うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

江戸の都市プランナー

2014年04月20日 | ほか作家、アンソロジーなど
小林信也

 2013年1月発行

 江戸時代末期の町名主・熊井理左衛門の伝記。

第1章 理左衛門、71歳で牢獄に入る
第2章 理左衛門、深川の町名主になる
第3章 理左衛門、町奉行から重用される
第4章 理左衛門、町名主の頂点に立つ
第5章 理左衛門、江戸を大掃除する
第6章 理左衛門、罠にはめられ逮捕される 長編

 時は幕府老中の水野忠邦の権勢。貨幣経済の発達に伴って逼迫した、幕府財政の再興を目的とした天保改革を断行した。
 この時忠邦の懐刀が南町奉行の鳥居耀蔵であり、鳥居が抜擢したのが江戸人形町の名主・熊井理左衛門であった。幕府から抜擢された彼は、名主としては異例の出世を遂げていき、江戸の総名主のリーダーとなって、様々な行政分野で超人的な活躍をし、次第に幕府から重用されて、江戸町方の行政の中心で辣腕をふるうことになる。
 だが、理左衛門は晩年になり、当時は貴重であった砂糖の収賄から、身分を剥奪され獄舎に繋がれる。そしてその仕打ちは、名家のプライドをずたずたにする罰則であった。
 やがて、重追放となった理左衛門のその後は確認されていない。

 幕府に後見し、江戸を築き上げた立役者でもありながら、不遇の晩年により歴史に埋もれていた、町人社会のカリスマ・リーダー・名主・熊井理左衛門に著者は注目。
 
 



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むつかしきこと、承り候~公事指南控帳~

2014年04月20日 | ほか作家、アンソロジーなど
岩井三四二

 2013年2月発行

 天竺屋時次郎は、薬屋を営みながら、公事宿に奉公していた時の経験を元に、出入師として公事の指南をして手間賃を貰っている。そこにやってくるのは、御白州では証拠がなく白となったものの、どうしても黒だと被害者側の訴えなど一筋縄ではいかない難題ばかり。

不義密通法度の裏道

白洲で晴らすは鰻の恨み

下総茶屋合戦

漆の微笑

呪い殺し冥土の人形

内藤新宿偽の分散

根付探し
娘闇夜の道行 計8編の短編連作

不義密通法度の裏道
 古手問屋を営んでいたおきせの夫・長蔵が、取引先の滝田屋の女房・おすみと不義密通に及んでいたとして主の半右衛門に殺された。裁きの結果は半右衛門は無罪。
 おきせは、半右衛門が売掛金を返したくない為に、不義密通に仕立て上げたのだと、奉行所に目安(訴状)を提出したいと訪なうのだった。


白洲で晴らすは鰻の恨み
 下総国銚子の干鰯問屋・白田屋弥右衛門は、堺町の芝居茶屋・笹雪屋を即金50両で購入したが、笹雪屋は一向に引き渡しをする様子もなく、ならばと契約不履行を持ち掛けても、返金もしてくれない。
 その公事が長くなり途方に暮れた白田屋弥右衛門は、藁にも縋る思いでやって来た。時次郎が調べてみると、どうも笹雪屋はこの手の詐欺の常習らしく、法の抜け道にも長けていた。
 
下総茶屋合戦
 下総国大島村の名主・甚右衛門と差紙がついた留吉が、4年たってもまだ言い渡しが出ないと相談する。どうも大島村の茶屋を襲った無宿人の隠し金が原因となり拗れているようだ。

漆の微笑
 焼けてしまった月光菩薩の修復を依頼された仏師・般若堂勝慶。元の姿を知らないまでも、十分な修復をしたのだが、「顔が違う」と、何度も手直しをさせられた上に、どうしても気に入られず、プライドまでも傷付けられた上に公事に持ち込まれたのだった。
 双方の言い分に嘘を見受けられず、時次郎が調べてみると、意外な絡繰りが仕組まれていた。

呪い殺し冥土の人形
 米問屋・小嶋屋の隠居・よねが、「息子が呪い殺された」と、下手人捜しを依頼する。

内藤新宿偽の分散
 分散した椀屋・辰巳屋の分散には、仕組まれていたとの噂が付きまとう。60両の貸金回収に出向いた嘉兵衛は、13両しか回収出来ず仕舞い。
 何とか貸金を取り戻したい嘉兵衛は…。

根付探し娘闇夜の道行
 大切な根付けが質に流れてしまったおさと。質屋から買い求めたおふさに、譲って欲しいと頼むも断られてしまう。そしておふさが何者かに襲われ…おさとに嫌疑がかかる。

