うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

まんまこと

2012年05月31日 | 畠中恵
 2007年4月発行

 「まんまこと」。真真、本当の事。
 お気楽な、名主の跡取り麻之助と、同じく清十郎。そして八丁堀見習同心の吉五郎。3人の悪友たちが繰り広げる人情物語。

まんまこと
柿の実を半分
万年、青いやつ
吾が子か、他の子か、誰の子
こけ未練
静心なく 計6編の短編集

まんまこと
 太物問屋の娘からお腹の子の父と名指しされ、身に覚えのない清十郎は困り果て、麻之助に念者のふりを頼んで来たのだが、当の娘は麻之助と清十郎の見分けも付かず。

柿の実を半分
 質屋の三池屋小左衛門の庭から、柿を盗んだ麻之助。執拗に追い掛け回されるが、その小左衛門に、若かりし頃の忘れ形見の娘が現れる。

万年、青いやつ
 万年青の連の後、ひと鉢がその場に取り残された。持ち主を譲らぬ2人相手に麻之助は裁定を下せるか。一方、武家の娘との縁組が持ち込まれ…。

吾が子か、他の子か、誰の子
 清十郎の弟幸太こそ、息子の忘れ形見と名乗る人物が現われた。麻之助、清十郎、吉五郎は、亡き松三郎の足取りを辿る。

こけ未練
 麻之助は、見合い相手がほのかな思いを寄せる、又四郎を見舞う途中、狆と娘を拾ってしまう。狆は致し方ないが、娘も何も語らず途方に暮れて。

静心なく 
 幸太が攫われ、五十両を要求された。町名主の裁定に逆恨みをしての犯行か。それとも金欲しさからなのか。下手人の狙いは…。

 畠中さんの作品で、一番好きなシリーズ。お気楽な麻之助、女もに滅法強い男前の清十郎、堅物の吉五郎。三者三様のキャラが生きた痛快娯楽時代小説だ。
 そして静かに流れる麻之助の思いと、人の切なさが心に響く。

主要登場人物
 高橋麻之助...神田の古町名主宗右衛門の総領息子
 八木清十郎...隣町の町名主源兵衛の総領息子
 相馬吉五郎...北町奉行所見習同心
 宗右衛門...神田の古名主、麻之助の父親
 おさん...麻之助の母親
 源兵衛...神田の町名主、清十郎の父親
 お由有...清十郎の義母
 幸太...清十郎の弟
 野崎寿ず...麻之助の見合い相手、吉五郎の遠縁
 水元又四郎...旗本の息子、寿ずの思い人



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やなりいなり

2012年05月30日 | 畠中恵
 2011年7月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第10弾。

こいしくて
やなりいなり
からかみなり
長崎屋のたまご
あましょう 計5編の短編集

こいしくて
 一太郎の元へ、疫神、禍津日神、疱瘡神、時花神が揃って姿を現した。病いを引き起こす神々が通町に入って来れたのは、橋の結界を守る橋姫が失せたからだと言う。

やなりいなり
 守狐が、一太郎の為に稲荷寿司を携えていた。その稲荷寿司に伸びる腕だけがあった。護符を貼ると姿も現れたが、幽霊なのか。

からかみなり
 父の藤兵衛が、出掛けたきり3日も帰って来ない。離れの妖たちは好き勝手に詮索するが、戻った藤兵衛が連れていたのは雷獣の子だった。

長崎屋のたまご
 雲の端がくるりと丸くなり、長崎屋の中庭に青い玉と、茜色の雲に住まう魔が落ちて来た。百魅と名乗る魔は、後を追って来た兄弟たちと激しい喧嘩を繰り広げ。

あましょう
 栄吉に会いに出掛けた安野屋で、菓子を買い占めながら不機嫌そうな二人の男と出会う。栄吉が菓子を届ける為に一太郎も付いて行くのだった。

 「こいしくて」神、「やなりいなり」幽霊、「からかみなり」雷獣、「長崎屋のたまご」魔と、新たな顔触れで、新鮮な物語である。そして最後の「あましょう」。これは、シリーズ最高傑作。こちらは生霊なのだが、「しゃばけ」シリーズとは思えない切なく悲しい物語で胸を強く打たれた。
 「ゆんでみて」から、畠中さんの作風に深み、鋭さが増していったように感じ入った。

主要登場人物
 
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親
 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 松之助...日本橋小間物屋青玉屋の主、一太郎の異母兄
 栄吉...菓子屋三春屋の長男、一太郎の幼馴染み
 屏風のぞき...付喪神
 
