2010年4月発行
「女用知恵鑑(おんなようちえかがみ)宝織(たからおり)」なる占い本を巡る女たちの吉凶を描いた12編。
一文獅子(いちもんじし)
冬蒼(そよご)
春告鳥(はるつげどり)
空木(うつき)
つばめ魚(うお)
あした天気に
ト一(といち)のおれん
秋鯖
ごんぱち
夕しぐれ
お玉
万祝(まんいわい) 計12編の短編集
一文獅子(いちもんじし)
町内の厄介者である市五郎に、ご開帳の金銭を差し出さなかったばかりに、その腹いせに菊次が大山参りに出掛けている間に、市五郎に手込めにされたお千代。
それを知ると菊次は外に女を作り、お千代にとっては居たたまれない日が続くが、どれだけ菊次に冷たくされても、決して口には出来ない秘密があった。
それは、手込めにされたのは、菊次の妹のおきみだったのだ。
主要登場人物
お千代...菊次の女房
菊次...元浜町の指物師
市五郎...元浜町の若者頭
おきみ...菊次の妹、浅草並木町の茶漬け屋の女房.0
冬蒼(そよご)
仙太は、商いの途中で、お里にふと心を引かれる。だが、お里の様子から所帯持ちであることは歴然。
にわか雨に傘を差し掛け、お里の事情を知ると、駿河国から江戸へと駆け落ちをしたのだが、相方が行方不明になったと分かる。
仙太のお里に対する思いは深まり、所帯を持とうとするも、行く方知れずの相方によって、お里は遊郭へと売られてしまう。
主要登場人物
仙太...下谷広小路・「ねずみびき」の見世物師
小虎...南京ねずみ
お里...駿河国千福村・五人組頭の娘
竜雲齋...下谷広小路・占い師
春告鳥(はるつげどり)
家格の釣り合う武井家に嫁いだ咲江は、夫・左門に馴染めないことに苦悩するも、姑のしげ世とは良好な関係を築いていた。
だが、咲江の曾祖母の形見の櫛を左門がねだった事から、隣家からの注進により、左門には囲っている女がいることが分かる。
子までなしており、義父・義母も承諾のことであった。
離縁を申し出た咲江は、淡い恋心を抱いてた早川万之助の後妻に入ることになる。櫛が身代わりとなり、凶を吉へと変えたと松乃は語る。
主要登場人物
安藤咲江...御家人・御留守居番与力・安藤与十郎の娘
安藤松乃...咲江の祖母
武井左門...御家人・大番頭与力、咲江の夫
武井しげ世...左門の母、咲江の義母
空木(うつき)
火事で父親と兄を失い、店の再建のならず、祖父、母を養う為に茶汲み娘となったおゆう。だが、祖父の薬療がかさみ、裏で客を取る。
そこに、岡っ引きと吉原会所の男衆が乗り込み、隠れ私娼の罰として3年間の吉原年季務めを余儀なくされる。
何不自由のないお嬢さんが一夜にして何もかもを失くし、親族や旧知の人の無情さに晒され、茶汲み娘、罠にはめられ女郎へと…次々に襲う不幸に己は空木であるとおゆうは、身の不幸を思う。
主要登場人物
おゆう...本所弥勒寺門前・水茶屋若松の茶汲み娘(元横山町・油屋佐野屋の娘)→吉原万字屋の見世昼三・花さと花魁
源七...小間物売り、実は吉原会所の男衆
つばめ魚(うお)
婿養子・栄次郎を迎えるも、商いも半端な上に、次々と色事が絶えず、ついに離縁し、女手ひとつで伊勢長を取り仕切るお孝。
詮之助と互いに引かれ合うも、伊勢長狙いと疑られるのを拒む詮之助。ならば、伊勢長を捨ててつばめ魚のように身ひとつで飛んで行くと決心するのだった。
主要登場人物
お孝...日本橋本船町・活物問屋・伊勢長の跡取り
早見詮之助...伊勢長の深川熊井町・活場の雇い人→後に差配(元御家人の三男)
お麻...お孝の妹、地引河岸肴納屋高野屋に嫁入り
あした天気に
お紺には、幼い時分から話を聞いただけで、その未来が見える不思議な力があった。だが、それを口に出したことはない。
娘になり野田屋に奉公に出るが、そこの隠居が病いの床にある中、呪術の封印が説けたためと咄嗟に悟る。
その不思議な力のため、嫁ぐことも諦め、奉公も辞め、母に仕立ての腕を仕込んでもらい、ひとりで生涯を終える覚悟を決めるが、幸福の足音がそこまで来ていた。