 白州で裁定が下されても納得出来ない。また、長引いた揉め事を簡潔の終わらせたい。そんな難問を解き明かす異色の職業(?)公事指南。
 その職業からミステリー仕立てになっている。
 登場人物のキャラが良く読み取れず、感情移入が難しかったのと、謎解きの出典やその技法が余り頭に入ってこなかった。

主要登場人物
 天竺屋時次郎...深川門前仲町・薬屋の主
 おみつ...時次郎の女房




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相も変わらずきりきり舞い

2014年04月13日 | 諸田玲子
 2014年2月発行

 酒浸りで奇人の父親を持った事から悩みが絶えず、自らの婚期も逃しつつあり、焦りながらも玉の輿を夢見る十返舎一九の娘・舞と、葛飾北斎の娘・お栄らによる痛快人情コメディ。「きりきり舞い」の続編。

相も変わらず
祝言コワイ
身から出たサビ
蓼食う虫も
人は見かけに
喧嘩するほど
人には添うてみよ 計7編の短編連作

相も変わらず
 勘弥の代稽古をつける舞の元に、「泥棒が入った」とお栄が息を切らせてやって来た。だが、盗まれたのはお栄の枕絵のみ。鳶堂の鵜右衛門が、一九の戯作には目もくれずに銭になる枕絵を持ち帰ったのだった。
 お栄は、一九を慮って取り戻した枕絵を川に捨てる。

祝言コワイ
 老舗の呉服屋・八幡屋へ嫁ぐことになった勘弥の祝言に、弟子の舞はもちろん、身内に箔をつけるために、一九とお栄にも列席を求められた。奇人である一九とお栄が場をぶち壊しにするのではないかと舞は気が気ではないのだが、当日、勘弥の昔の情夫・安二郎が殴り込みにやって来て…。
 一九、尚武、お栄の奇人を生かした(?)機転が、婚礼の場を救ったばかりか、花を添える。

身から出たサビ
 舞の家の井戸に幽霊が出るとの目撃が後を絶たず、気味の悪い舞は、絵の題材にしろと、お栄をけしかけて寝ずの番をさせる企みが、なぜか自分が番をする羽目になる。
 どうやら子どもの仕業と分かるが、なんと、一九が記憶にも留めていなかった、品川宿の旅籠で働いていた女との間に出来た子の一九に復讐のための所行を分かる。
 既に母親は鬼籍に入り、行く宛のない丈吉だが、後添えのえつの気持ちを思んばかり、尚武が己の子であると告げ、養育することになる。
 
蓼食う虫も
 売り出し中の女形・外村呑十郎が、初めての立約に挑むとあり、お栄が役者絵を頼まれた。
 その出会いにり、呑十郎はお栄に惚れてしまったようで、稽古にも身が入らずに、恋いこがれていると聞き、舞は、お栄を着飾らせて呑十郎の舞台を観に連れ出すのだが、そこで素っ気ない呑十郎とその横に居る女房を目の当たりにしてしまう。
 呑十郎の悪い癖で、舞台の初日が開けるまで、不安な気持ちを紛らわす為に、女に現を抜かすのだそうだ。それも見目の悪い女が好みだと言う。
 すっかり気持ちを弄ばれたお栄は、舞とえつと共に酔って鬱憤を晴らすのだった。

人は見かけに
 弥次郎兵衛と名乗る男が、一九の弟子入り志願でやって来た。「東海道中膝栗毛」の弥次さんと同名なのが気に入り、一九は即座に弟子に取る。
 そんな折り、このところ無心に描いているお栄の亀が何者かに盗まれ、同時に長屋に越して来たばかりの浪人に、おいとが人質に捕られる。
 この浪人と弥次郎兵衛は一九の隠し財産を狙った泥棒であり、お栄の亀に入った木箱を金子と勘違いして盗み出したが、それと違うと分かるとおいとを盾に立て籠ったのだった。
 
喧嘩するほど
 おいとの命を救ってから、尚武とおいとが急接近。少しばかり胸のざわめきを感じる舞に、与五郎兵衛から嫁にしたいと打ち明けられる。武士の妻になることが夢だった舞は、有頂天になるが…。
 どうも話の辻褄が合わずにいると、与五郎兵衛は藩命で、北斎に屏風絵を書いて欲しいので、お栄から北斎を口説いて欲しいといった依頼だった。
 とんだ勘違いだった舞は、踊りの師匠として生きようと誓う。

人には添うてみよ
 今度は本当に与五郎兵衛からの嫁入り話が決まった舞い。 
 一方、悪名高き、阿久里屋尽右衛門の座敷の呼び出された一九と尚武。舞の懸念が当たり、荒れた座で一九を庇った尚武が大怪我を負った。
 慌てて駆け付け、懸命に看病する舞は、自分の尚武への思いを今更ながら知るのだが、片腕が使えなくなった尚武は在郷に戻ると言い出すのだった。
 それを、家計は踊りの師匠をして自分が支えると、言い切った舞。
 どうやら「きりきり舞」は、未だ未だ続きそうだ。

