うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

春告鳥~女売らない十二か月~

2014年02月19日 | 杉本章子
 2010年4月発行

 「女用知恵鑑(おんなようちえかがみ)宝織(たからおり)」なる占い本を巡る女たちの吉凶を描いた12編。

一文獅子(いちもんじし)
冬蒼(そよご)
春告鳥(はるつげどり)
空木(うつき)
つばめ魚(うお)
あした天気に
ト一(といち)のおれん
秋鯖
ごんぱち
夕しぐれ
お玉
万祝(まんいわい) 計12編の短編集

一文獅子(いちもんじし)
 町内の厄介者である市五郎に、ご開帳の金銭を差し出さなかったばかりに、その腹いせに菊次が大山参りに出掛けている間に、市五郎に手込めにされたお千代。
 それを知ると菊次は外に女を作り、お千代にとっては居たたまれない日が続くが、どれだけ菊次に冷たくされても、決して口には出来ない秘密があった。
 それは、手込めにされたのは、菊次の妹のおきみだったのだ。

主要登場人物
 お千代...菊次の女房
 菊次...元浜町の指物師
 市五郎...元浜町の若者頭
 おきみ...菊次の妹、浅草並木町の茶漬け屋の女房.0

冬蒼(そよご)
 仙太は、商いの途中で、お里にふと心を引かれる。だが、お里の様子から所帯持ちであることは歴然。
 にわか雨に傘を差し掛け、お里の事情を知ると、駿河国から江戸へと駆け落ちをしたのだが、相方が行方不明になったと分かる。
 仙太のお里に対する思いは深まり、所帯を持とうとするも、行く方知れずの相方によって、お里は遊郭へと売られてしまう。

主要登場人物
 仙太...下谷広小路・「ねずみびき」の見世物師
 小虎...南京ねずみ
 お里...駿河国千福村・五人組頭の娘
 竜雲齋...下谷広小路・占い師
 
春告鳥(はるつげどり)
 家格の釣り合う武井家に嫁いだ咲江は、夫・左門に馴染めないことに苦悩するも、姑のしげ世とは良好な関係を築いていた。
 だが、咲江の曾祖母の形見の櫛を左門がねだった事から、隣家からの注進により、左門には囲っている女がいることが分かる。
 子までなしており、義父・義母も承諾のことであった。
 離縁を申し出た咲江は、淡い恋心を抱いてた早川万之助の後妻に入ることになる。櫛が身代わりとなり、凶を吉へと変えたと松乃は語る。

主要登場人物
 安藤咲江...御家人・御留守居番与力・安藤与十郎の娘
 安藤松乃...咲江の祖母
 武井左門...御家人・大番頭与力、咲江の夫
 武井しげ世...左門の母、咲江の義母

空木(うつき)
 火事で父親と兄を失い、店の再建のならず、祖父、母を養う為に茶汲み娘となったおゆう。だが、祖父の薬療がかさみ、裏で客を取る。
 そこに、岡っ引きと吉原会所の男衆が乗り込み、隠れ私娼の罰として3年間の吉原年季務めを余儀なくされる。
 何不自由のないお嬢さんが一夜にして何もかもを失くし、親族や旧知の人の無情さに晒され、茶汲み娘、罠にはめられ女郎へと…次々に襲う不幸に己は空木であるとおゆうは、身の不幸を思う。
 
主要登場人物
 おゆう...本所弥勒寺門前・水茶屋若松の茶汲み娘(元横山町・油屋佐野屋の娘)→吉原万字屋の見世昼三・花さと花魁
 源七...小間物売り、実は吉原会所の男衆

つばめ魚(うお)
 婿養子・栄次郎を迎えるも、商いも半端な上に、次々と色事が絶えず、ついに離縁し、女手ひとつで伊勢長を取り仕切るお孝。
 詮之助と互いに引かれ合うも、伊勢長狙いと疑られるのを拒む詮之助。ならば、伊勢長を捨ててつばめ魚のように身ひとつで飛んで行くと決心するのだった。
 
