うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

心中しぐれ吉原

2015年04月26日 | 山本兼一
 2014年10月発行

 山本氏の死後発刊された恋愛時代小説。
 
第一章 疼き
第二章 痛み
第三章 裏切り
第四章 棄捐令(きえんれい)
第五章 極楽の村
第六章 激痛
第七章 人間界
終 章 甘露のしぐれ 長編


 蔵前の札差・大口屋の分店の主・文七の女房・みつが、出会い茶屋で若い役者と心中した。
 惚れ合って夫婦になったみつが、ほかの男と心中するなんて信じられない。無理心中で殺されたのだ。
 文七は、おみつが殺されたと固く信じ、事件を知る人たちの口書きを集める。
 その後、瀬川(お蝶)を身請けし、隠居生活を始めるが、賊に押込まれ大怪我を負ってしまう。また、お蝶も花魁時代の馴染みに襲われ…二人の選んだ結末は…。

 この物語はサスペンスに男女の思いを絡めた恋愛時代小説。どうにも山本氏らしくない一冊に思えた。

主要登場人物
 大口屋文七...蔵前・札差・大口屋の分店の主 
 坂倉屋平十郎...蔵前・札差の主
 瀬川(お蝶)...吉原松葉屋の花魁




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利休の茶杓~とびきり屋見立帖~

2014年07月12日 | 山本兼一
 2014年5月発行

 尊王攘夷に国中が揺れる幕末の京都で、とびきり屋という道具屋を構えた真之介とゆず。とびきり屋を立派な店にする為、智恵を絞り奔走しながら、維新の志士たちと関わり合っていく。
 京の都の商人を主人公にした、はんなり系痛快時代小説の第4弾。

よろこび百万両
みやこ鳥
鈴虫
自在の龍
ものいわずひとがくる
利休の茶杓 計6編の短編連作

よろこび百万両
 銅屋の蔵の目録書を頼まれた、とびきり屋真之介とゆず。丁寧な仕事と人柄を見込まれ、道具屋冥利に尽きる程の逸品・堆黄の盆を託される。
 とびきりの値をつけようと意気込む矢先、待ち伏せしていたゆずの兄・長太郎に有無を言わさず連れられ、からふね善右衛門と雲堂孝右衛門の待つ座敷へ。
 彼らは、真之介が銅屋の蔵へ入っていることを知り、出物を待ち構えていたのだった。
 
みやこ鳥
 京の町に大筒の音が鳴り響いた。甲冑を着た武者が横行する。何が起きたのか…。
 真之介は様子を探りに市中に出向くと、長州が禁裏から締め出されたと言う。
 都落ちする三条実美に、真之介とゆずはみやこ鳥の香炉を送るのだった。

鈴虫
 銅屋吉左衛門から預かった、鈴虫の名の付いた黒楽茶碗。何代の作なのか、贋作なのかの目利きを頼まれたが、贋作には思えずかといって本物には9分。
 真之介もゆずにも、鈴虫の銘がそぐわないように思えてならないのだ。
 そんな折り、茶道家の若宗匠が、黒楽茶碗の鈴虫を持ち歩いていると聞く。
 早々家元の元に出向いたゆず。そこで、銅屋の鈴虫の本物の箱とそれに相応しい本来の名を見出すのだった。
 
自在の龍
 枡屋喜右衛門から、名工・明珍作の鉄製始め、沢山の自在置物(鉄などの素材で、体節・関節が動くように写実的に作られた動物の模型)を持ち込まれた「とびきり屋」。
 だが、龍の自在置物だけは売らずに、かつ枡屋が指定する形で飾って欲しいと頼まれる。
 真之介は、これは何かの合図に違いないと得心する。そんな折り、芹沢鴨がやって来て、その絡繰りを見抜きそうになるのを、ゆずが防ぐ。

利休の茶杓
 真之介が茶杓箪笥を仕入れてきた。竹はもちろん、象牙や銀の茶杓もあり、見事な細工である。いずれも利休や織部、細川三斎などの高名な茶人の物を真似たようである。
 早々に目を着けた若宗匠宗春が買い求めるも、それは竹家の主が趣味で拵えていた大切な道具箱であったが、こじれて露店に出てしまったのだった。
 さらに若宗匠宗春の元から取り戻したい竹家の主との間に芹沢鴨が野心ありげに入ったからたまらない。
 そして1本だけあった本物の利休の茶杓の目利き合戦が始まる。

