来事に関わる物語として、映像化されていても可笑しくないと思う(もし既存なら申し訳ありません)。事件が起きる訳ではなく、捕り物劇でもない為、ドラマとしては成立しないのだろう。
 それにしてもお瑛さん。たった1冊の中で、過去に淡い恋心を幾つ抱いていた事やら。この分では、シリーズを通して読むと、相当な数になるだろう。
 更に、よくもまあ、訳ありな人との関わりが多い事(そうでなければ物語にならないが)。
 感想としては、淡々と物語が進み、切なさや悲しみが込み上げてくるような作品ではない為、同じ市井物なら、個人的にはやはり宇江佐真理さんに軍配。



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