主要登場人物
 お孝...日本橋本船町・活物問屋・伊勢長の跡取り
 早見詮之助...伊勢長の深川熊井町・活場の雇い人→後に差配(元御家人の三男)
 お麻...お孝の妹、地引河岸肴納屋高野屋に嫁入り

あした天気に
 お紺には、幼い時分から話を聞いただけで、その未来が見える不思議な力があった。だが、それを口に出したことはない。
 娘になり野田屋に奉公に出るが、そこの隠居が病いの床にある中、呪術の封印が説けたためと咄嗟に悟る。
 その不思議な力のため、嫁ぐことも諦め、奉公も辞め、母に仕立ての腕を仕込んでもらい、ひとりで生涯を終える覚悟を決めるが、幸福の足音がそこまで来ていた。

主要登場人物
 お紺...花川戸町・醤油素酢問屋野田屋の女中
 おいね...お紺の母親、大丸の仕立屋、縫い物の師匠
 幸太...お紺の幼馴染み、大工の小僧

ト一(といち)のおれん
 浅草寺門前に捨てられていたおれんは、浅草駒形町・田楽家の養女となり養父母に慈しまれたて育ったが、義兄がおれんを女として見る年頃になり、養家から出奔。
 行く宛のないところを、香具師の藤次郎に矢場娘の仕事を紹介される。決しておれんをそくばくしない藤次郎に惹かれ情婦となり、矢場を持たせてもらう。
 そんなある日、おれんの実の親が、捨て子ではなく勾引しであったおれんを探し歩いていたことを知り、対面するも、名乗り出るのを躊躇い、そのことから、矢場女であり、妾であることが恥なのかと藤次郎との間に亀裂が走るも、藤次郎の深い思いが、おれんを幸せに導く。

主要登場人物
 おれん...浅草・浅草寺裏手奥山の矢場・いち藤の女将、
 若狭家藤次郎...浅草・浅草寺裏手奥山の香具師の親方

秋鯖
 千住掃部宿の米問屋上田屋から、日本橋伊勢町の米問屋井筒屋嫁いだおたみは、娘2人を産んだが、未だ男子を挙げていない。
 それを不服に思う夫・直太郎との仲もぎくしゃくし、直太郎は外で女遊びをしている様子。
 店の方も疎かな直太郎よりの二男の久次郎に乗っ取られそうな勢いである。
 そんなある日、直太郎が鯖の食あたりで倒れる。同時に離れで暮らす久次郎の女房・おそのも同じ症状である。
 2人の関係を悟ったおたみは、店を久次郎夫婦に渡さないため、直太郎の不義理を許さじとばかり、作をこうじるのだった。

主要登場人物
 おたみ...日本橋伊勢町・米問屋井筒屋の嫁
 井筒屋直太郎...おたみの夫
 久次郎...直太郎の実弟
 おその...久次郎の女房

ごんぱち
 中木場島崎町の材木問屋島徳の三代目・栄太に引かされ、自前芸者となった小新。男前で金もある栄太の囲われの身ではあるが、好いて好かれた間に幸せを抱いていた。
 だが、元来女好きの栄太が、柳橋の芸者・音丸と子まで成したと聞き、家作を返して縁を切る決意をする。
 栄太はそれを拒むが、芸者としてのプライドがそれを許さない小新。
 やがて栄太は、商いが成り行かずに命を絶ったと人伝に聞く。そして、栄太の実母が金策に困り、栄太に小新が貰った家に住ませろと押し掛けて来るのだが、既に別れた時に小新が買い取っていたのだった。
 一度は撥ね付けた小新だったが、老母の窮状を目の当たりにすると、同居を受け入れる。

主要登場人物
 小新...葭町・芸者屋吉橘屋の半玉
 近与...上木場西永町・材木問屋の主
 
夕しぐれ
 子供屋桔梗屋の女将・おけいが、見世内で元回し方の菊次郎を殺めた。
 二人は情人の間柄であったが、菊二郎が桔梗屋を乗っ取ろうとし、金子の要求をしてきたため、見世を守る為に殺めたのだと、おけいは証言する。
 だが、殺し方が腑に落ちない弥吉は、真実を探る。そこには、占いにより翻弄された哀れな真実が浮かび上がった。