 面白おかしく読み応えのあるシリーズ。芹沢鴨のキャラがこのシリーズには不可欠であり、敢えて芹沢を選んだ作者の眼力こそが目利きである。
 女性であれば、「とびきりや」と絡む新撰組隊士は、間違いなく土方歳三か沖田総司だっただろう。
 いよいよ尊王攘夷派と佐幕派が激突する、「池田屋事件」まで秒読みとなり、また「とびきりや」と一番関わりの深い芹沢鴨暗殺も間近に迫る。この大事件と真之介、ゆずはどう関わっていくのか…。
 実にワクワクと新作を待っていたのだが…このシリーズもこれで読み納めかと思うと、寂しさが募る。もし続編があれば、「とびきりや」がどう明治維新と関わっていくのかなど、気になって仕方ない。
 いち読者がそうであれば、間違いなく作者も無念であったことだろう。
 ご冥福を御祈り申し上げます。合掌

主要登場人物
 とびきり屋真之介...三条木屋町道具屋の主
 ゆず...真之介の妻、茶道具商からふね屋の娘
 伊兵衛...とびきり屋の番頭
 牛若...とびきり屋の手代
 鶴亀...とびきり屋の手代
 俊寛...とびきり屋の手代
 鍾旭...とびきり屋の手代
 松吉...とびきり屋の丁稚
 梅吉...とびきり屋の丁稚
 きよ...とびきり屋の女衆
 みつ...とびきり屋の女衆
 からふね屋善右衛門...知恩院新門前通り茶道具商の主、ゆずの父親
 からふね屋長太郎...善右衛門の嫡男、ゆずの兄
 大雲堂孝右衛門...道具屋の主
 芹沢鴨...壬生浪士、水戸藩徳川家脱藩(後の新撰組局長)
 桂小五郎...長州藩毛利家家臣(後の木戸孝允、総裁局顧問専任など明治政府から重用された)
 近藤勇...壬生浪士、天然理心流宗家四代目(後の新撰組局長)
 若宗匠家元...鴨川の側茶道家
 若宗匠宗春...鴨川の側茶道家(家元の嫡男)、ゆずの元許嫁
 銅屋吉左衛門..両替商
 大雲堂考右衛門..道具屋



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山本兼一さん死去

2014年02月14日 | 山本兼一
 13日、直木賞作家の山本兼一さんが亡くなられました。まだ57歳の若さです。
 私は、著名な「火天の城」、「利休にたずねよ」などは読んでおりませんが、「とびきり屋見立て帖」シリーズのファンで、第4弾を心待ちにしておりました。「オール読物」にて、新作3編まで読ませていただきましたが、更なる進展を待っていた矢先です。
 残念でなりませんが、ご本人も、もっともっと執筆したかったことでしょう。
 ご冥福をお祈り申し上げます。

黄金の太刀~刀剣商ちょうじ屋光三郎~

2012年10月27日 | 山本兼一
 2011年9月発行

 御腰物奉行の嫡男でありながら、「正宗は存在しなかった」と言い切り勘当され、刀剣商に婿入りた光三郎が、今回は、「黄金の太刀」を巡る事件に巻き込まれる。「狂い咲き正宗」の続編。

黄金の太刀
正宗の井戸
美濃刀すすどし
きつね宗近
天国千年
丁子刃繚乱
江戸の淬ぎ 長編

 刀好きの目利きの集まり「よだれの会」にて、光三郎は勘定奉行の嫡男・田村庄五郎と出会った。その場に庄五郎は「黄金の太刀」を持参し、鼻息も荒かったのだが、そこに白石瑞祥の名を聞いた瞬間、光三郎は胡散臭さを感じるが、案の定、田村家を仲介に然る大名家へと一万両で渡った「黄金の太刀」は、刀剣詐欺であった。
 庄五郎の頼みを受け、消えた瑞祥と一万両を追って、光三郎、鍛冶屋の平次郎は、相州、美濃、山城、大和、備前ーと、日本刀「五か伝」の地を行く。
 瑞祥を後一歩のところまで追い詰めたが、取り逃がした3人は、戻った江戸にて、瑞祥の真の目的を知るのだった。
 思うに刀剣といった、一種独特の世界の話なので、刀の鍛え方、名刀の話などが随所に織り込まれ、マニアックな方には、たまらない内容だと思うが、単なる時代小説好きには、少しばかり荷が重い内容だった。加えて、「正宗は存在しなかった」を読んでいないのも一因だろう。
 物語には落ちもあり、作品的にどうのと言うのではなく、単に個人的な刀への関心度の総意ということで、これが秘湯を巡る旅なら、話は別だったかも知れない。

