うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

まんがら茂平次

2012年11月06日 | 北原亜以子
 2010年2月発行
 
 万に一つの真実もないのがまんがらの異名を取る茂平次。幕末維新の激動期に、嘘で憂き世を渡った茂平次の面白人生。

まんがら茂平次
朝焼けの海
嘘八百
花は桜木
去年(こぞ)の夢
御仏のお墨附
別れ
わが山河
女の戦争
正直茂平次
そこそこの妻
東西東西 計12編の連作長編

 四つの時に、両親を相次いで亡く、七つで初めて嘘をついてから、口先三寸で生きてきた茂平次。万にひとつも真実はないことから、まんがら茂平次との有り難くない渾名を貰っている。
 馴染みの女にも、勘当中の大店の息子という嘘がばれ、財布を取り上げられ無一文になって追い出される始末。ひと目惚れをした女からは、薩摩の手先となって火付けをしろと命じられ…。
 一方、何故か憎めない茂平次の周囲には、勤王の志しの下、無体を働く薩摩藩邸から逃げ出した新田謙助や、鳥羽伏見で破れ新撰組を脱走した森末金吾、果ては旗本の黛宗之助、定町廻り同心の菅谷年次郎などが集い…。
 人助けのために、まんがらを繰り返しながらも、逞しく幕末を走る抜ける茂平次であった。
 まずは、茂平次の淡い恋心と手痛い仕返しから幕を開ける物語。市井物の認識で読み進めると、二章目に百姓から身を興したく薩摩藩に関わった謙助。三章では、新撰組の在り方や、徳川慶喜が配下を置き去りに江戸に逃げ帰った事に憤りを抱く金吾、章が進むと、武士ながらも腕っ節はからっきし。だが、惚れた女を守りたいと彰義隊に入隊する宗之助といった、維新真っただ中の渦中にあった男たちがクローズアップされ、物語は次第に青春群像劇へと変わっていく。
 市井物と維新群像が見事に融合した作品である。江戸が消え失せるかも知れないとなった時、男たちが抱く価値観を現している。
 そんな最中でも、茂平次には御時世もなにもありはしない。相も変わらずまんがらで長屋で燻る毎日。だが、幼い頃に亡くした親との唯一の思い出の場所だけは戦火を逃れて欲しい。そんな茂平次の思いを、北原氏の美しい筆の冴えが色濃く再現している。
 また、本文中、江戸の景色や季節感を随所に盛り込んでおり、活字ながらも情景が脳裏に焼き付く作品である。北原氏の巧さに、ただただ感服するのみである。
 
主要登場人物
 茂平次(まんがら茂平次)...神田鍛冶町下駄新町・五郎兵衛店店子
 新田謙助...武州蓮沼村の百姓→薩摩藩抱え浪士(脱走)→仁兵衛蕎麦奉公人
 森末金吾...多摩石田村出身→新選組(脱走)
 黛宗之助...幕府直参旗本の四男→彰義隊隊士
 おゆう...神田鍛冶町・清元の師匠
 小ぎん...柳橋芸者
 おいね...武州蓮沼村の百姓
 お鈴...麹町茶道具屋の娘→南鍋町味噌問屋の奉公人→神田鍛冶町住まい
 お品...芝浜松町筆屋の娘→出奔
 菅谷年次郎...元北町奉行所定町廻り同心→市政裁判所邏卒
 内藤喜十郎...幕府直参旗本→甘酒売り
 藤田良作...薩摩藩士→東征軍兵士


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