主要登場人物
 弥吉...深川入船町汐見橋西の岡っ引き
 米松...弥吉の手下、いなり寿司屋
 桑山了伯...深川入船町汐見橋東の町医者
 おけい...深川永代寺門前仲町・子供屋桔梗屋の女将

お玉
 実母ながら千賀の義姉・佳詠に対する態度が気に入らない雪絵。佳詠は先妻の娘で、後添えの千賀とは幾つも年が離れていないことから娘とも思い辛いのかも知れないと分かりつつも、佳詠に母を見る思いであった。
 ある日、庭先で拾った仔猫を玉と名付け可愛がり、玉の首紐に文を忍ばせ、若党・周吾との道ならぬ恋をしてた。
 そして、良縁に恵まれた雪絵だが、周吾への思いを断ち切れず、二人は出奔を決意する。
 雪絵目線とお玉目線から物語が進行していく。その入れ替わりが自然である。

主要登場人物
 岡本雪絵...勘定奉行・岡本忠次郎正成の二女
 岡本佳詠...雪絵の義姉(先妻の娘)
 お玉...雪絵の愛猫

万祝(まんいわい)
 十の年に嫁入りまでの数年を、元大奥女中だった叔母に養女となったお梶。女子としての印を見た晩、叔母のお妙から、大奥で流行っていた一冊の占い本「女用知恵鑑宝織」を譲り受ける。
 常陸屋佐太郎に嫁し、男子を揚げるも、夫は外に女を囲い、女児二人を成したばかりか、暖簾を引き継ぐと大っぴらに妾宅へと足を向ける日々。
 そんなある日、木更津・河岸問屋佐貫屋の竹二郎を預かるのだが、その晩に、妾と海遊びに出掛けていた佐太郎が妾娘もろとも、藻くずと消える。
 その後の一切合切を取り仕切ってくれた竹二郎と深い仲になるも、お梶は女て一つで息子・佐吉を育て上げ常陸屋の暖簾を守ったのだった。
 だが、死に直面した時、竹二郎から貰った万祝の長半纏を、お官の掛け無垢にして欲しいと遺言を残す。

主要登場人物
 お梶...日本橋室町一丁目・本両替屋広田屋の娘
 お妙(弥生)...大奥年寄り・藤尾の部屋子→江戸橋広小路南本材木町・茶の湯生け花指南、お梶の叔母
 常陸屋佐太郎...小網町一丁目・奥川筋船積問屋の惣領息子
 佐貫屋竹二郎...上総国木更津北片町・河岸問屋の二男
 
 一冊の、生まれ月による占い本「女用知恵鑑宝織」を、縁あって開いてしまった12人の女が辿る運命。前世の行いが今生に影響を及ぼしているといった占いを信じて翻弄される者。その解釈を逆手に取る者。運命からの脱却を願う者。
 それぞれの人生の重責の中で、選択や生き方を描いている。
 武家、町人、女郎など身分に捕われずに、女心に恋、家族との絆、そして情などやはり人として生きる上で欠かせない題材をテーマに12編の物語が進行する。
 切ない終末もあり、明るい未来もあり、本当に悲喜こもごもの人生。どこで歯車が狂うなんて誰にも先は分からないのだ。
 占いに翻弄されて、そこを見落とすなといった教訓と同時に、江戸の人々とは、現在よりも占いや神仏に親しんでいたことが読み取れる。
 読み易く、かつ内容がかぶることない、「さすが」杉本氏の短編集であった。読み応えあり。




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きずな~信太郎人情始末帖~

2013年01月30日 | 杉本章子
 2004年7月発行

 呉服太物店美濃屋の総領息子でありながら、年上の後家・ぬいと割りない仲となり内証勘当の身となった信太郎。河原崎座の大札の下で働きながら、岡っ引きさながらの推理と智恵で難事件を解き明かす。人情始末帖シリーズ第4弾。

昔の男
深川節
ねずみ花火
鳴かぬ蛍
きずな 計5編の連作

昔の男
 吉原の引手茶屋・千歳屋の女将・おぬいに、脅しの文が届く。それは、知る人とているはずのない、先の亭主を亡くした直後の情人に関する内容だった。
 美濃屋の名を出され、脅しの主の元へ足を運んだおぬいを救ったのは、美濃屋卯兵衛だった。