 鳴家(小鬼)...妖
 
 鈴彦姫...付喪神
 
 野寺坊...妖
 
 獺...妖
 
 蛇骨婆...妖
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 金次...貧乏神
 
 おしろ...猫又
 お獅子...付喪神
 京橋の橋姫...橋の守り神
 一魅、三十魅、百魅...魔



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ゆんでめて

2012年05月29日 | 畠中恵
 2010年7月発行

 「ゆんでめて=弓手馬手」。弓を持つほうの手=左の手。馬上で手綱を取る方の手=右の手。
 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第9弾。

ゆんでめて
こいやこい
花の下にて合戦したる
雨の日の客
始まりの日 計5編の短編集

ゆんでめて
 一太郎は鹿島の事触れと呼ばれる禰宜に、行方知れずとなっている屏風のぞきを探して貰おうと外出をしていた。すると、当の禰宜が剣呑な輩に追われていた。

こいやこい
 七之助の許嫁が上方から江戸に出て来たが、娘は七之助に、同じ年格好の娘5人の中から、自分を見付け出す事を嫁入りの条件にしていた。

花の下にて合戦したる
 一太郎は、長崎屋の妖たちと王子の飛鳥山で花見を宴を開こうと、勇んで出掛けるのだった。次々と人や妖が加わり賑やかだったのだが、見知らぬ何者かが…。

雨の日の客
 雨の日が続き、堀も川も水かさが増していったある日、鈴彦姫は剣呑な男に捕らえられたところを、長身の女に助けられる。

始まりの日
 一太郎は、時売り屋の八津屋勝兵衛と出会う。その商いとは、客が希望する時間を売るという不思議な物だ。やがて勝兵衛は、長崎屋の時を買いたいと言い出す。

 シリーズ最高傑作と太鼓判。物語が徐々に時を下っていくのだ。1冊を通してのテーマは、屏風のぞきである。そこに、花見や大雨、火事などを搦め物語に幅を持たせている。
 このシリーズ中、初めて涙した1冊だった。

主要登場人物
 
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親
 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 松之助...日本橋小間物屋青玉屋の主、一太郎の異母兄
 栄吉...菓子屋三春屋の長男、一太郎の幼馴染み
 屏風のぞき...付喪神
 
 鳴家(小鬼)...妖
 
 鈴彦姫...付喪神
 
 野寺坊...妖
 
 獺...妖
 
 蛇骨婆...妖
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 金次...貧乏神
 
 おしろ...猫又
 お獅子...付喪神
 寛朝...上野広徳寺の僧侶
 生目神...目の神
 七之助...瀬戸物町唐物屋小乃屋の総領息子
 冬吉...小乃屋の次男
 六鬼坊...信濃の大天狗
 管狐...妖
 阿波六右衛門...狸の妖
 禰々子...河童



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ころころろ

2012年05月28日 | 畠中恵
 2009年7月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第8弾。

はじめての
ほねぬすびと
ころころろ
けじあり
物語のつづき 計5編の短編集

はじめての
 母親の目の病い快癒の為に、七宝を集めている娘紗衣が一太郎を訪った。目医者の古田昌玄が、眼病快癒の為に、品陀和気命の社を建てその祠に収めるのだそう。

ほねぬすびと
 一夜にして目が見えなくなっていた一太郎。家人も妖も大騒ぎである。一方長崎屋は、久居藩の岩崎と名乗る武士より、献上品の輸送を頼まれるが、江戸に到着すると品物が消えていた。

ころころろ
 仁吉は、母を捜す人形の小ざさ、妖が見える子どもの万太、そして見せ物の小屋から逃げ出したろくろっ首と唐傘にまで、助けを求められる。

けじあり
 一日の商いを始めようとした佐助は、「けじあり」と書かれた紙を見つける。佐助はおたきと夫婦で、多喜屋という小間物を扱う店を営んでいた。

物語のつづき
 一太郎の目の光を奪った生目神が、広徳寺の罠に捕まった。生目神は、自分の問いに答えられたら目を返すと、一太郎に告げる。

 「はじめての」では、目の神様の祠を建てる話であったが、「ほねぬすびと」で一太郎が視力を失うといったシリーズ最大の衝撃が待ち受けていた。「ころころろ」では仁吉が、「けじあり」では佐助が、それぞれに一太郎の目を直す為に奔放。「けじあり」は謎解きパズル的要素も含まれる。

主要登場人物
 
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親
 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 松之助...一太郎の異母兄、長崎屋の手代
 栄吉...菓子屋三春屋の長男、一太郎の幼馴染み
 屏風のぞき...付喪神
 