主要登場人物
 ちょうじ屋光三郎...芝日蔭町刀剣商の娘婿、元旗本・御腰物奉行の嫡男
 鍛冶平...鍛冶屋の平次郎
 田村庄五郎...旗本・勘定奉行の嫡男
 田村忠明...旗本・勘定奉行、庄五郎の父親
 白石瑞祥...剣相見
 ちょうじ屋吉兵衛...刀剣商の主、光三郎の義父 




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赤絵そうめん~とびきり屋見立帖~

2012年07月05日 | 山本兼一
 2011年11月発行

 尊王攘夷に国中が揺れる幕末の京都で、とびきり屋という道具屋を構えた真之介とゆず。とびきり屋を立派な店にする為、智恵を絞り奔走しながら、維新の志士たちと関わり合っていく。
 京の都の商人を主人公にした、はんなり系痛快時代小説の第3弾。

赤絵そうめん
しょんべん吉左衛門
からこ夢幻
笑う髑髏
うつろ花
虹の橋 計6編の短編集

赤絵そうめん
 三国屋の孫娘おさきが、病いに臥せり何物も喉を通らないが、赤い絵の器に盛ったそうめんなら食べられると坂本龍馬が、とびきり屋にあった唐子柄の赤絵の鉢を持ち込むが…。
 龍馬奔走。

しょんべん吉左衛門
 赤絵の鉢50枚を纏めて売りたいと言う赤銅屋吉左衛門からの買い付けを約束し、真之介は身代を売り払い千両の大金を捻出するが、いざ金子を携えると吉左衛門は、道具屋に儲けさせたくないと約定を保護にするのだった。

からこ夢幻
 ゆずは唐子が泣く夢を見た。それは、赤絵の鉢50枚を仕入れる為に、一切合切を売り払った中あった赤絵の鉢のひとつの絵付けだった。品薄になったとびきり屋は、店の飾り付けに工夫を凝らす。

笑う髑髏
 薬種問屋天狗堂の先代が集めた道具を買い付けた真之介。価値ある物もあるが、どうにも薄気味悪い人魚の木乃伊や髑髏も引き取る羽目に陥った。

うつろ花
 赤銅屋吉左衛門からの信頼を得、蔵の中の道具の値踏みを頼まれた真之介。その中に空の箱があり、中にある筈の外花の茶器は、若宗匠に貸したまま返されていないと言う。それを返して貰って欲しいと懇願される。
 
虹の橋
 桂小五郎に請われ、三条実美を持て成す茶を立てた真之介とゆず。そんな折り、芹沢ら壬生浪士による一条葭屋町の大和屋焼き討ちの話を耳にする。ゆずは京が剣呑な事に巻き込まれないように祈るのだった。

 シリーズ第3話にして、とびきり屋の丁稚と女衆の名前が明らかになる(きよは、前作から)。この事から著者のまだまだ書き進む意志を感じた。
 それは時代の流れが緩やかに現され、未だ壬生での相撲興行の段階である事からも感じ取れる。
 「ええもんひとつ」の項で、歴史上の史実と真之介、ゆずがどう絡んでいくのかと書いたが、存外に池田屋事変まで辿り着かないのかも知れない。佐幕派も勤王派も互いに務めを全うする中、とびきり屋は良い道具、目利きに突き進み商いを太くする。そういった筋がふと浮かんだ。
 飽くまでも予想だが、案外幕末の争乱をひとっ飛びにし、最終話は明治に真之介とゆずの語らいの中で、枡屋喜右衛門(古高俊太郎)や坂本龍馬などが語られるのではないだろうか。
 そして山本氏が京都の出身だということで、やはり京の人は新撰組を良くは思っていなのだろうか? 芹沢鴨に関しては、傲慢ではあるが、それ程話の解らない人物に描かれていないのが意外だが、近藤勇に関してあまり愛情を感じられない。
 強いて言えば、桂小五郎や坂本龍馬に天秤の重みは下がる。
 また、シリーズ最初の「千両花嫁」には土方歳三、沖田総司、高杉晋作、勝安房守海舟、武市瑞山(半平太)、岡田以蔵ら然う然うたる面子が揃っていたが、次第に芹沢と坂本に落ち着いたのは寂しい。ほかにも志士たちの顔を拝みたいものだ。
 大きく話が逸れてしまったが、飽くまでも道具屋であり商人の話。骨董好きな御仁には堪らないくらいに、名品の名が飛び交っている。
 何はともあれ、次回作を望んで止まない。

