うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

辰巳八景

2013年07月06日 | 山本一力
 2005年4月発行 

 深川に生きる人々の、平凡な日常に起きる素朴な泣き笑いを描いた、人情時代小説短編集。

永代橋帰帆
永代寺晩鐘
仲町の夜雨
木場の落雁
佃町の晴嵐
洲崎の秋月
やぐら下の夕照
石場の暮雪 計8編の短編集

永代の帰帆
 赤穂浪士の吉良邸討ち入りに沸く江戸で、公儀に楯突いたにも関わらず、彼らが義士扱いされるのに腹を立てる大洲屋茂助。
 だが、伊予松山藩松平家下屋敷へ、稼業の蝋燭を納めに行った際、偶然にも見掛けた白装束の大石主税。16歳の少年が見せた武士の姿に茂助は、深く感じ入る。

 ほかの作品と比べ、真意が分かり難いものの、大石主税という歴史上のスターを登用し、死に逝く者の未練、切なさそして武士道を現している。

主要登場人物
 大洲屋茂助(健太郎)...佐賀町河岸ろうそく問屋の4代目 
 吉田宗右衛門...伊予松山藩松平家家臣

永代寺晩鐘
 幕府の米買い上げにより米価が沸騰。煎餅屋を営む武蔵屋では、材料の米が手に入らず頭を抱える日々。そんな悩みをおじゅんに打ち明けられた、旧知の僧侶・西悦は、永代寺に出入りの札差・増田屋を紹介する。
 そして増田屋の跡取りに見初められたおじゅんは、その時になり、西悦への適わぬ思いを改めて知り、おじゅんは増田屋へと嫁ぐ。

 思わず青春時代を思い出す秀作そろいであるが、中でも、この物語のラストシーンの美しい光景には感動を隠せない。
 決して適う筈のない恋を、刻の鐘に万感の思いを込める打つ西悦。本文中、一度も感情の起伏を現さない西悦が、無言で刻の鐘を鳴らすシーンは痺れます。
 短編ではあるが、山本氏の作品中、一番感動した作品となった。

主要登場人物
 おじゅん...永代寺仲見世通り煎餅屋・武蔵屋の娘
 西悦...富岡八幡宮別当寺・永代寺の僧侶
 
仲町の夜雨
 好き合って夫婦になった政太郎とおこんだったが、幾ら立っても子を授からず、政太郎は子ども欲しさに妾を囲う。
 既に子を産めない身体となったおこんは、おみよに子を設けるように頼みに出向くが、おみよは頑にそれを拒むのだった。そして、それは子を産んでも本宅に取り上げられる寂しさからだとおこんは悟る。

 本妻、妾、それぞれの心の葛藤を、男性である作者が見事に表現している。

主要登場人物
 おこん...政太郎の女房
 政太郎...深川冬木町・町鳶の頭
 おみよ...政太郎の妾

木場の落雁
 行儀見習奉公先の吉野の気品と美しい所作・言葉遣いに感銘を受るさくらは、恋仲の弦太郎の粗野さが気になって仕方がない。一方の弦太郎も、さくらが滑稽に見える。
 そして、大横川の畔で、子どもたちの会話を耳にし、自身が身の丈にそぐわぬ背伸びをしていたと気付くのだった。

 違う世界に足を踏み入れたり、垣間見た時、人はこんな勘違いを仕勝ちである。そんな一話。

主要登場人物
 さくら...深川汐見橋・大工の頭領・孝次郎の娘
 弦太郎...孝次郎の弟子
 吉野...木場・材木商妻籠屋の大女将

佃島の晴嵐
 深川で暮らす新田正純は、住民の安全のためにも、近隣に橋の必要性を深く感じていた。そして、ある夏、川で妻・ききょうを亡くした正純は、その見舞金を投じて橋を架け、新田橋と名付けられた。
 それから3年後、火事で父・正純をも命を亡くしたかえでは、町の景観に父母の面影をなぞし、それが変わる事に難色を示しながらも、安全性を最優先に、新田橋の架け直しに踏み切るのだった。