 鳴家(小鬼)...妖
 
 鈴彦姫...付喪神
 
 野寺坊...妖
 
 獺...妖
 
 蛇骨婆...妖
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 金次...貧乏神
 
 おしろ...猫又
 お獅子...付喪神
 寛朝...上野広徳寺の僧侶
 生目神...目の神


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いっちばん

2012年05月27日 | 畠中恵
 2008年7月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第7弾。

いっちばん
いっぷく
天狗の使い魔
餡子は甘いか
ひなのちよがみ 計5編の短編集

いっちばん
 長崎屋の離れに住まう妖たちが、一太郎を慰めようと、それぞれに菓子、春画、根付けを求め町に出るが、そこで怪しげな飴売りに遭遇する。

いっぷく
 長崎屋は、近江出店である唐物屋西岡屋と同じく小乃屋との3店による品比べを行う事になった。一太郎は、小乃屋息子の七之助の態度に不振を抱く。

天狗の使い魔
 大天狗の六鬼坊に、眠っているところをさらわれた一太郎。六鬼坊は一太郎を人質に、管狐を手に入れようと言うのだ。

餡子は甘いか
 老舗菓子屋の安野屋で修行している栄吉は、蔵から砂糖を盗もうとしていた泥棒を捕らえる。だが、この八助、味覚が優れ、器用で菓子作りの才に恵まれていた。

ひなのちよがみ
 紅白粉問屋一色屋の孫娘のお雛に、千代紙の入手先を相談された一太郎。早々助言をするが、お雛の許嫁である正三郎が一太郎に文句を言いにやって来るのだった。

 「いっちばん」の仁吉と屏風のぞきの絡みは絶妙。思わず「屏風のぞき、止めておきな」と声を掛けたくなった。「いっぷく」は、独立した作品ながら、「ちんぷんかん」収録の「鬼と小鬼」との繋がりにはたと膝を打った。栄吉スピンオフの「餡子は甘いか」。天狗と一太郎のコミュニケーションが笑える「天狗の使い魔」。お雛がついに化粧を落とした「ひなのちよがみ」。秀作ぞろい。

主要登場人物
 
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代

 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親
 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 松之助...一太郎の異母兄、長崎屋の手代
 栄吉...菓子屋三春屋の長男、一太郎の幼馴染み
 屏風のぞき...付喪神
 
 鳴家(小鬼)...妖
 
 鈴彦姫...付喪神
 
 野寺坊...妖
 
 獺...妖
 
 蛇骨婆...妖
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 金次...貧乏神
 
 正三郎...材木問屋中屋の主人の弟
 お雛...紅白粉問屋一色屋の孫娘、正三郎の許嫁
 おしろ...猫又
 お獅子...付喪神
 寛朝...上野広徳寺の僧侶
 七之助...瀬戸物町唐物屋小乃屋の総領息子
 冬吉...小乃屋の次男
 六鬼坊...信濃の大天狗
 管狐...妖


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ちんぷんかん

2012年05月26日 | 畠中恵
 2007年6月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第6弾。

鬼と小鬼
ちんぷんかん
男ぶり
今昔
はるがいくよ 計5編の短編集

鬼と小鬼
 長崎屋に火の手が回り、煙を吸った一太郎が目を覚ましたのは賽の河原だった。一太郎は、自分に付いて来てしまった鳴家と獅子を現世へ戻そうと策を練る。

ちんぷんかん
 妖退治で有名な寛朝の弟子秋英は、一組の父娘の相談を受けるが、気付いた時には、一冊の草紙の中に取り込まれてしまっていた。

男ぶり
 一太郎の母おたえは14歳の折り、老舗煙管屋の次男辰二郎との縁談が進んでいたが、辰二郎の叔父の身の周りで起きた不思議な出来事を解決すると…。

今昔
 陰陽師が使う式神に顔を塞がれた一太郎。異母兄松之助の縁談相手である、米屋の大店玉乃屋に、陰陽師が出入りしている事を知る。

はるがいくよ
 一太郎の離れに、赤子の入っている籠が置かれていた。通常の何倍もの早さで成長していくその赤子は、桜から生まれた妖であった。

 「鬼と小鬼」では、一太郎がついに三途の川にまで、足を伸ばしてしまった。僧と妖が算術で戦う「ちんぷんかん」。一太郎の母のおたえの、若かりし頃の恋心。「今昔」では陰陽師が、「はるがいくよ」では、桜の妖が。バラエティ豊かな内容の1冊。

主要登場人物
 
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親
 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 松之助...一太郎の異母兄、長崎屋の手代
 栄吉...菓子屋三春屋の長男、一太郎の幼馴染み
 屏風のぞき...付喪神
 