主要登場人物
 とびきり屋真之介...三条木屋町道具屋の主
 ゆず...真之介の妻、茶道具商からふね屋の娘
 伊兵衛...とびきり屋の番頭
 牛若...とびきり屋の手代
 鶴亀...とびきり屋の手代
 俊寛...とびきり屋の手代
 鍾旭...とびきり屋の手代
 松吉...とびきり屋の丁稚
 梅吉...とびきり屋の丁稚
 きよ...とびきり屋の女衆
 みつ...とびきり屋の女衆
 からふね屋善右衛門...知恩院新門前通り茶道具商の主、ゆずの父親
 枡屋喜右衛門(古高俊太郎)...四条木屋町道具屋の主
 (大津代官所の手代・古高周蔵の子息、尊皇攘夷を唱える梅田雲浜の門下、有栖川宮との間を繋ぎ、長州間  者の情報活動と武器調達に当たる)
 芹沢鴨...壬生浪士、水戸藩徳川家脱藩(後の新撰組局長)
 坂本龍馬...土佐藩山内家脱藩(後に亀山社中→海援隊結成)
 桂小五郎...長州藩毛利家家臣(後の木戸孝允、総裁局顧問専任など明治政府から重用された)
 近藤勇...壬生浪士、天然理心流宗家四代目(後の新撰組局長)
 若宗匠家元...鴨川の側茶道家
 若宗匠宗春...家春の嫡男、ゆずの元許嫁
 三国屋厳太郎...三条油小路廻船問屋京店隠居 
 銅屋吉左衛門..両替商の主
 大雲堂孝右衛門..道具屋の主

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ええもんひとつ~とびきり屋見立帖~

2012年07月04日 | 山本兼一
 2010年6月発行

 尊王攘夷に国中が揺れる幕末の京都で、とびきり屋という道具屋を構えた真之介とゆず。とびきり屋を立派な店にする為、智恵を絞り奔走しながら、維新の志士たちと関わり合っていく。
 京の都の商人を主人公にした、はんなり系痛快時代小説の第2弾。

夜市の女
ええもんひとつ
さきのお礼
お金のにおい
花結び
鶴と亀のゆくえ とびきり屋なれそめの噺 計6編の短編集

夜市の女
 枡屋喜右衛門に頼まれ、黒楽茶碗と志士の漢詩の書かれた白扇を夜市の競りに掛けた真之介とゆず。ほんの2朱、3朱ほどの価値しか見出せないその品に、なんと150両の高値が付き、競り落としたのは不思議な女だった。
 桂小五郎の後の妻幾松、長州間者の元締めの枡屋喜右衛門(古高俊太郎)が尊王攘夷の志しを示す。

ええもんひとつ
 香道を教えていた青侍の藤原元盛から、香の道具を買い取って欲しいと依頼を受けたが、出された品は二束三文。だがひとつだけ高価な品を見出した真之介は、売って欲しいと頼むが、その条件に「夏に相応しいええ香り」を聞かせて(嗅がせる)事を挙げられる。
 坂本龍馬、時節を熱く語る。

さきのお礼
 枡屋喜右衛門から、桂小五郎の変装の為に、とびきりやを使わせて欲しいと依頼される。
 一方、客足が衰えたとびきりやに、新しい道具を仕入れようと、五条坂で焼き物の投げ売りを見に行った真之介とゆず。そこで窯場で手伝いをしているおきみが焼いた、白磁の蛍焼きの茶碗に巡り会った。

お金のにおい
 李朝白磁の徳利を、新撰組局長の芹沢鴨に強引に奪われてしまう。だが、壬生の郷士の家には李朝の唾がごろごろしていると聞き、真之介は芹沢と共に訪うが、ここでも芹沢に威圧され、高値で引き取ってしまうのだった。

花結び
 桂小五郎から預かった密書を、店先の壷に隠したゆず。だが、元許嫁だった若宗匠宗春がその壷に目を付けた事からゆずは窮地に陥る。その揉め事の最中に、芹沢が乗り込んで来たから話はこじれ…。
 追っ手に追われた桂小五郎が、とびきり屋から裏手の寺に逃げ込む。