 作者の意図とは違うだろうが、清廉潔白、世のため人のために生きている人の身にも不幸ってあるのだなあと、少し物悲しくなってしまった。

主要登場人物
 かえで...正純・ききょうの娘、町医者
 新田正純...永代寺門前仲町の町医者
 ききょう...正純の妻

洲崎の秋月
 厳助は、江戸の三味線屋の総元締同様の老舗・杵屋の、「難しい客」を持て成す座敷を、無遠慮な若い芸妓・仙吉の目付役も兼ねて務める事になった。
 その難しい客とは、侠客・ましらの亥吉と、その代貸・亥三郎である。
 無方図な仙吉は、案の定、失態を犯し亥吉の怒りを買うも、厳助の機転で、座敷を無事に務める事が出来た。
 この一部始終を目の当たりした、杵屋の跡取り・清次郎から、落籍話が持ち込まれるが、厳助は大いに困惑する。そして、「芸者が好きだから」。芸妓として己を全うしたいと結論を出すのだった。

 辰巳芸者の心意気を存分に堪能出来ると同時に、若気の至りーー何時の時代も人の口に上る、「今の若い者は」といった話である。

主要登場人物
 厳助...深川・常磐検番の芸妓
 仙吉...深川・常磐検番の芸妓
 杵屋清次郎 三味線屋の跡取り
 篤之助...杵屋の番頭 

やぐら下の夕照
 飛脚宿の主・遠藤屋良三は、27年前を思い起こしていた。それは、数度文のやり取りをし、1度だけ深川で会った事のある弘衛の事だった。恋と呼ぶには淡い思いと、良三の父・亮吉が亡くなり、遠藤屋を継ぐに当たり、疎遠になったほろ苦さの入り混じった若かりし日である。
 良三は、27年振りに弘衛に文を出し、あの時と同じ、仲町の櫓の前で弘衛を待つ。

 誰にでも覚えがある、青春時代のノスタルジックな思い出が、同じ場所、同じ人と見る景色の中で風化せずに蘇る。それは、それぞれが歩んだ27年の人生が満ち足りていたからこそ得られた充実感。そんな爽やかな話である。

主要登場人物
 遠藤屋良三...北品川・飛脚宿の三代目主
 弘衛...深川海辺大工町・大工の内儀

石場の暮雪
 絵草子作者を目指す一清は、大横川黒船橋たもと新兵衛店で日がな、宮本武蔵を題材とした新作に没頭していた。そんなある雨の日、出先で雪駄の鼻緒が切れ、飛び込んだ履物屋で、輝栄と出会い、これまでにない胸の高鳴りを感じる。
 名の知らぬ輝栄を「てる」と名付け、武蔵の物語に登場させた事で、これまで未熟だった作品が、版元・江木屋の目に止まるのだった。
 同時に、毎日、「あなたを想いながら、武蔵の話を書いています」。同じ文を律儀に届ける一清の実直さに、輝栄の気持ちも傾いていく。

 色恋沙汰とは無縁の実直な若者が初めて恋をし、それにより、人として深みを出していくといった、これまた「やぐら下の夕照」のような爽やかでありかつ若さって良いと微笑ましくなる内容である。
 
主要登場人物
 一清...絵草子作者の卵
 輝栄...深川古石場履物職人・信吉の娘
 芳太郎...日本橋版元・江木屋の手代



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まねき通り十二景

2012年10月25日 | 山本一力
 2009年12月発行

 天保年間の江戸深川冬木町は、まねき通りの人々の日常を、十二の月行事に乗せて綴った人情物語。

第一話 初天神
第二話 鬼退治
第三話 桃明かり
第四話 菜種梅雨
第五話 菖蒲湯
第六話 鬼灯
第七話 天の川
第八話 祭半纏
第九話 十三夜
第十話 もみじ時雨
第十一話 牡丹餅
第十二話 餅搗き
番外編 凧揚げ 計13編の連作

第一話 初天神
 うさぎやの店先の奴凧を予約した真三郎は、初天神までに戻ると告げた父と、その凧を上げるのを楽しみに待っていた。
 偏屈なうさぎや徳兵衛と、父を待つ真三郎の心温まる触れ合い。

第二話 鬼退治
 女郎や辰巳芸者が扮装して町内を練り歩く「お化け」で、近江屋弥五郎を蔑んだ仲見世岡田屋の花魁おいくがやって来て…。
 桃太郎に扮したおいくを、弥五郎の女房のおりょうが一矢報いる。

