うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

てんげんつう

2019年09月26日 | 畠中恵
2019年7月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第18弾。

てんぐさらい
たたりづき
恋の闇
てんげんつう
くりかえし 計5編の短編連作

てんぐさらい
 寝付いていた一太郎の元に、国中から良薬が届けられる中、西の天狗姫・花風が、神薬を3粒携えやって来た。
 なんでも、一太郎の祖母(ぎん)で大妖・皮衣と、江戸の始まり頃に神が落とした7粒の神薬を多く拾う賭けをしたらしい。
 既に3粒集めた天狗姫・花風は、己が勝ったら仁吉と所帯を持つことを条件にしていたと言う。すなわち押し掛け花嫁だった。
 一方、一太郎の許嫁である於りんが、中屋共々神隠しにあったかの如く消えていた。
 一太郎、仁吉、佐助は、この二つの謎解きに奔走する。

たたりづき
 一太郎の祖母(ぎん)で大妖・皮衣と大喧嘩をした仙狐の子の仙太が、ぎんへの逆恨みから、一太郎の縁故の者を祟ったと言うから、大騒ぎ。
 だが、祟った相手は、ぎんの孫である一太郎の許嫁の於りんの養父、深川材木問屋・中屋の主人の縁戚のその寺の住職の弟子といった、何とも遠い遠い相手。
 だが、放ってはおけない一太郎は、仁吉、佐助始め、妖たちと祟られた主を助けるべく動く出したのだ。
 相手は上野真正寺の東山という若い僧だが、住職の南山は、近頃おかしな風評を立てられ困っていると言う。
 その裏には、東山の生い立ちに秘密があった。東山こそが、火事で行く方知れずとなった上野の仏具屋・上川屋の跡取りであると、主張する、上川屋の暖簾を守り続けた番頭。だが、その財を我が物にしようとする親戚筋の企み…。

恋の闇
 許嫁の於りんの義父である中屋に後妻話があると言う。ただ、気になるのは、その相手が山姥ではあるまいか。と言うこと。
 一方、三春屋の栄吉に、札差の娘との縁組話が舞い込んでいると耳にした一太郎。良縁ではあるのだが、栄吉の身上に大分違いがあり、見目形だかりではなく、実家の三春屋も大店のような話になっていた。
 縁組話が重なり目出度いことではあるが、いずれも手放しには喜べないおかしな尾ひれが付いて回る。
 一太郎が、早々事情を探ると、どうも仲人が金銭欲しさに強引な話をあちこちに持ち込んでいるらしと分かり…。
 果ては、山姥、駆け落ちと、話が繋がって行くのだった。
 
てんげんつう
 「てんげんつう」から雨が降るとの知らせを受け取った一太郎。「てんげんつう」なる者に心当たりはないのだが、その予想は的中。すると、「てんげんつう」本人が長崎屋に現れ、可愛がっていた猫に、お礼にと千里眼を貰ったものの、その能力を持て余し、是が非でも普通の人間に戻れるように取り計らって欲しいとこうのだった。しかも、願いを聞き届けなければ、その力で嫌がらせをすると宣う。
 迷惑な一太郎は、上野広徳寺の僧侶・寛朝に託したのだが…。

くりかえし
 深川材木問屋・中屋の於りんからの誘いで、深川の桜見物に出掛けた一太郎と妖たちだが、当日、於りんが桜の毛虫を払おうとして、酷くかぶれた為に、桜見物は中止となってしまった。
 桜の木を覆うように毛虫が這っていると聞いた一太郎は、それを確かめに足を向ける。すると、職人風の男たちが、毛虫を「常世神」だ。と言い、一太郎に向かって、袋いっぱいの毛虫を投げ付けたからたまらない。一太郎はかぶれの為に寝つく羽目に陥った。
 屏風のぞきたちの働きで、男たちは、染井村の染花屋の植木職人であることが分かったのだが、なぜ毛虫を「常世神」などと崇めるのか気になり、貘の妖・場久の力を借り、夢のうちに男たちの動向を探ることに。
 
主要登場人物
 長崎屋一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 皮衣(ぎん)...一太郎の祖母、妖
 屏風のぞき...付喪神
 鳴家(小鬼)...妖
 鈴彦姫...付喪神
 金次...貧乏神
 おしろ...猫又
 守狐...長崎屋の稲荷に住まう化け狐
 禰々子...関東河童の大親分
 美春屋栄吉...日本橋菓子屋の嫡男(安野屋で修行中)、一太郎の幼馴染み
 寛朝...上野広徳寺の高僧
 秋英...上野広徳寺の僧侶、寛朝の弟子
 南山...上野真正寺の住職
 東山…上野真正寺の僧侶
 本島亭場久...貘の妖、噺家
 於りん 深川材木問屋・中屋の娘・一太郎の許嫁(いいなずけ)