主要登場人物
お紺...花川戸町・醤油素酢問屋野田屋の女中
おいね...お紺の母親、大丸の仕立屋、縫い物の師匠
幸太...お紺の幼馴染み、大工の小僧
ト一(といち)のおれん
浅草寺門前に捨てられていたおれんは、浅草駒形町・田楽家の養女となり養父母に慈しまれたて育ったが、義兄がおれんを女として見る年頃になり、養家から出奔。
行く宛のないところを、香具師の藤次郎に矢場娘の仕事を紹介される。決しておれんをそくばくしない藤次郎に惹かれ情婦となり、矢場を持たせてもらう。
そんなある日、おれんの実の親が、捨て子ではなく勾引しであったおれんを探し歩いていたことを知り、対面するも、名乗り出るのを躊躇い、そのことから、矢場女であり、妾であることが恥なのかと藤次郎との間に亀裂が走るも、藤次郎の深い思いが、おれんを幸せに導く。
主要登場人物
おれん...浅草・浅草寺裏手奥山の矢場・いち藤の女将、
若狭家藤次郎...浅草・浅草寺裏手奥山の香具師の親方
秋鯖
千住掃部宿の米問屋上田屋から、日本橋伊勢町の米問屋井筒屋嫁いだおたみは、娘2人を産んだが、未だ男子を挙げていない。
それを不服に思う夫・直太郎との仲もぎくしゃくし、直太郎は外で女遊びをしている様子。
店の方も疎かな直太郎よりの二男の久次郎に乗っ取られそうな勢いである。
そんなある日、直太郎が鯖の食あたりで倒れる。同時に離れで暮らす久次郎の女房・おそのも同じ症状である。
2人の関係を悟ったおたみは、店を久次郎夫婦に渡さないため、直太郎の不義理を許さじとばかり、作をこうじるのだった。
主要登場人物
おたみ...日本橋伊勢町・米問屋井筒屋の嫁
井筒屋直太郎...おたみの夫
久次郎...直太郎の実弟
おその...久次郎の女房
ごんぱち
中木場島崎町の材木問屋島徳の三代目・栄太に引かされ、自前芸者となった小新。男前で金もある栄太の囲われの身ではあるが、好いて好かれた間に幸せを抱いていた。
だが、元来女好きの栄太が、柳橋の芸者・音丸と子まで成したと聞き、家作を返して縁を切る決意をする。
栄太はそれを拒むが、芸者としてのプライドがそれを許さない小新。
やがて栄太は、商いが成り行かずに命を絶ったと人伝に聞く。そして、栄太の実母が金策に困り、栄太に小新が貰った家に住ませろと押し掛けて来るのだが、既に別れた時に小新が買い取っていたのだった。
一度は撥ね付けた小新だったが、老母の窮状を目の当たりにすると、同居を受け入れる。
主要登場人物
小新...葭町・芸者屋吉橘屋の半玉
近与...上木場西永町・材木問屋の主
夕しぐれ
子供屋桔梗屋の女将・おけいが、見世内で元回し方の菊次郎を殺めた。
二人は情人の間柄であったが、菊二郎が桔梗屋を乗っ取ろうとし、金子の要求をしてきたため、見世を守る為に殺めたのだと、おけいは証言する。
だが、殺し方が腑に落ちない弥吉は、真実を探る。そこには、占いにより翻弄された哀れな真実が浮かび上がった。
主要登場人物
弥吉...深川入船町汐見橋西の岡っ引き
米松...弥吉の手下、いなり寿司屋
桑山了伯...深川入船町汐見橋東の町医者
おけい...深川永代寺門前仲町・子供屋桔梗屋の女将
お玉
実母ながら千賀の義姉・佳詠に対する態度が気に入らない雪絵。佳詠は先妻の娘で、後添えの千賀とは幾つも年が離れていないことから娘とも思い辛いのかも知れないと分かりつつも、佳詠に母を見る思いであった。
ある日、庭先で拾った仔猫を玉と名付け可愛がり、玉の首紐に文を忍ばせ、若党・周吾との道ならぬ恋をしてた。
そして、良縁に恵まれた雪絵だが、周吾への思いを断ち切れず、二人は出奔を決意する。
雪絵目線とお玉目線から物語が進行していく。その入れ替わりが自然である。
主要登場人物
岡本雪絵...勘定奉行・岡本忠次郎正成の二女
岡本佳詠...雪絵の義姉(先妻の娘)
お玉...雪絵の愛猫
万祝(まんいわい)
十の年に嫁入りまでの数年を、元大奥女中だった叔母に養女となったお梶。女子としての印を見た晩、叔母のお妙から、大奥で流行っていた一冊の占い本「女用知恵鑑宝織」を譲り受ける。
