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「恋忘れ草」、「妻恋坂」に続く、引き裂かれそうな女心の葛藤を描いた7つの話。
花冷え
虹
片葉の葦
女子豹変す
胸突坂
古橋村の秋
待てば日和も 計7編の短編集
花冷え
言い交わした仲であったおたえと弥吉。だが弥吉の職人気質が元で、2人は別れて2年が経った。おたえは弥吉と寄りを戻せると期待するが、弥吉の心には既にほかの女へと向いていた。
ラスト3行、花冷えの頃を思い描かせる、奇麗な状況描写でおたえの未練を締め括っている。
主要登場人物
おたえ...京橋筋北紺屋町紺屋の娘
藤兵衛...神田紺屋町型付けの親方、おたえの叔父
弥吉...型付け職人
虹
二度の離婚歴のある油問屋の主に嫁ぎたいおぬいだが、母親のおすえは、大いに反対している。恋しい思いと母親への情愛に揺れるおぬい。そんな折り、伊兵衛の浮気が発覚する。
おぬいの迷いが晴れる象徴として登場する虹であるが、雨上がりの青天の下でのそれではなく、雨の中寸の間目に入った虹。ただし、東の空が明るくなっていると表現している。
心の葛藤を乗り越えた女を表現するのに、このような素敵な技法を使うとは…。小気味良い5行の締めである。
主要登場人物
おぬい...居酒屋ふくべの女中
おすえ...おぬいの母親
三国屋伊兵衛...三河町油問屋の主
おたね...居酒屋ふくべの女将
富吉...居酒屋ふくべの板前
片葉の葦
男に裏切られた過去から地獄(私娼)になったお蝶だが、女たらしで仕事もしない男の惚れてしっまった。寄り添って生きたい反面、男を妻子の元へ帰そうとする、遊女の深情けにお蝶は苦しむ。
片葉の葦を見てお蝶は、風の当たらぬ方へ葉を茂らせるほかはなかった葦と、陽の当らぬ方へ歩いていくほかはなかった己たちは似ていると思う。
本所の七不思議のひとつ、片葉の葦に謎り、女の生き様を情緒的に現している。
主要登場人物
お蝶...地獄(私娼)
お藤...地獄(私娼)
友七...米沢町即席料理屋桝屋の入り婿
おとく...女髪結い
女子豹変す
貧乏御家人の次男坊ながら類いまれな容姿が災いし、女で役目をしくじった要次郎と、亭主を亡くし倹飩(総菜)売りをしながら子を育てるおてつ。不釣り合いな2人ではあるが、いつしか情が芽生え始めるのだった。
唯一共鳴出来なかった作品である。それは作品としてではなく、こういった容姿も身分も下の女が、条件以上の男と結ばれる話に、胡散臭さと女性視線を感じてしまう為である。相応しい冴えない男となら共鳴出来るのだが。
主要登場人物
筧要次郎...御家人の次男
おてつ...倹飩(総菜)売り、寡婦
徳松...おてつの長男
弥五...おてつの次男
胸突坂
老舗ではあるが、傾き始めた菓子屋を背負っているおるいの元へ、幼馴染みのおまつが様子を伺いに顔を出した。おまつは、貧困から身を起こし今や、汁粉屋を繁盛させている。
幼い頃の女同士の立場が一転し、確執と駆け引き、妬み、そして友情を描いている。
昔格下に見ていたおまつのだけは、哀れな姿を見せたくない。そんなおるいの胸中が痛い程伝わってくる。
主要登場人物
おるい...老舗菓子屋君嶋の女主
おまつ...神田三河町汁粉屋の女将
滝川酒仙...戯作者、神田佐久間町材木問屋の隠居
古橋村の秋
本能寺で織田信長を討ったが、直ぐに討っ手の豊臣秀吉に破れ、山中身を隠した石田三成に、忠誠を誓う百姓の与次郎太夫、とその息子たち。だが、事が秀吉に知れれば、与次郎太夫父子だけではなく、村が罪に問われるのだ。
あかねのとった行動が突飛過ぎて何とも言い難いのだが、北原さんの作品で、実存の人物が絡んだ作品は初めて読んだ。
主要登場人物
石田治部少輔三成...近江佐和山城主、豊臣家奉行(五奉行)
与次郎太夫...近江古橋村の百姓
あかね...近江古橋村の百姓又佐衛門の娘、与次郎太夫の次男の許嫁
田中兵部大輔吉政...三河国岡崎城主
待てば日和も
惚れた男に捨てられ、死のうとしたお紺は、荷揚人足に助けられる。だが、よく見ればその男は、かつては老舗の呉服の番頭まで務めた喜八であった。
番頭の座も妻子も捨て、人足になった喜八が、古着を身に付けたら気持ちが楽になった。番頭時代は旨いと感じなかった酒が、人足の給金で飲んだら旨かったと、何かを諦め事で心が解き放たれる重要性をお紺に諭す。
現代の企業戦士にも通じるような話を、ただ目の色を変えて男を追いすがるお紺が理解出来るのか…と読み進めたものだが、次第にお紺もあたふたとせず緩やかな気持ちになっていったようだ。
ラストは、待てば日和もに相応しいエンディングであるが、良いのか? こんな与吉みたいな軽率な男でと思えなくもない。
主要登場人物
喜八...荷揚人足、元日本橋本町呉服屋志ま屋の番頭
お紺...縫子
おすが...喜八の女房
与吉...大工
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