 鳴家(小鬼)...妖
 
 鈴彦姫...付喪神
 
 野寺坊...妖
 
 獺...妖
 
 蛇骨婆...妖
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 金次...貧乏神
 
 於りん...深川材木問屋中屋の娘
 お雛...紅白粉問屋一色屋の孫娘
 おしろ...猫又
 お獅子...付喪神
 冬吉...賽の河原で出会った子ども(唐物屋小乃屋の次男)
 寛朝...上野広徳寺の僧侶
 秋英...広徳寺の僧侶、寛朝の弟子
 小紅...桜の妖
 阿波六右衛門...狸の妖


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みぃつけた

2012年05月26日 | 畠中恵
 2006年11月発行

 5歳の一太郎が、初めて鳴家たちと出会い、親しくなるまでを描いた絵双紙。江戸の玩具や風物詩が盛り込まれている。

みぃつけた
 病いで寝飽きた一太郎の目に、覗き込む小さな鬼が写った。小鬼と遊ぼうと追い掛けるが…。
 
 可愛い絵本です。

主要登場人物
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の小僧
 
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の小僧
 鳴家(小鬼)...妖
 ばあや...一太郎の子守り



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うそうそ

2012年05月25日 | 畠中恵
 2006年5月発行

 「うそうそ」。訪ね回るさま。
 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第5弾。(長編)

江戸通町
塔之沢
芦ノ湖
東光庵薬師堂
箱根神社
地獄谷

うそうそ
 湯治をすれば丈夫になるという御神託が降ったと、母のおたえに勧められ、仁吉と佐助そして松之助と箱根を目指した一太郎。
 初めての旅に張り切る一太郎だったが、仁吉と佐助は何処かへ姿を眩ませてしまう。
 松之助と二人、誘拐、天狗の襲撃、謎の少女の出現と、旅の雲行きはどんどん怪しくなって行くのだった。

 スペクタルロマンとでも言おうか(ロマンはないが)、長編だけあり内容も豊富であり、ハラハラドキドキの読み応え十分。
 一太郎が初めての旅に、わくわくする様子も可愛い。

主要登場人物
 
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親
 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 松之助...一太郎の異母兄、長崎屋の手代
 栄吉...菓子屋三春屋の長男、一太郎の幼馴染み
 屏風のぞき...付喪神
 
 鳴家(小鬼)...妖
 
 鈴彦姫...付喪神
 
 野寺坊...妖
 
 獺...妖
 
 蛇骨婆...妖
 見越の入道...妖
 
 皮衣(ぎん)...一太郎の祖母、妖
 おしろ...猫又
 新龍...雲助
 お比女...姫神
 蒼天坊...天狗

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おまけのこ

2012年05月24日 | 畠中恵
 2005年8月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第4弾。

こわい
畳紙
動く影
ありんすこく
おまけのこ 計5編の短編集

こわい
 天狗から貰ったという、飲めば誰でも一流の職人になれる薬を、一服だけ持っていると告げる狐者異。一太郎は幼なじみの栄吉の為にそれを欲しいと告げる。

畳紙
 於りんが、一太郎の室から持ち帰ってしまった印籠をお雛が預かるが、そこへ屏風のぞきが現れ「返して欲しい」と告げる。

動く影
 一太郎は5歳の頃、影女と出会った事を思い出していた。町内の子どもたちで、影女を退治すべく立ち上がったのだ。

ありんすこく
 吉原の禿かえでを足抜けさせてると、一太郎は仁吉と佐助に告げる。それには父藤兵衛も関与しており、楼主からの依頼だった。

おまけのこ
 長崎屋の中庭で櫛職人の八介が、何者かに殴られ意識をなくしたばかりか、高価な玉が紛失した。同時に、一匹の鳴家が行方不明になり…。

 屏風のぞきが主役を張った「畳紙」。鳴家が、活躍と言うか迷惑を掛けた(?)「おまけのこ」。キャラが生かされていて面白い。「動く影」は少々難解だったように思えるが…。

主要登場人物

 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親
 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 松之助...一太郎の異母兄、長崎屋の手代
 栄吉...菓子屋三春屋の長男、一太郎の幼馴染み
 屏風のぞき...付喪神
 
 鳴家(小鬼)...妖
 
 鈴彦姫...付喪神
 
 野寺坊...妖
 獺...妖
 
 蛇骨婆...妖
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 金次...貧乏神
 
 於りん...深川材木問屋中屋の娘
 雛...紅白粉問屋一色屋の孫娘
 おしろ...猫又
 狐者異...妖


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ねこのばば

2012年05月23日 | 畠中恵
 2004年7月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第3弾。