深川節 ねずみ花火 鳴かぬ蛍
 旗本の放蕩息子によるとみられる女殺しがあった。そこに手証を見出した南町同心・三上小平太だった。
 兄を殺害され、急遽家督を継ぐ運びとなった磯貝貞五郎。不慮の死を遂げた兄の仇を討つため、信太郎と共に調べを進めるうちに、小平太が件の旗本に仕掛けた罠であったことに気付く。
 そしてそれは、小平太の仇討ちでもあった。
 一方、旗本の当主となった貞五郎。小つなは身分違いと切れる覚悟を決めるが、貞五郎から思わぬ申し入れがあり…。

きずな
 信太郎の父親・卯兵衛は、ぬいの人柄も気に入り、ぬいの連れ子・千代太をゆくゆくは美濃屋の跡取りにしたいと願うようになっていた。
 ぬいの不安をよそに、美濃屋への布石を気付き築きつつあった卯兵衛であったが、持病の病いが悪化し…。

 ぬいの過去にまつわる「昔の男」で始まり、そこで出会った卯兵衛とのつながりを描いた最終章の「きずな」。
 中に挟まるのは、「深川節」、「ねずみ花火」、「鳴かぬ蛍」の連作3編。貞五郎の実兄殺しが本筋となり、その背景に放蕩旗本の悪行。そして番方から晴れて定町廻り同心に直った小平太の過去が描かれる。
 そして全編を通し、大店の嫡男・信太郎と引手茶屋の女主・ぬい。武家戻った貞五郎と芸者・小つなと、双方の身分違いの恋の行方。さらには信太郎の処遇遺憾で将来が変わる妹のおゆみの恋が流れる。
 実に内容の深い1冊だった。同シリーズは3冊しか読んではいないが、この回ばかりは信太郎というより、むしろ父親の卯兵衛の懐の大きさを全面に押し出した印象が強い。
 ハッピーエンドで終わるかに思えた最期の最後に、悲しく切ない別れが、今後の同シリーズへの波紋を投げ掛ける。
 そして舞台は川原崎座から美濃屋へと移り、第二章の幕開けを感じさせている。
 実に深くかつ巧みな構成であり、著者の大きさを感じさせるシリーズである。
 信太郎が千代太へこたえる、「千代太は生まれてくる赤ん坊より先に、おれの子になるのさ」の台詞や、信太郎と卯兵衛の別れのシーンはぐっと胸に込み上げる物がある。さらりと短文で締めながらも要所はきちんと押さえた技巧はお見事。
 書評で読み限り、増々面白くなっている様子。是非とも続けて読みたいシリーズだ。

主要登場人物
 信太郎...本町呉服太物店・美濃屋卯兵衛の総領息子(内証勘当中)、猿若町川原崎座の大札下働き
 千歳屋ぬい...吉原仲之町引手茶屋・千歳屋の女将、信太郎の情婦
 千代太...ぬいの連れ子
 おみち...信太郎・ぬいの娘 
 元吉...岡っ引き・徳次の手下、信太郎の幼馴染

 徳次...日本橋北から両国広小路縄張りの岡っ引き、中山弥一郎の小者
 彦作...千歳屋の番頭
 和助...千歳屋の男衆
 中山弥一郎...南町奉行所定町廻り同心
 久右衛門...川原崎座の大札、ぬいの叔父
 磯貝貞五郎...川原崎座の囃子方、本所石原町・御家人磯貝家の部屋住み

 小つな...柳橋の芸者、貞五郎の情婦
 美濃屋卯兵衛...美濃屋の主、信太郎の父親
 嶋屋庄二郎...大伝馬町木綿問屋の主、信太郎の義兄
 おふじ...庄二郎の女房、信太郎の姉
 おゆみ...信太郎の妹
 仁平...美濃屋の番頭
 二代目河竹新七...川原崎座の立作者
 三上小平太...南町奉行所定町廻り同心