常陸屋佐太郎に嫁し、男子を揚げるも、夫は外に女を囲い、女児二人を成したばかりか、暖簾を引き継ぐと大っぴらに妾宅へと足を向ける日々。
そんなある日、木更津・河岸問屋佐貫屋の竹二郎を預かるのだが、その晩に、妾と海遊びに出掛けていた佐太郎が妾娘もろとも、藻くずと消える。
その後の一切合切を取り仕切ってくれた竹二郎と深い仲になるも、お梶は女て一つで息子・佐吉を育て上げ常陸屋の暖簾を守ったのだった。
だが、死に直面した時、竹二郎から貰った万祝の長半纏を、お官の掛け無垢にして欲しいと遺言を残す。
主要登場人物
お梶...日本橋室町一丁目・本両替屋広田屋の娘
お妙(弥生)...大奥年寄り・藤尾の部屋子→江戸橋広小路南本材木町・茶の湯生け花指南、お梶の叔母
常陸屋佐太郎...小網町一丁目・奥川筋船積問屋の惣領息子
佐貫屋竹二郎...上総国木更津北片町・河岸問屋の二男
一冊の、生まれ月による占い本「女用知恵鑑宝織」を、縁あって開いてしまった12人の女が辿る運命。前世の行いが今生に影響を及ぼしているといった占いを信じて翻弄される者。その解釈を逆手に取る者。運命からの脱却を願う者。
それぞれの人生の重責の中で、選択や生き方を描いている。
武家、町人、女郎など身分に捕われずに、女心に恋、家族との絆、そして情などやはり人として生きる上で欠かせない題材をテーマに12編の物語が進行する。
切ない終末もあり、明るい未来もあり、本当に悲喜こもごもの人生。どこで歯車が狂うなんて誰にも先は分からないのだ。
占いに翻弄されて、そこを見落とすなといった教訓と同時に、江戸の人々とは、現在よりも占いや神仏に親しんでいたことが読み取れる。
読み易く、かつ内容がかぶることない、「さすが」杉本氏の短編集であった。読み応えあり。
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「女用知恵鑑(おんなようちえかがみ)宝織(たからおり)」なる占い本を巡る女たちの吉凶を描いた12編。
一文獅子(いちもんじし)
冬蒼(そよご)
春告鳥(はるつげどり)
空木(うつき)
つばめ魚(うお)
あした天気に
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秋鯖
ごんぱち
夕しぐれ
お玉
万祝(まんいわい) 計12編の短編集
一文獅子(いちもんじし)
町内の厄介者である市五郎に、ご開帳の金銭を差し出さなかったばかりに、その腹いせに菊次が大山参りに出掛けている間に、市五郎に手込めにされたお千代。
それを知ると菊次は外に女を作り、お千代にとっては居たたまれない日が続くが、どれだけ菊次に冷たくされても、決して口には出来ない秘密があった。
それは、手込めにされたのは、菊次の妹のおきみだったのだ。
主要登場人物
お千代...菊次の女房
菊次...元浜町の指物師
市五郎...元浜町の若者頭
おきみ...菊次の妹、浅草並木町の茶漬け屋の女房.0
冬蒼(そよご)
仙太は、商いの途中で、お里にふと心を引かれる。だが、お里の様子から所帯持ちであることは歴然。
にわか雨に傘を差し掛け、お里の事情を知ると、駿河国から江戸へと駆け落ちをしたのだが、相方が行方不明になったと分かる。
仙太のお里に対する思いは深まり、所帯を持とうとするも、行く方知れずの相方によって、お里は遊郭へと売られてしまう。
主要登場人物
仙太...下谷広小路・「ねずみびき」の見世物師
小虎...南京ねずみ
お里...駿河国千福村・五人組頭の娘
竜雲齋...下谷広小路・占い師
春告鳥(はるつげどり)
家格の釣り合う武井家に嫁いだ咲江は、夫・左門に馴染めないことに苦悩するも、姑のしげ世とは良好な関係を築いていた。
だが、咲江の曾祖母の形見の櫛を左門がねだった事から、隣家からの注進により、左門には囲っている女がいることが分かる。
子までなしており、義父・義母も承諾のことであった。