茶巾たまご
花かんざし
ねこのばば
産土
たまやたまや 計5編の短編集

茶巾たまご
 一太郎の体調がすこぶる良い。また長崎屋にも数々の吉事が起きていた。それは金次という下男を雇い入れてからなのだ。

花かんざし
 於りんという迷子に出会った一太郎。「家に帰れば殺される」と言う於りんを長崎屋へ連れ帰り、親元を探すのだった。

ねこのばば
 お気に入りの、桃色の雲がなくなった。猫又が上野広徳寺に捕まった。その広徳寺の坊主が、松の木で首を括って死んだ。一太郎は、広徳寺で謎解きに奔放する。

産土
 資金繰りに頭を悩ましていた佐助だったが、ある日銭箱を開けると、振って沸いたかのように、百両もの大金が入っていた。金の出所は奇妙な信心であるらしい。

たまやたまや
 栄吉の妹お春の縁組相手を探りに行った一太郎は、その相手の庄蔵と共に、武士に捕らえられ蔵に押し込められてしまった。
 
 「産土」は、最後まで落ちを見せない手法で、若旦那は、若旦那なのだがといった入り組んだ話展開ながら、佐助のスピンオフ。見事な技法である。

主要登場人物
 
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親
 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 松之助...一太郎の異母兄、長崎屋の手代
 栄吉...菓子屋三春屋の長男、一太郎の幼馴染み
 屏風のぞき...付喪神
 
 鳴家(小鬼)...妖
 
 鈴彦姫...付喪神
 
 野寺坊...妖
 
 獺...妖
 
 蛇骨婆...妖
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 金次...貧乏神
 
 於りん...深川材木問屋中屋の娘
 正三郎...材木問屋中屋の主人の弟、於りんの叔父
 お雛...紅白粉問屋一色屋の孫娘、正三郎の許嫁
 おしろ...猫又
 寛朝...上野広徳寺の僧侶


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ぬしさまへ

2012年05月22日 | 畠中恵
 2003年5月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第2弾。

ぬしさまへ
栄吉の菓子
空のビードロ
四布の布団
仁吉の思い人
虹を見し事 計6編の短編集

ぬしさまへ
 火事に紛れて人殺しがあった。殺されたのは、仁吉に懸想文を渡した小間物商天野屋のひとり娘のおくめだと言う。

栄吉の菓子
 栄吉の作った饅頭を食べて、ひとり暮らしの隠居の九兵衛が死んだ。栄吉が疑われるが…九兵衛の周りにも怪しげな人物が。

空のビードロ
 一太郎の異母兄である松之助は、桶屋東屋に奉公していたが、手代にもなれず小僧のままだった。その東屋で、犬猫殺しが続いていた。

四布の布団
 一太郎の布団から、若い女の泣き声が聞こえる。布団を戻しに田原屋を訪った一太郎は、男が頭を血に染めて死んでいるのを発見する。

仁吉の思い人
 仁吉の失恋話。それは千年も前の事だ。仁吉の好きな相手(妖)は、人を好きになり行く年月彼が産まれ変わるのを待ち続けていた。

虹を見し事
 様子がおかしい。離れに妖の姿もなれけば、仁吉や佐助も妙によそよそしい。一太郎は、誰かの夢の中にいるのだと確信する。

 「空のビードロ」は長崎屋藤兵衛の庶子で、一太郎の義兄の松之助の話。言わばスピンオフでもあるのだが、これが中々に切ない。
 収録作品中、一番好きな作品である「虹を見し事」。夢か現かの狭間で不振がる一太郎。真実を確かめる為に、長崎屋の店先をうろちょろしたりと可愛らしい。そして、仁吉の「ちゃんと助けたでしょう」。の台詞が笑えた。

主要登場人物
 
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親
 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 松之助...一太郎の異母兄、菊坂町桶屋東屋の丁稚
 栄吉...菓子屋三春屋の長男、一太郎の幼馴染み
 屏風のぞき...付喪神
 
 鳴家(小鬼)...妖
 
 鈴彦姫...付喪神
 
 野寺坊...妖
 
 獺...妖
 
 蛇骨婆...妖
 皮衣(ぎん)...一太郎の祖母、妖
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 
 正吾...日限の親分の手下



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しゃばけ

2012年05月21日 | 畠中恵
 2001年12月発行

 「しゃばけ=娑婆気」。俗世間における、名誉・利得などのさまざまな欲望にとらわれる心。
 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第1弾。(長編)