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水雷屯~信太郎人情始末帖~

2013年01月26日 | 杉本章子
 2002年3月発行

 呉服太物店美濃屋の総領息子でありながら、年上の後家・ぬいと割りない仲となり内証勘当の身となった信太郎。河原崎座の大札の下で働きながら、岡っ引きさながらの推理と智恵で難事件を解き明かす。人情始末帖シリーズ第2弾。

水雷屯
ほうき星の夜
前触れ火事
外面
うぐいす屋敷 計5編の短編連作集

水雷屯
 信太郎の義兄・嶋屋庄二郎は、妾宅で盗人に押入られ、預りものの手形を盗まれてしまった上、庄二郎の子を宿した筈の妾・おちかの行方が知れなくなってしまった。思い余った庄二郎は、信太郎から岡っ引きの手下の元吉を紹介されるが、勝手に依頼を受けたと、今度は元吉まで苦境に立たされてしまう。

ほうき星の夜
 元吉の兄貴分の常蔵が何者かに殺害された。その日、言い争うのを目撃されていた元吉に、当然容疑がかかり、元吉は番屋へと引き立てられる。そもそも2人争いは、先の嶋屋庄二郎の一件にあり、責任を感じた信太郎は、元吉の無実を立証する為に奔走する。

前触れ火事
 磯貝貞五郎の相方・小つなの贔屓の呉服屋枡屋がもらい火によって焼け、主も焼死した。小つなは、お座敷で耳にした話から、火事に見せ掛けた枡屋殺害を目的とした付け火であるのではないかと疑念を抱く。

外面
 居酒店にたまたま居合わせた中間風の男が店を出たところで何者かに殺されていた。どうにも、その男と今しがたまで一緒だった泣きぼくろの男の正体を突き止めなくてはならなくなった信太郎は、光雲堂の看板を掲げる怪しげな占い師に行き当たる。

うぐいす屋敷
 信太郎と同じ裏店・万平店の植木職人・かん助は、借金のかたに植正の印半纏を取り上げられてしまった。その後、かん助の半纏を纏った男が遺骸で発見され、またかん助自身と同じ植正のの乙八も辻斬りに遭ってしまう。一連の事件は、かん助を狙っての仕業ではないかと信太郎は動き出す。

 進行形のこシリーズ。事件の脇では千歳屋ぬいが信太郎の子を宿しながらも、大店の総領息子である信太郎とは添えない。一方の信太郎は、ぬいの連れ子・千代太に2人の仲を認めて貰いたいといった、サイドストーリが展開する。
 どこか掴みどころのない信太郎ではあるが、同じ長屋の人々との交流がほとんどの章で描かれ、1作目より人間味のある、サブタイトルの「人情始末帖」に相応しい内容になっていた。
 穏やかな人柄の主人公が、図らずも事件に巻き込まれ、それを頭脳で解き明かす。派手な殺陣や大掛かりな設定はないが、どこかほっとするシリーズである。
 それは内容ももちろんであるが、作者の技量によるところも大きく、こういった安定感のある時代小説に出会うとほっとする。

主要登場人物
 信太郎...本町呉服太物店・美濃屋卯兵衛の総領息子(内証勘当中)、猿若町川原崎座の大札下働き
 千歳屋ぬい...吉原仲之町引手茶屋・千歳屋の女将、信太郎の情婦
 千代太...ぬいの連れ子 
 元吉...岡っ引き・徳次の手下、信太郎の幼馴染

 徳次...日本橋北から両国広小路縄張りの岡っ引き、中山弥一郎の小者
 彦作...千歳屋の番頭
 和助...千歳屋の男衆
 
 中山弥一郎...南町奉行所定町廻り同心
 久右衛門...川原崎座の大札、ぬいの叔父
 磯貝貞五郎...川原崎座の囃子方、本所石原町・御家人磯貝家の部屋住み

 小つな...柳橋の芸者、貞五郎の情婦
 美濃屋卯兵衛...信太郎の父
 嶋屋庄二郎...大伝馬町木綿問屋の主、信太郎の義兄
 平六...研ぎ屋、慶養寺門前町・万平店の店子
 為次...瓦職人、万平店の店子
 かん助...入谷の植木屋・植正の職人、万平店の店子
 二代目河竹新七...川原崎座の立作者


