うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

京伝怪異帖

2012年10月12日 | 高橋克彦
 2000年6月発行

 牢死した筈の平賀源内だったが、実は田沼意次の同意の下、死んだ事にし解き放たれたといった話になり、その後、その秘密を共有する伝蔵こと、稀代の人気戯作者・山東京伝らと共に、怪な事件に挑む痛快時代ミステリー。

天狗髑髏
地獄宿
生霊変化
悪魂
神隠し 計5編の中編集

天狗髑髏
 平賀源内が牢死したと知った伝蔵は、友人の安兵衛とその骸を見に老屋敷へと向かうが、そこで引き取り手に不信を抱き、源内の通夜へと乗り込むのだった。

地獄宿
 伝蔵は、源内、蘭陽と共に、風の噂に聞く、地獄宿の秘密を探るため、白河へと脚を向ける。が、そこは、田沼意次に敵意を抱く、松平定信の領地。地獄宿の真意と引き換えに…。

生霊変化
 重い病いで床に着いた妹のよねを案じる伝蔵。その思いからか、吉原に居る筈の伝蔵が、よねの枕元に現れたと。さては生霊かと思案する源内。
 その源内は、老中となった松平定信と失脚した田沼意次の政略に巻き込まれ…。

悪魂
 年期が開け、晴れて伝蔵の女房となったお菊が、気鬱の病いに掛かる。だが、次第に気鬱ではなく、何者かに操られているかのように、奇怪な行動に出るのだった。

神隠し
 手鎖五十日の刑から自由の身となった伝蔵は、安兵衛、蘭陽と共に出羽を目指すが、秋田佐竹藩領内で、神隠しの噂を耳にすると、真意を確かめたくなりまたも首を突っ込むのだった。

 お見事。史実も忠実に取り入れながら、平賀源内、山東京伝の持ち味を生かしたストーリー作り。そして、奇怪な出来事には裏があると、源内が理論を述べる組み立て。読み応え十分である。
 章毎に年代を経て、その時の風説も盛り込んでおり、田沼意次から松平定信、佐竹義淳に庇護されながらも、やがては命の狙われ、亡命を続ける平賀源内との関わりも自然で、何はともあれ、素晴らしい作品に出会えた事を喜びと思う。
 元来絵師や戯作者物は苦手なのだが、この作品のそれは、登場人物のひとつの特色であり、物語はあくまでミステリーであるところが、読み易かった。
 ただ、ミステリーだけではなくホラー色もあり、少し怖い部分もあるが、登場人物の明るいキャラが対照的であり、肌寒さを覚えさせない。

主要登場人物
 京屋伝蔵(北尾政寅、山東京伝)...浮世絵師、戯作者、木場の質屋の長男
 平賀源内(風来山人)...本草学者、地質学者、蘭学者、医者、殖産事業家、戯作者、浄瑠璃作者、俳人、蘭画家、発明家
 窪田安兵衛(南陀伽紫蘭、窪俊満)...浮世絵師、戯作者、狂歌師
 蘭陽(剛太)...両国陰間茶屋の陰間
 菊園(お菊)...吉原扇屋の新造、後に伝蔵の女房
 蔦屋重三郎...日本橋油町通り版元の主
 勝俵蔵...歌舞伎役者、後の狂言作者・四代目鶴屋南北 
 田沼意次...幕府老中、遠江相良藩藩主



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