うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

世話焼き長屋~人情時代小説傑作選~

2012年06月26日 | ほか作家、アンソロジーなど
池波正太郎、宇江佐真理、乙川優三郎、北原亞以子、村上元三


 2008年2月発行

 夫婦、家族のきびを描いた傑作精選集。
 
お千代 池波正太郎
浮かれ節 宇江佐真理
小田原鰹 乙川優三
証 北原亞以子
骨折り和助 村上元三 計5編の短編集

お千代 池波正太郎
 女房より猫のお千代を可愛がる松五郎。そんな寂しさを埋める為に、女房のおかねは間男した挙げ句、松五郎を殺めようと…。
 異常な程の猫への執着を持つ主人公、そして女房は不倫に、殺人未遂。グロテスクに進行するが、主人公の鷹揚な人柄がそれを感じさせず、ほろりとした情に包まれた、爽やかな結末。

主要登場人物
 松五郎...大工
 おかね...松五郎の女房
 お千代...松五郎の愛猫

浮かれ節 宇江佐真理
 無役の小普請組の三土路保胤は、唯一の特技が端唄であった。そんなある日、娘に武家屋敷への奉公の話が舞い込むが、その支度金もままならず、賞金目当てに唄合戦に参加する。
 「ずっと年を取った時、一生で一番忙しく過ごした一日を懐かしく思い出せればそれでいい。どうやら三土路は死ぬまで小普請組で終わりそうだった」。
 こういう考え方、素晴らしいと思う。

主要登場人物
 三土路保胤...小普請組御家人
 るり...保胤の妻、元料理茶屋増田屋の娘
 隠居...蝋燭問屋
 増田屋清六...るりの父親
 ちひろ...保胤の長女

小田原鰹 乙川優三
 始末屋で、暴力三昧の亭主の元から、息子の政吉もそして女房のおつねも逃げ出すのだった。
 とにかくけちで始末が悪い鹿蔵.。だが、政吉が幸せを掴み、そしておつねが自立する。何もかも失って漸く世間に染まろうとする鹿蔵の姿が、少し哀れではあるが、離れているからこそ思いやれる家族というものを感じられる。

主要登場人物
 鹿蔵...鰻の串削りの内職
 おつね...女房
 政吉...息子、池之端仲町料理屋江差屋の板前

証 北原亞以子
 ふと知合った、労咳を病んでいた娘を長屋で看病する市兵衛。その娘を見ていると、一度は絶った絵師の夢が膨らむのだった。
 不治の病とされた労咳に対する世間の風当たりがつぶさである。おりよを哀れに思いながら、お菜を差し入れする長屋の女房が、丼は返さなくていいと言う辺りが、それを如実に現している。
 おりよの生きた証しとして、絵姿を残そうとする市兵衛の優しさが、憂いを帯びた物語に一筋の光を放つ。

主要登場人物
 市兵衛(歌川芳広)...甘酒売り
 おりよ...針子

骨折り和助 村上元三
 親が残した大借金を、寝食を忘れ爪に火を灯しながら、5つの職を掛け持ちして返す和助だった。
 真面目で真っ直ぐ、何より前向きなな和助に、これ以上不運をもたらさないで欲しいと読み進めた。「お天道様は見ている」という表現が当てはまるだろう。江戸下町で逞しく生きる男を神は見放さなかった。

主要登場人物
 和助...紙屑買い
 山上長十郎...旗本、奥右筆
 おりん...和助の女房
 伊兵衛...貸元、吉原の始末屋





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