2008年5月発行
尊王攘夷に国中が揺れる幕末の京都で、とびきり屋という道具屋を構えた真之介とゆず。とびきり屋を立派な店にする為、智恵を絞り奔走しながら、維新の志士たちと関わり合っていく。
京の都の商人を主人公にした、はんなり系痛快時代小説の第1弾。
千両花嫁
金蒔絵の蝶
皿ねぶり
平蜘蛛の釜
今宵の虎徹
猿ヶ辻の鬼
目利き一万両 計7編の短編集
千両花嫁
奉公先だった、茶道具屋の愛娘のゆずと駆け落ちした真之介。ゆずの持参金にと千両を収めてたのだが、それが何者かに強請り取られてしまう。
後の新撰組幹部で壬生浪士の近藤勇、土方歳三、沖田総司、芹沢鴨が登場。
金蒔絵の蝶
芸妓から晴れて大店の若女将に迎えられた だったが、そこには姑の執拗ないじめがあり、嫁入り道具一切を手放すか、婚家を去るかを迫られるのだった。
高杉晋作が切ない恋の相手として顔を見せている。
皿ねぶり
手代の鶴亀が、仕入れの金三十両で、勝手に古びた甲冑を買って来た。だが、その箱から天正大判十枚が見付かるり、真之介は、その甲冑を売った土佐藩士に返しに向かう。
坂本龍馬が、とびきり屋の居候として住み着くと、刺客に狙われた勝海舟までもが…。
平蜘蛛の釜
ゆずが、高杉晋作から、坂本龍馬へ渡して欲しいと言付かったの預かり物を、真之介が誤って売ってしまう。しかも買ったのは土方歳三だった。
今宵の虎徹
虎徹13振りを手に入れた真之介。だが、本物は1振りだけで、後は贋作である。とびきり屋で奉公人が目利きをする中、近藤勇も目利きし1振りを所望した。
猿ヶ辻の鬼
公家の姉小路公知を尊王攘夷に傾けるため、贈り物を選んで欲しいと、武市瑞山に持ち掛けられた真之介。一方のゆずは、姉小路公知を開国へなびかせるための贈り物を、坂本龍馬から所望される。薩摩の田中新兵衛らしき人物も姿を見せている。
目利き一万両
己の出自を知る手掛かりである、辻が花染めの布を手に入れた真之介。その布の出所を調べていると、ゆずの兄である長太郎が、勤王派に加担したとして新撰組の屯所に引き立てられた事を知る。
男性作家は、情景描写や言葉での説明では女流作家に及ばないと思っていたが、どうしてどうして。お見事である。
僭越ながら、読ませる力と、確実な歴史力、そして発想力。グラフにしたら、ほぼ正確な丸になるだろう。
また、実在の人物を名前を明かす前に、その風貌を文章で説明しているが、それも「うんうん」と思わず頷くほどに的を得ている。
さらに彼らと、真之介とゆず夫妻との絡みも自然で、生臭い維新を感じさせずに、市井物として読めるのが嬉しい。
実際に彼らは、京での日常をこんな風に送っていたのかも知れないと思えた。
近藤勇の虎徹、芹沢鴨の押し込み、坂本龍馬の拳銃などなど、実存した人物のエピソードも巧みに織り込まれている。
また、今回は池田屋総兵衛はワンシーンのみの顔見せだが、多分この流れでいけば次作では池田屋騒動が全面に描かれるのでは…と思わせているなと感じたら、やはりそのようである。第2弾「ええもんひとつ」では、池田屋騒動に真之介が巻き込まれていくらしい。
そんな実存した人物像を見ていくと、真之介はどうにも近藤や、土方に良い印象を描いていない風が伺えるが、これは後作を意識しての事だろうか…。次第に打ち解けるとか。または、作者が京都の方なので、やはり京都の方は新撰組がお嫌いなのか…。それにしては、芹沢は傲慢ながらも、話が分からない男には描かれていない。
山本兼一の作品に巡り会った初めてが、好きな市井物と幕末維新の合わせ技だったのも嬉しい。今後も山本兼一さんの作品を読んでいくつもりである。求めていた作品に出会えた喜びと同時に、シリーズを追って読み続けなくてなはならない。また発売までに気が揉めるといった嬉しい困惑が同時に浮き上がった。
主要登場人物
とびきり屋真之介...三条木屋町道具屋の主
ゆず...真之介の妻、茶道具商からふね屋の娘
伊兵衛...とびきり屋の番頭
牛若...とびきり屋の手代
鶴亀...とびきり屋の手代
俊寛...とびきり屋の手代
鍾旭...とびきり屋の手代
からふね屋善右衛門...知恩院新門前通り茶道具商の主、ゆずの父親
琴...ゆずの母親
長太郎...ゆずの兄
市菊...祇園新橋置屋井筒屋の娘、芸妓
小梨花(かね)...室町呉服問屋千倉の嫁、元井筒屋の芸妓
近藤勇...壬生浪士、天然理心流宗家四代目(後の新撰組局長)
土方歳三...壬生浪士、武蔵国多摩郡石田村の豪農の子息(後の新撰組副長)
沖田総司...壬生浪士、陸奥白河藩阿部家家臣の子息(後の新撰組一番組長)
芹沢鴨...壬生浪士、水戸藩徳川家脱藩(後の新撰組局長)
高杉晋作...長州藩毛利家家臣(後に奇兵隊創設)
坂本龍馬...土佐藩山内家脱藩(後に亀山社中→海援隊結成)
勝安房守海舟...幕府旗本、軍艦奉行並(後に海軍伝習掛、海軍奉行並、陸軍総裁、軍事取扱を歴任)
岡田以蔵...土佐藩山内家脱藩
武市瑞山(半平太)...土佐藩山内家家臣
池田屋総兵衛...三条木屋町旅籠の主
藤村吉兵衛...寺町の表具師、幸吉の父親
若宗匠家元...鴨川の側茶道家
若宗匠宗春...家春の嫡男、ゆずの元許嫁
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