鶴と亀のゆくえ とびきり屋なれそめの噺
 真之介とゆずが、合惚れとなり夫婦になるまでの経緯。ゆずと蔵で逢い引きするようになった真之介は、ふね屋に降り掛かった難題を解決した後、ゆずと所帯を持ちたい旨を切り出そうと奔走する。

 「千両花嫁」では、幕末の志士たちとの出会いが随所に描かれていたが、今回は、志士たちは飽くまでも脇役。京で出会った程度の登場である。ただし、枡屋喜右衛門こと古高俊太郎との繋がりは深く、真之介は枡屋に従う約束をしてしまう。
 それでなくても新撰組の芹沢には痛い目に合わされているのだ。次からの展開で、とびきり屋に剣呑な事が起こらなければ良いがと、いった思いが過る。
 また、桂小五郎は通りすがりだが、幾松とは今後どのように絡んでいくのか、また、とびきり屋を常宿とする坂本龍馬が、寺田屋、近江屋事件の時、真之介、ゆずはどう絡んで行くのかなど、期待が膨らむ。
 一方、物語は、やはり商人物らしく、仕入れや奉公人たちの思いなど、本筋を貫き、勤王の志士たちとの交わりにぶれるところがないのも読み易い。
 読む毎に興味をそそられ、引き付けられる作品である。

主要登場人物
 とびきり屋真之介...三条木屋町道具屋の主
 ゆず...真之介の妻、茶道具商からふね屋の娘
 伊兵衛...とびきり屋の番頭
 牛若...とびきり屋の手代
 鶴亀...とびきり屋の手代
 俊寛...とびきり屋の手代
 鍾旭...とびきり屋の手代
 きよ...とびきり屋の女衆
 からふね屋善右衛門...知恩院新門前通り茶道具商の主、ゆずの父親
 枡屋喜右衛門(古高俊太郎)...四条木屋町道具屋の主
 (大津代官所の手代・古高周蔵の子息、尊皇攘夷を唱える梅田雲浜の門下、有栖川宮との間を繋ぎ、長州間  者の情報活動と武器調達に当たる)
 幾松...三本木の芸妓(後の桂小五郎=木戸孝允の正妻木戸松子)
 桂小五郎...長州藩毛利家家臣(後の木戸孝允、総裁局顧問専任など明治政府から重用された)
 藤原元盛...寺町の青侍(公家侍)、香道家元浮橋の代稽古
 芹沢鴨...壬生浪士、水戸藩徳川家脱藩(後の新撰組局長)
 坂本龍馬...土佐藩山内家脱藩(後に亀山社中→海援隊結成)
 若宗匠家元...鴨川の側茶道家
 若宗匠宗春...家春の嫡男、ゆずの元許嫁 
 秦野清左衛門 壬生村の郷士
 甚八...釜座の初出し屋



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千両花嫁~とびきり屋見立帖~

2012年06月23日 | 山本兼一
 2008年5月発行

 尊王攘夷に国中が揺れる幕末の京都で、とびきり屋という道具屋を構えた真之介とゆず。とびきり屋を立派な店にする為、智恵を絞り奔走しながら、維新の志士たちと関わり合っていく。
 京の都の商人を主人公にした、はんなり系痛快時代小説の第1弾。

千両花嫁
金蒔絵の蝶
皿ねぶり
平蜘蛛の釜
今宵の虎徹
猿ヶ辻の鬼
目利き一万両 計7編の短編集

千両花嫁
 奉公先だった、茶道具屋の愛娘のゆずと駆け落ちした真之介。ゆずの持参金にと千両を収めてたのだが、それが何者かに強請り取られてしまう。
 後の新撰組幹部で壬生浪士の近藤勇、土方歳三、沖田総司、芹沢鴨が登場。

金蒔絵の蝶
 芸妓から晴れて大店の若女将に迎えられた  だったが、そこには姑の執拗ないじめがあり、嫁入り道具一切を手放すか、婚家を去るかを迫られるのだった。
 高杉晋作が切ない恋の相手として顔を見せている。

皿ねぶり
 手代の鶴亀が、仕入れの金三十両で、勝手に古びた甲冑を買って来た。だが、その箱から天正大判十枚が見付かるり、真之介は、その甲冑を売った土佐藩士に返しに向かう。
 坂本龍馬が、とびきり屋の居候として住み着くと、刺客に狙われた勝海舟までもが…。