暗夜
妖(あやかし)
大工
人殺し
薬種問屋
昔日
所以
虚実
炎

しゃばけ
 江戸十組の株を持つ廻船問屋の大店・長崎屋のひとり息子の一太郎は、度々死にそうになる事も珍しくない程にひ弱である。その一太郎の為の薬種を集めるうちに、長崎屋は、薬種問屋も開いていった。
 内緒で外出をした一太郎は、人殺しの現場を目撃し、自らも命を脅かされる。「香りがする...する、する...」と言いながら襲ってきたのだ。
 また、薬種屋には不老長寿の木乃伊が運び込まれ…。それを買い求めに来た客に、一太郎は襲われる。
 その後も一太郎の乗った駕篭に後から乗り込んだ薬種屋の若旦那、一太郎が使いを言付けた栄吉が襲われる。
 どうやら狙いは一太郎らしい。

 一太郎の両脇をぴたりと固める仁吉(白沢)と佐助(犬神)。一太郎の碁敵で、横柄な物言いの屏風のぞき。常に一太郎の傍らで遊び相手の鳴家。一太郎の手先となって働く妖たち。キャラ設定も楽しい。
 妖って本当は怖くない。そんな思いを抱かされる。

主要登場人物
 
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親
 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 
 おくま...長崎屋の女中
 栄吉...菓子屋三春屋の長男、一太郎の幼馴染み
 
 お春...栄吉の妹
 屏風のぞき...付喪神
 
 鳴家(小鬼)...妖
 
 鈴彦姫...付喪神
 
 野寺坊...妖
 
 獺...妖
 
 蛇骨婆...妖
 見越の入道...妖
 
 皮衣(ぎん)...一太郎の祖母、妖
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 
 正吾...日限の親分の手下
 源信...一太郎掛かり付けの町医者
 松之助...一太郎の異母兄、菊坂町桶屋東屋の丁稚




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あかんべえ(上・下巻)

2012年05月20日 | 宮部みゆき
 
2002年3月発行

  ふね屋のひとり娘、十二歳のおりんは、死の淵から呼び戻されて以来、ふね屋に彷徨う五人の幽霊が見える事に気が付く。
 己が死んだ訳や、ふね屋に留まり成仏出来ないかが分からない幽霊とおりんが、降り掛かる災いを追い払う為に力を合わせる難問を解いていく、ファンタジー・ホラー、そしてサスペンス小説。

あかんべえ
 四十の半ばを超え、おさきと所帯を持った賄い屋高田屋七兵衛は、身寄りのない子どもや起動を外した子どもを引き取って育てていた。太一郎も七兵衛に育てられたひとりである。
 そして七兵衛は長年の夢だった料理屋を海辺大工町で開業し、太一郎に任せるのだった。
 そんな矢先、おりんは高熱を出し、生死の境を彷徨う。そして目が覚めた後、おりんは枕元に気配を感じるのだった。
 ふね屋の旗揚げの日、おりんは客ではない、若い侍の姿を見る。それが生きている人ではないと分かったのは、身体が半分透けていたからだ。玄之介と名乗るその侍は、ふね屋の地所は昔、墓所で、通りを挟んだ向かいには興願寺があったと告げる。
 三十年前、坊主が多くの人を殺し、寺に火をかけたのだ。その事件と5人の幽霊との関連はあるのか。どうしてこの地所に捕われているのか。
 一方、ふね屋は開業早々、突然、空中に刀が現れ、客に斬り付ける騒ぎが起こり、お化け屋敷と噂されてしまう。
 美貌の若侍玄之介。ざんばら髪の大男で時として暴れるおどろ髪。いつもあかんべえをしているお梅。色っぽい年増のおみつ。按摩治療を施す笑い坊。
 彼らと興願寺との関わりはあるのか…。次第に解き明かされる封印された興願寺の秘密。そしてそれが明らかになった時…。
 冒頭からの流れは、霊に操られたり祟られたりと、生きている人間を巻き込んだ切ない話であるが、大詰めの展開は凄い。一気に謎が解けると、張り詰めていた肩が落ちるくらいの衝撃で、大きな渦が誌面に押し寄せるかのようなスペクタルがそこに待ち受けていた。
 これは読み応え有りの1冊である。

主要登場人物
 おりん...深川海辺大工町料理屋ふね屋の娘
 太一郎...ふね屋の主、おりんの父親
 多恵...おりんの母親
 七兵衛...賄い屋高田屋の主、太一郎の養父
 おさき...七兵衛の妻
 玄之介...ふね屋に住まう幽霊、美貌の若侍
 おどろ髪...ふね屋に住まう幽霊、ざんばら髪の大男
 お梅...ふね屋に住まう幽霊、いつもあかんべえをしている女の子
 おみつ...ふね屋に住まう幽霊、あだっぽい姐さん
 笑い坊...ふね屋に住まう幽霊、按摩
 長坂主水助...旗本小普請組
 みさえ...主水助の妻
 孫兵衛...差配人
 