 第一作よりも更に面白みを増した続編。中でも葛飾北斎の娘・お栄が良い味を出している。浮世離れしながらも、鋭い洞察力とここ一番の判断力。そして、実は情もある。
 主役を喰った名傍役といったところだろう。作者がお栄のキャラを愛している様子が伺える。
 また、全てのキャラ設定が生き生きとしていて、読み易く、面白いシリーズである。

主要登場人物
 舞...十返舎一九の娘
 十返舎一九(駿河屋藤兵衛、与七、幾五郎、重田貞一)...戯作者
 えつ...一九の4番目の女房
 お栄(葛飾応為)...葛飾北斎の娘、浮世絵師
 葛飾北斎...浮世絵師
 今井尚武...一九の弟子・居候、駿府の浪人、旗本小田切家元家臣
 森屋治兵衛...地本問屋錦森堂の主
 勘弥...藤間流の踊りの師匠
 間与五郎兵衛...延岡藩内藤家の江戸勤番侍
 丈吉...一九の隠し子、尚武の子として認知




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月の欠片(かけら)

2014年04月06日 | ほか作家、アンソロジーなど
浮穴みみ

 2014年2月発行

 開化の帝都に連続する他殺。自刃を装ったその死の謎を、新時代への希望を胸に抱く旧会津藩士の子息・佐々木琢磨が追う。

序章
第一章 都鳥(みやこどり)
第二章 牛鍋屋治五郎(ぎゅうなべやじごろう)
第三章 西洋塾
第四章 月の欠片(かけら)
第五章 もう一人の敵(かたき)
終章 長編

 戊辰戦争で孤児となった佐々木琢磨は、築地の外国人居留地近くの西洋茶店・都鳥に寄宿することとなった。
 主の旧旗本・祐三郎は都鳥の経営の傍ら、書生住まわせ、無償で西洋塾に通わせていた。
 風変わりな祐三郎には、他人の意識が脳裏に入り込み、それが現実となる不思議な能力があった。
 そして、琢磨が、都鳥に到着した矢先、祐三郎は4人の男の死を予言する。
 まず、割腹の変わり果てた骸となって発見されたのは、新橋で牛鍋屋を営む治五郎であった。だが、その自刃には他殺と思われる形跡があるばかりか、クリスチャンへの帰依を望んでいた治五郎が、自死を選ぶとは思われない。
 琢磨たちが治五郎の過去を探り出すと、次なる骸が発見される。
 この2人の繋がりと、残る2人は誰なのか…。そして彼らが殺される理由とは。
 その謎に行き着いた時、ひとりの男の壮絶な人生と復讐がそこにあった。

 序章の情緒的な出だしは、実に興味深く、読者を引き付ける魅力に満ちていた。
 そして打って変わった本章である第一章に入ると、ミステリー的要素も加わった、青春サクセスストーリ的な物語となる。
 登場人物が序章の謎を解き、犯人を探り出していくのだが、残念なことに、その謎解きがずさんであり、終盤に掛けてトーンダウンを感じてしまった。
 また、「月の欠片」を、シンボリックに使いたかったのだろうが、生かされていないようにも思える。
 序章の降ってきた光る物の説明と、「月の欠片」を結び付けるのにも無理がある。
 設定も、幕末の動乱を、それぞれの立場で生き抜いた若者たちを集めたのであるなら、その辺りをもっと掘り下げても良かったのではないだろうか。未だ戊辰戦争の傷の癒えない若者、明治の世の仇討ち、武士道を守る老人、千里眼、外国人との触れ合いなど、設定は興味深いのだが、登場人物の魅力が伝わってこなかった。
 舞台を外国人居留区にし、外国人を登場させた訳は、進んだ欧米の操作方法や、犯人のその後に大いに必要性を感じた。

主要登場人物
 佐々木琢磨...祐三郎の書生、旧会津藩士の子息
 片桐祐三郎...築地明石町・西洋茶店都鳥の主、旧幕府旗本
 隠居...祐三郎の父親
 斎藤Ⅷ...巡査、旧会津藩士
 大野熊保(大熊)...祐三郎の書生、旧肥後藩士
 森下正之助(小熊)...祐三郎の書生、旧長岡藩士 
 ジョーンズ...築地外国人居留区の医師・宣教師
 アリス...ジョーンズの娘
 持田健介...ジョーンズ西洋塾の塾生、元商家の跡取り
 小林春生...ジョーンズ西洋塾の塾生、フランス人・フランソワ家の書生、旧仙台藩支藩藩士・鈴木源吾家の下働き




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