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おすず~信太郎人情始末帖~

2012年12月24日 | 杉本章子
 2001年9月発行

 呉服太物店美濃屋の総領息子でありながら、年上の後家・ぬいと割りない仲となり内証勘当の身となった信太郎。河原崎座の大札の下で働きながら、岡っ引きさながらの推理と智恵で難事件を解き明かす。人情始末帖シリーズ第1弾。

おすず
屋根船のなか
かくし子
黒札の女
差しがね 計5編の短編連作集

おすず
 横山町・呉服太物問店槌屋幸七の店が盗賊に襲われ、婚礼を控えた娘のすずは、辱めを受け自害して果てた。知らせを受けた信太郎は、己の身勝手からすずとの婚儀を保護にした己に自責の念に駆られ、元許嫁のすずへの悔恨を胸に盗賊探しを始める。

屋根船のなか
 浅草を流れる大川に浮かぶ屋形船の中で、男女の死骸が上がる。姿を眩ませた船頭は、千歳屋の女中・おさとの父親の常松であると言う。常松の行方を探す奉行所に嫌疑を掛けられた千歳屋と、父親の無実を信じるおさとの為に、信太郎は事件に絡んでいく。

かくし子
 おぬいの元に、死んだ亭主宇之助の忘れ形見だという子を連れて訪ったさよという女。孝吉を引き取るか、証拠の書付を500両で買い取って欲しいと告げる。
 新手の強請ではないかと、信太郎は真偽を確かめる為、奔走する。

黒札の女
 河原崎座を出たところで信太郎は、今津屋の内儀・お甲を呼び出して欲しいと、お店者風の男から黒札料を押し付けられた。だが、その男の紙入れがお店者にしては上等過ぎることに不信を抱く。
 程なくして、お甲が何者かに殺害され、探索の目がほかに向けられる中、信太郎は件のお店者風の男を怪しいと睨むのだが…。

差しがね
 おすずの一周忌から程なくして、信太郎は何者かに半殺しの目に合わされた。男たちの口調から信太郎への遺恨があってのことらしいのだが、心当たりはない。更には千歳屋への嫌がらせ、そしてぬいのひとり息子・千代太が勾引されるといった凶事が続く。

 名前の上がる登場人物が多く、また時代小説の常だが名が似通っているので、人物を追うのに難義するのと、当方が、芝居そのものに疎い為に、話に出て来る芝居の演目への説明が、脇道に反れていくような気がして、些か読み下すのに手間が掛かった。
 だが、「黒札の女」、「差しがね」と進むと、信太郎の切ない思いや葛藤などが如実に描かれ、人の性や切なさが募る。
 杉本氏の作品は、以前にアンソロジー集の中で、「かくし子」を読んだだけだが、男性的なタッチと、ひとつの事件に対しての背景が複雑に絡み合った謎解きとなっている点が特徴的である。玄人(本格派時代小説マニア)好みの作家と言えるだろう。

主要登場人物
 信太郎...本町呉服太物店美濃屋卯兵衛の総領息子(内証勘当中)、猿若町川原崎座の大札下働き

 千歳屋ぬい...吉原仲之町引手茶屋・千歳屋の女将、信太郎の情婦
 千代太...ぬいの連れ子 
 元吉...岡っ引き・徳次の手下、信太郎の幼馴染

 徳次...日本橋北から両国広小路縄張りの岡っ引き、中山弥一郎の小者
 彦作...千歳屋の番頭
 和助...千歳屋の男衆

 中山弥一郎...南町奉行所定町廻り同心
 久右衛門...川原崎座の大札、ぬいの叔父

 磯貝貞五郎...川原崎座の囃子方、本所石原町・御家人磯貝家の部屋住み

 小つな...柳橋の芸者、貞五郎の情婦
 美濃屋卯兵衛...信太郎の父
 おすず...横山町・呉服太物問店槌屋幸七の娘、信太郎の元許嫁
 二代目河竹新七...川原崎座の立作者



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