うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

夜鳴きめし屋 

2012年05月05日 | 宇江佐真理
 2012年3月発行

 幕張りの音松こと、古道具屋鳳来堂の息子・長五郎が五間堀に帰って来た。そして、見世を継いだのだが、屋号は鳳来堂でも、居酒見世。そして営業時間が明け方まで続く事から、いつしか「夜鳴きめし屋」と呼ばれるようになった。「ひょうたん」の続編。

夜鳴きめし屋 
 音松が亡くなると、実家に戻り古道具屋を継いだ長五郎だったが、商売がなり行かなくなり、居酒見世へと商売替えをした。当初一緒に見世を切り盛りしていた、料理上手の母親のお鈴も亡くなり、長五郎は二十八歳になり、ひとり身のまま、見世を続けている。
 馴染み客のひとりである駒奴から、みさ吉の旦那が死んで、ひとり息子と共に和泉屋に戻った事を聞かされた長五郎。若かりし頃のほろ苦い思い出が蘇る。
 登場場面は短いが、夜鷹のおしのの凛とした姿が印象に残る。

五間堀の雨
 駒奴に貸した提灯を届けに、長松という7、8歳の子がやって来た。母親は和泉屋の芸者の為、晩飯は外で食べるのだと言う。早速その晩、長松は惣助という同じく和泉屋の芸者の子と連れ立ってやって来た。
 長五郎は、長松がみさ吉の子ではないかと思うのだが…。
 いきなり隠し子(?)疑惑である。長松の大人びた物言いやが実に可愛らしい。

深川贔屓
 長松と惣助は三日と開けずに鳳来堂へ通って来ていた。子たちの評判を聞いて、増川も駒奴と訪う。どうやら二人は長五郎とみさ吉の経緯を承知しているらしい。
 ついに長五郎は、みさ吉に、惣助が自分の子であるか聞くのだが、死んだ旦那の子だとあっさりといなされる。
 「ひょうたん」世代の生き残り(失礼)、房吉が威勢の良い啖呵を切る。すると場面がふと、昔の鳳来堂の座敷へと変わったような錯覚に陥ったものだ。

鰯三昧
 惣助がひとりで鳳来堂を訪った。聞けば、長吉は、既に幇間に弟子入りし、自身も浅草の質屋菱屋に奉公が決まったと告げる。
 菱屋は長五郎の伯父の店で、長五郎自身も奉公していた経緯がある。早速、菱屋へと足を向けると、従兄弟のお菊から、惣吉が長五郎の父親の音吉に似ていると言われ…。
 ここで長五郎は、みさ吉以外女を知らないと明かしているが、すると長五郎は二十八歳にして一度しか女と寝間を共にしていないということになるが…。いいのか、長五郎、それで。
 
秋の花
 このところ無沙汰の浦田角右衛門が、吉原の妓を身請けする話が聞こえて来た。一介の武士が身請けなど聞いた事もない話ではあるが、当の角右衛門は思い詰めている様子らしい。だが、おしのの無惨な水死体を前に、長五郎は、男女の行く末で諍いになる。
 六間掘で火事が出、居場所を失ったみさ吉を長五郎は、鳳来堂へと促す。駆け付けた惣助も交え、みさ吉と長五郎は初めて温かな言葉を交わすのだった。
 この鳳来堂のシーンは印象深い。長五郎が火事騒ぎで出掛けている間に勝手に入り込んで灯りをつけ、飲んでいる梅次。その肴を拵える惣助。これぞ下町の呑み屋である。

鐘が鳴る
 惣助が、菱屋の使いで鳳来堂を訪ったまま、行方が知れなくなった。長五郎は、その折に父親かと問われ、違うと応えたが、後になって、みさ吉が真実を告げていた事を知る。
 国元へ戻る角右衛門と長五郎そしてみさ吉の年越しのシーンで幕を閉じる。その情景の美しさが、やはりさすがだと感心せずにはいられない。
 一連の騒動の決着シーンなので、詳しく記すのは憚るが、「惣助はともかく、長松までおいおい泣く理由がわからない」。こういった表現がさすがだなと毎度感心させられる。

 ひとりひとりのキャラが立っており、読み応え十分の作品である。「ひょうたん」で仲の良かった、音松、房吉、勘助の息子たちがまた仲良く鳳来堂に集う姿。芝居の定式幕で拵えた父の形見の半纏を長五郎が纏う姿。
 続編とはこうあって欲しいといった思いが募る。
 特に大きな事件はないが、こうした下町の人情物を書いたら宇江佐さんの右に出る作家はいないのではないだろうか。
 そしてこのシリーズには章毎に、美味しいレシピが描かれているのも魅力である。
 生意気ではあるが、増々油が乗ってきたと感じる。是が非でも続編をお願いしたい。また独断ではあるが、前作を超えたと思って止まない。

主要登場人物
 長五郎...五間堀(北森下町)居酒見世鳳来堂の主
 房吉...常盤町酒屋山城屋の隠居
 信吉...山城屋の主、長五郎の朋友
 友吉...六間堀料理茶屋かまくらの主、長五郎の朋友
 梅次...左官職
 宇助...鳶職、七番組町火消し
 浦田角右衛門...対馬府中藩家臣
 駒奴...六間掘芸妓屋和泉屋の芸者
 みさ吉(おひで)...六間掘芸妓屋和泉屋の芸者
 おしの...夜鷹、元辰巳芸者の桔梗
 幸吉...五間堀味噌屋信州屋の若旦那
 長松...増川の養子
 惣助...みさ吉の息子
 丈助...深川島崎町の鳶職、壱番組町火消し
 増川...六間掘芸妓屋和泉屋の芸者
 お菊...東仲町質屋菱屋の内儀、長五郎の従兄弟


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
質問 (Rodon Journal)
2014-02-01 01:00:23
はじめまして。突然の質問失礼致します。
宇江佐真理氏の作品で、本書のように食べ物を小道具に生かしたシリーズをご存知でしたらお教え下さい。
以上、よろしくお願いします。
返信する
宇江佐真理さんの作品 (管理人)
2014-02-07 19:48:32
 遅くなり申し訳ありません。宇江佐さんの作品は全て読んでおります。食べ物が登場するのは、「卵のふわふわ 八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし」(宇江佐さんに出会った作品です)、「ひょうたん」(夜鳴きめし屋)の前作です。
 どちらも、宇江佐さんならではの、情緒的に江戸を再現し、要所要所に、食べ物を織り込んでいます。
 「卵のふわふわ 」は、家族、心の疎通を扱った素晴らしい作品です。「ひょうたん」、「夜鳴きめし屋」も親子の情愛の中に小道具として食べ物が良い味を出しています。
 これらの3作品は、物悲しい終わり方ではなく、熱い涙をこぼしながらも爽快な面持ちで読めます。
 宇江佐さんを読まれるなら、食べ物には関係ありませんが、同じ感覚で爽快な「無事、これ名馬」もお勧めします。
返信する
お礼 (Rodon Journal)
2014-02-08 11:12:53
管理人様。お薦めありがとうございます。
「ひょうたん」は「夜鳴きめし屋」の後、早速戻って読了しました。
ご推薦下さった「卵のふわふわ 八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし」と「無事、これ名馬」も、積読リストに加えようと思います。
管理人様Blogの、更なる発展を楽しみにしております。
ありがとうございました。
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