 勝治郎(ヒネ勝)

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あやし

2012年05月19日 | 宮部みゆき
 2000年7月発行

居眼り心中
影牢(かげろう)
布団部屋
梅の雨降る
安達家の鬼(あだちけのおに)
女の首
時雨鬼(しぐれおに)
灰神楽(はいかぐら)
蜆塚(しじみづか) 計9編の短編集

 物の怪に例えたホラー仕立てで物語は進むが、実は人間の業が生み出した、心に巣食う怖さこそが怪であると解いている。後から首筋がぞわりとする作品集。

居眼り心中
 藤一郎から、子を宿した女中のおはるの元へ、使いを頼まれた銀次は、着いた先で、藤一郎とおはるが相対死している姿を目の当たりにする。

主要登場人物
 銀次...日本橋通瀬戸物町木綿問屋大黒屋の丁稚
 親父...大伝馬町口入れ屋万年屋の主
 藤一郎...大黒屋の若旦那

影牢(かげろう)
 一番番頭松五郎が、三月前に起きた岡田屋一家七人が毒をあおった、惨劇を磯辺に語る。それは、先代の内儀お多津の亡霊の生した業か。それとも松五郎か…。

主要登場人物
 松五郎...深川六間掘町堀蝋問屋岡田屋の一番番頭
 多津...深川六間掘町堀蝋問屋岡田屋の先代内儀
 磯辺...同心

布団部屋
 奉公先で急死した姉おさとの後を受け、兼子屋に奉公に上がったおゆうは、女中頭お光の命令で、布団部屋で一夜を過ごす事を余儀なくされる。聞けば奉公人誰もが通る仕来りらしい。

主要登場人物
 おゆう...深川永代寺門前東町酒屋兼子屋の女中
 おさと...元兼子屋の女中、おゆうの姉
 お光...兼子屋の女中頭

梅の雨降る
 担ぎの油売り箕吉の元へ、姉のおえんがみまかったと知らせが届く。おえんは、器量で奉公先をほかの娘に奪われてから、心を病んだ侭であった。

主要登場人物
 箕吉...担ぎの油売り
 おえん...箕吉の姉


安達家の鬼(あだちけのおに)
 笹屋に嫁いだわたくしが語る、お義母さまの生涯。お義母さまの傍らには、わたしには見えない何者かが棲んでいた。

主要登場人物
 わたくし...富太郎の妻、語り手
 お義母さま...筆と墨の商い笹屋の隠居、日本橋通町呉服問屋上州屋の庶子
 富太郎...笹屋の主
 お玉...笹屋の女中

女の首
 母が亡くなり十歳で葵屋の丁稚となった太郎は、ある日、納戸部屋の唐紙に女の生首を見てしまった。と、同時に幼い頃勾引しあった葵屋の実子に間違いないと葵屋夫妻が言い出して…。

主要登場人物
 太郎...本所一ツ目橋袋物屋葵屋の丁稚
 浅一郎...葵屋の主
 お由宇...浅一郎の妻
 おあき...葵屋の女中

時雨鬼(しぐれおに)
 お信は奉公先を紹介してくれた口入れ屋に、奉公先を代わる相談をしに行く。応対に出た口入れ屋の女房を名乗るおつたは、お信が悪い男に騙されていると察し、己の半生を語り聞かせるのだが。

主要登場人物
 お信...下谷搗米屋加納屋
 おつた...深川六間掘町口入れ屋桂庵の内儀
 重太郎...お信の情男

灰神楽(はいかぐら)
 平良屋から、奉公人が刃傷沙汰を起こしたとの知らせを受けた政五郎が駆け付けると、主の弟の善吉に斬り掛かったおこまという女中が、この世のものとは思えぬ悪口の挙げ句、白い灰のような息を吐き出し事切れてしまう。

主要登場人物
 政五郎...本所元町の岡っ引き
 善吉...桐生町下駄屋平良屋の弟
 おこま...女中
 誠次...下駄職人

蜆塚(しじみづか)
 病いで伏せている松兵衛を見舞った米介は、松兵衛から、世の中には歳も取らず、病にもかからず、死にもしない連中がいると聞かされる。現に桂庵にも十年くらい時を開け、同じ人物が訪なっている筈だと。