平蜘蛛の釜
 ゆずが、高杉晋作から、坂本龍馬へ渡して欲しいと言付かったの預かり物を、真之介が誤って売ってしまう。しかも買ったのは土方歳三だった。

今宵の虎徹
 虎徹13振りを手に入れた真之介。だが、本物は1振りだけで、後は贋作である。とびきり屋で奉公人が目利きをする中、近藤勇も目利きし1振りを所望した。

猿ヶ辻の鬼
 公家の姉小路公知を尊王攘夷に傾けるため、贈り物を選んで欲しいと、武市瑞山に持ち掛けられた真之介。一方のゆずは、姉小路公知を開国へなびかせるための贈り物を、坂本龍馬から所望される。薩摩の田中新兵衛らしき人物も姿を見せている。

目利き一万両
 己の出自を知る手掛かりである、辻が花染めの布を手に入れた真之介。その布の出所を調べていると、ゆずの兄である長太郎が、勤王派に加担したとして新撰組の屯所に引き立てられた事を知る。

 男性作家は、情景描写や言葉での説明では女流作家に及ばないと思っていたが、どうしてどうして。お見事である。
 僭越ながら、読ませる力と、確実な歴史力、そして発想力。グラフにしたら、ほぼ正確な丸になるだろう。
 また、実在の人物を名前を明かす前に、その風貌を文章で説明しているが、それも「うんうん」と思わず頷くほどに的を得ている。
 さらに彼らと、真之介とゆず夫妻との絡みも自然で、生臭い維新を感じさせずに、市井物として読めるのが嬉しい。
 実際に彼らは、京での日常をこんな風に送っていたのかも知れないと思えた。
 近藤勇の虎徹、芹沢鴨の押し込み、坂本龍馬の拳銃などなど、実存した人物のエピソードも巧みに織り込まれている。
 また、今回は池田屋総兵衛はワンシーンのみの顔見せだが、多分この流れでいけば次作では池田屋騒動が全面に描かれるのでは…と思わせているなと感じたら、やはりそのようである。第2弾「ええもんひとつ」では、池田屋騒動に真之介が巻き込まれていくらしい。
 そんな実存した人物像を見ていくと、真之介はどうにも近藤や、土方に良い印象を描いていない風が伺えるが、これは後作を意識しての事だろうか…。次第に打ち解けるとか。または、作者が京都の方なので、やはり京都の方は新撰組がお嫌いなのか…。それにしては、芹沢は傲慢ながらも、話が分からない男には描かれていない。
 山本兼一の作品に巡り会った初めてが、好きな市井物と幕末維新の合わせ技だったのも嬉しい。今後も山本兼一さんの作品を読んでいくつもりである。求めていた作品に出会えた喜びと同時に、シリーズを追って読み続けなくてなはならない。また発売までに気が揉めるといった嬉しい困惑が同時に浮き上がった。

主要登場人物
 とびきり屋真之介...三条木屋町道具屋の主
 ゆず...真之介の妻、茶道具商からふね屋の娘
 伊兵衛...とびきり屋の番頭
 牛若...とびきり屋の手代
 鶴亀...とびきり屋の手代
 俊寛...とびきり屋の手代
 鍾旭...とびきり屋の手代
 からふね屋善右衛門...知恩院新門前通り茶道具商の主、ゆずの父親
 琴...ゆずの母親
 長太郎...ゆずの兄
 市菊...祇園新橋置屋井筒屋の娘、芸妓
 小梨花(かね)...室町呉服問屋千倉の嫁、元井筒屋の芸妓
 近藤勇...壬生浪士、天然理心流宗家四代目(後の新撰組局長)
 土方歳三...壬生浪士、武蔵国多摩郡石田村の豪農の子息(後の新撰組副長)
 沖田総司...壬生浪士、陸奥白河藩阿部家家臣の子息(後の新撰組一番組長)
 芹沢鴨...壬生浪士、水戸藩徳川家脱藩(後の新撰組局長)
 高杉晋作...長州藩毛利家家臣(後に奇兵隊創設)
 坂本龍馬...土佐藩山内家脱藩(後に亀山社中→海援隊結成)
 勝安房守海舟...幕府旗本、軍艦奉行並(後に海軍伝習掛、海軍奉行並、陸軍総裁、軍事取扱を歴任)
 岡田以蔵...土佐藩山内家脱藩
 武市瑞山(半平太)...土佐藩山内家家臣
 池田屋総兵衛...三条木屋町旅籠の主
 藤村吉兵衛...寺町の表具師、幸吉の父親
 若宗匠家元...鴨川の側茶道家
 若宗匠宗春...家春の嫡男、ゆずの元許嫁 




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