離縁を申し出た咲江は、淡い恋心を抱いてた早川万之助の後妻に入ることになる。櫛が身代わりとなり、凶を吉へと変えたと松乃は語る。
主要登場人物
安藤咲江...御家人・御留守居番与力・安藤与十郎の娘
安藤松乃...咲江の祖母
武井左門...御家人・大番頭与力、咲江の夫
武井しげ世...左門の母、咲江の義母
空木(うつき)
火事で父親と兄を失い、店の再建のならず、祖父、母を養う為に茶汲み娘となったおゆう。だが、祖父の薬療がかさみ、裏で客を取る。
そこに、岡っ引きと吉原会所の男衆が乗り込み、隠れ私娼の罰として3年間の吉原年季務めを余儀なくされる。
何不自由のないお嬢さんが一夜にして何もかもを失くし、親族や旧知の人の無情さに晒され、茶汲み娘、罠にはめられ女郎へと…次々に襲う不幸に己は空木であるとおゆうは、身の不幸を思う。
主要登場人物
おゆう...本所弥勒寺門前・水茶屋若松の茶汲み娘(元横山町・油屋佐野屋の娘)→吉原万字屋の見世昼三・花さと花魁
源七...小間物売り、実は吉原会所の男衆
つばめ魚(うお)
婿養子・栄次郎を迎えるも、商いも半端な上に、次々と色事が絶えず、ついに離縁し、女手ひとつで伊勢長を取り仕切るお孝。
詮之助と互いに引かれ合うも、伊勢長狙いと疑られるのを拒む詮之助。ならば、伊勢長を捨ててつばめ魚のように身ひとつで飛んで行くと決心するのだった。
主要登場人物
お孝...日本橋本船町・活物問屋・伊勢長の跡取り
早見詮之助...伊勢長の深川熊井町・活場の雇い人→後に差配(元御家人の三男)
お麻...お孝の妹、地引河岸肴納屋高野屋に嫁入り
あした天気に
お紺には、幼い時分から話を聞いただけで、その未来が見える不思議な力があった。だが、それを口に出したことはない。
娘になり野田屋に奉公に出るが、そこの隠居が病いの床にある中、呪術の封印が説けたためと咄嗟に悟る。
その不思議な力のため、嫁ぐことも諦め、奉公も辞め、母に仕立ての腕を仕込んでもらい、ひとりで生涯を終える覚悟を決めるが、幸福の足音がそこまで来ていた。
主要登場人物
お紺...花川戸町・醤油素酢問屋野田屋の女中
おいね...お紺の母親、大丸の仕立屋、縫い物の師匠
幸太...お紺の幼馴染み、大工の小僧
ト一(といち)のおれん
浅草寺門前に捨てられていたおれんは、浅草駒形町・田楽家の養女となり養父母に慈しまれたて育ったが、義兄がおれんを女として見る年頃になり、養家から出奔。
行く宛のないところを、香具師の藤次郎に矢場娘の仕事を紹介される。決しておれんをそくばくしない藤次郎に惹かれ情婦となり、矢場を持たせてもらう。
そんなある日、おれんの実の親が、捨て子ではなく勾引しであったおれんを探し歩いていたことを知り、対面するも、名乗り出るのを躊躇い、そのことから、矢場女であり、妾であることが恥なのかと藤次郎との間に亀裂が走るも、藤次郎の深い思いが、おれんを幸せに導く。
主要登場人物
おれん...浅草・浅草寺裏手奥山の矢場・いち藤の女将、
若狭家藤次郎...浅草・浅草寺裏手奥山の香具師の親方
秋鯖
千住掃部宿の米問屋上田屋から、日本橋伊勢町の米問屋井筒屋嫁いだおたみは、娘2人を産んだが、未だ男子を挙げていない。
それを不服に思う夫・直太郎との仲もぎくしゃくし、直太郎は外で女遊びをしている様子。
店の方も疎かな直太郎よりの二男の久次郎に乗っ取られそうな勢いである。
そんなある日、直太郎が鯖の食あたりで倒れる。同時に離れで暮らす久次郎の女房・おそのも同じ症状である。
2人の関係を悟ったおたみは、店を久次郎夫婦に渡さないため、直太郎の不義理を許さじとばかり、作をこうじるのだった。
主要登場人物
おたみ...日本橋伊勢町・米問屋井筒屋の嫁
井筒屋直太郎...おたみの夫
久次郎...直太郎の実弟
おその...久次郎の女房
ごんぱち
中木場島崎町の材木問屋島徳の三代目・栄太に引かされ、自前芸者となった小新。男前で金もある栄太の囲われの身ではあるが、好いて好かれた間に幸せを抱いていた。