主要登場人物
 米介...柳橋先の代地口入れ屋桂庵の主
 松兵衛...日本橋西呉服屋小河屋の番頭、米介の亡父の碁敵
 六太郎...小河屋の奉公人

 夢と現実の間を彷徨う「居眼り心中」。真実は何処に。そして目の前にいるのは、生ある者かそれもと…。最後の最後の言葉が気にかる「影牢」。曰くと因縁に肉親の情愛が挑む「布団部屋」。憎しみや妬みが生み出した幻影に翻弄される「梅の雨降る」。
 鬼を作り出すのは、人のそねみや憎しみであると解く「安達家の鬼」。女の業が生み出した生首の怪「女の首」。人の本性とはをきれいな顔の下にある「時雨鬼」。物の怪に翻弄される「灰神楽」。不老不死の人は存在するのか「蜆塚」。
 憎しみ、妬み、そねみが生み出す鬼が全編のテーマだろう。子どもが主人公となり、恐ろしい出来事に巻き込まれる話が多いのだが、意外な事に、周りの大人たちが良い人であり、悲惨な結末にはなっていない。こういったホラーミステリーなら歓迎である。
 とは言っても中には、「影牢」のように目を覆いたくなる話や、「蜆塚」のように心が痛む結末もある。
 「本所深川ふしぎ草紙」、「幻色江戸ごよみ」、「堪忍箱」、「かまいたち」に通じるホラーミステリーだが、この「あやし」の完成度は、宮部さんの底力を突き付けられた思いである。

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天狗風~霊験お初捕物控(二)~

2012年05月18日 | 宮部みゆき
 1997年11月発行

 お初の霊験と、目明かしの兄六蔵の捕物が事件を解決するホラー・ミステリー。霊験お初シリーズ第2弾は、一陣の風が吹いた時、娘が次々と神隠しに…。


第一章 かどわかし
第二章 消える人々
第三章 お初と鉄
第四章  武家娘
第五章 対決

 嫁入りを目前にしたおあきが、突然姿を消した。父親の政吉は、おあき殺しを認めて命を絶つ。
 お初と右京之介は、肥前守の命を受け、この神隠し事に乗り出すのだった。
 そして次に、八百屋長野屋娘であるお律が勾引される。お律もおあきと同じく、真っ赤な朝焼けの中、突風にさらわれるかのようにかき消えたのだった。
 そしてまたひとり…。
 人に見えないものを見る事の出来るお初は、お初にしか聞き取れない、人の言葉をしゃべり、化ける事も出来る、さながら化け猫の鉄が姉妹屋に加わり、お初の霊験が一層冴え渡る。
 霊験お初シリーズ第2弾としたが、これは独立した書籍として、2冊目という事であり、実はお初物は「かまいたち」の中に、「迷い鳩」、「騒ぐ刀」の2編が収録されている。
 最も、この時は、どちらかと言えば主人公は兄の六蔵であり、市井の捕り物劇にお初の霊験が加わったという形だった。
 その折りには、六蔵とお初の間の次兄の直次が、大活躍していたのだが、独立した物語となってからは、すっかり出番が回って来ないようだ。
 やはり右京之介とのコンビで、少しずつ深まる恋心も搦めながら話は進む。
 また、今回から新規加入の子猫の鉄。これだけのミステリー物の中に、化け猫も必要か? と思わなくもないが、鉄の人を喰ったような気質と、腹の中の声など、笑いの要素として受け止めれば、大変にユニークである。
 実は最近知ったのだが、人気時代小説は、コミック化されているらしく、コミック「天狗風」では、イケメンの直次が人気らしい。また、コミックの読者層を考えると、鉄の存在も大きいのだろう。
 確かに、推理サスペンス、ミステリー、ホラーを江戸を背景に織り込んだお初物は読み応えあるが、個人的には、六蔵の人情捕り物帳でも十分満足である。
 そうか、それでも茂七親分と被ってしまうからか? もしそうであれば、こういったひと捻りも素晴らしいアイディアだろう。
 
主要登場人物
 お初...日本橋通町一膳飯屋姉妹屋の妹
 およし...六蔵の妻、お初の義姉
 六蔵...通町の目明かし、お初の長兄
 根岸肥前守鎮衛...南町奉行
 古沢右京之介...算学の道場通い
 加吉...姉妹屋の板前
 文吉...六蔵の手下
 鉄...子猫
 和尚...老猫
 倉田主水...北町奉行所吟味方与力
 柏木十三...南町奉行所高積改役下役同心
 辰三...三間町の目明かし
 捨吉...山本町下駄屋政吉の弟子
 ※正徳2年(1712年)目明かし廃止令発布以前の為。



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