だが、元来女好きの栄太が、柳橋の芸者・音丸と子まで成したと聞き、家作を返して縁を切る決意をする。
栄太はそれを拒むが、芸者としてのプライドがそれを許さない小新。
やがて栄太は、商いが成り行かずに命を絶ったと人伝に聞く。そして、栄太の実母が金策に困り、栄太に小新が貰った家に住ませろと押し掛けて来るのだが、既に別れた時に小新が買い取っていたのだった。
一度は撥ね付けた小新だったが、老母の窮状を目の当たりにすると、同居を受け入れる。
主要登場人物
小新...葭町・芸者屋吉橘屋の半玉
近与...上木場西永町・材木問屋の主
夕しぐれ
子供屋桔梗屋の女将・おけいが、見世内で元回し方の菊次郎を殺めた。
二人は情人の間柄であったが、菊二郎が桔梗屋を乗っ取ろうとし、金子の要求をしてきたため、見世を守る為に殺めたのだと、おけいは証言する。
だが、殺し方が腑に落ちない弥吉は、真実を探る。そこには、占いにより翻弄された哀れな真実が浮かび上がった。
主要登場人物
弥吉...深川入船町汐見橋西の岡っ引き
米松...弥吉の手下、いなり寿司屋
桑山了伯...深川入船町汐見橋東の町医者
おけい...深川永代寺門前仲町・子供屋桔梗屋の女将
お玉
実母ながら千賀の義姉・佳詠に対する態度が気に入らない雪絵。佳詠は先妻の娘で、後添えの千賀とは幾つも年が離れていないことから娘とも思い辛いのかも知れないと分かりつつも、佳詠に母を見る思いであった。
ある日、庭先で拾った仔猫を玉と名付け可愛がり、玉の首紐に文を忍ばせ、若党・周吾との道ならぬ恋をしてた。
そして、良縁に恵まれた雪絵だが、周吾への思いを断ち切れず、二人は出奔を決意する。
雪絵目線とお玉目線から物語が進行していく。その入れ替わりが自然である。
主要登場人物
岡本雪絵...勘定奉行・岡本忠次郎正成の二女
岡本佳詠...雪絵の義姉(先妻の娘)
お玉...雪絵の愛猫
万祝(まんいわい)
十の年に嫁入りまでの数年を、元大奥女中だった叔母に養女となったお梶。女子としての印を見た晩、叔母のお妙から、大奥で流行っていた一冊の占い本「女用知恵鑑宝織」を譲り受ける。
常陸屋佐太郎に嫁し、男子を揚げるも、夫は外に女を囲い、女児二人を成したばかりか、暖簾を引き継ぐと大っぴらに妾宅へと足を向ける日々。
そんなある日、木更津・河岸問屋佐貫屋の竹二郎を預かるのだが、その晩に、妾と海遊びに出掛けていた佐太郎が妾娘もろとも、藻くずと消える。
その後の一切合切を取り仕切ってくれた竹二郎と深い仲になるも、お梶は女て一つで息子・佐吉を育て上げ常陸屋の暖簾を守ったのだった。
だが、死に直面した時、竹二郎から貰った万祝の長半纏を、お官の掛け無垢にして欲しいと遺言を残す。
主要登場人物
お梶...日本橋室町一丁目・本両替屋広田屋の娘
お妙(弥生)...大奥年寄り・藤尾の部屋子→江戸橋広小路南本材木町・茶の湯生け花指南、お梶の叔母
常陸屋佐太郎...小網町一丁目・奥川筋船積問屋の惣領息子
佐貫屋竹二郎...上総国木更津北片町・河岸問屋の二男
一冊の、生まれ月による占い本「女用知恵鑑宝織」を、縁あって開いてしまった12人の女が辿る運命。前世の行いが今生に影響を及ぼしているといった占いを信じて翻弄される者。その解釈を逆手に取る者。運命からの脱却を願う者。
それぞれの人生の重責の中で、選択や生き方を描いている。
武家、町人、女郎など身分に捕われずに、女心に恋、家族との絆、そして情などやはり人として生きる上で欠かせない題材をテーマに12編の物語が進行する。
切ない終末もあり、明るい未来もあり、本当に悲喜こもごもの人生。どこで歯車が狂うなんて誰にも先は分からないのだ。
占いに翻弄されて、そこを見落とすなといった教訓と同時に、江戸の人々とは、現在よりも占いや神仏に親しんでいたことが読み取れる。
読み易く、かつ内容がかぶることない、「さすが」杉本氏の短編集であった。読み応えあり。
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