第三話 桃明かり
 うさぎや徳兵衛の娘・おしのは、迷子の女の子を引き取って面倒を見ていた。親が見付かるまでと、割り切ってはいたが…。

第四話 菜種梅雨
 うお活の時次は、野島屋の女中頭・あおいの中を邪推し、あらぬ噂をばら撒いた鴇兵に殴り掛かるも、敢えなく返り討ちにあい。
  
第五話 菖蒲湯
 塀吉が川にはまった。だが、作治は金槌のために川に入る事が出来ず…飛び込んだのは徳兵衛だったが、こちらも老齢のため目の前で溺れていく。

第六話 鬼灯
 父親が後添えを貰った事に反発し、小料理ひさごを構えたおまき、おさちの元に、在所から父親が病いで床に着いたと知らせと共に、義母からの文が届く。
  
第七話 天の川
 ゑり元では、2人の娘が七夕の短冊に、あれこれ願いを書き込んでいた。産み月を控えたこのみも同様。

第八話 祭半纏
 祭り好きが高じて深川にやって来たほどの松乃井清五郎。神輿担ぎに出掛けたのだが、出過ぎた言動が担ぎ手たちの怒りを買う事に…。

第九話 十三夜
 13年前、深川には堀田屋、佐塚屋2軒の籠屋があったのだが、客の足下を見た商い振りに業を煮やした分限者・木柾仁左衛門が…。駕籠屋つるやが暖簾を掲げるまでの物語。

第十話 もみじ時雨
 むかでや藤三郎とおみねは、人知れぬ悩みを抱えていた。嫁して18年、齢37になり、子宝に恵まれたのだ。

第十一話 牡丹餅
 偏屈で知られる村上屋佐次郎は、未だ温かいと通例よりもひと月遅れで炬燵を入れると決めた。だが、朝晩の冷えには閉口しながらも、痩せ我慢を続け、その日を迎えた。

第十二話 餅搗き
 野島屋とうお活による盛大な餅搗きが催された。徳兵衛の娘・おしのも朝太を連れて参加していた。
 新年に向け、誰もが心浮き立つ市井の暮らしぶり。

番外編 凧揚げ
 まねき通りのほのぼのとした新年模様。

 悪人もいなければ、事件もない。どこの町でもありうるささやかな暮らしを描いている。だが、平穏な中にも家族の葛藤や、人付き合いの難しさなど、誰もが、「そうそう、こんな人いるなぁ」。「こういう事もあったなぁ」と、思い当たる日常を、江戸の風物詩に併せて描く人間ドラマ。ほっとする穏やかな作品である。
 いきなり、「第一話 初天神」のラストには目頭が熱くなった。そんな鼻の奥がつんとする話である。

主要登場人物
冬木町まねき通りの人々
 駄菓子屋うさぎや
  徳兵衛...当主
  おきん...内儀
  おしの...長女、海辺大工町の通い大工・仙造の女房
  仙造...おしのの亭主、海辺大工町の通い大工
  朝太...おしの・仙造の長男
 一膳飯・煮売屋おかめ
  おさき...女将、煮物方
  おみつ...長女、揚げ物方
 駕籠屋つるや
  利助...当主
  ますみ...内儀
  辰丙...駕籠かき頭
  善太、矢ノ助...駕籠かき 
 搗き米屋野島屋
  昭助...五代目当主
  あおい...女中頭
  杖四郎...番頭
 瀬戸物屋せとや
  徳右衛門...隠居
 乾物屋小島屋
  昌三郎...当主
  鶴松...手代
  丁稚...完吉
 小料理屋ひさご
  おまき...姉、料理・燗番
  おさち...妹、下拵え
 鮮魚・青物屋うお活
  活太郎...当主
  時次...若い衆
  鴇兵、伝三郎、伸吉...若い衆
 豆腐屋近江屋
  弥五郎...当主
  おりょう...内儀
  泰吉...長男
 履き物屋むかでや
  藤三郎...当主 
  おみね...内儀 
 太物屋ゑり元
  大三郎...当主
  このみ...内儀
  しおり...長女
  かのこ...二女
 雨具屋村上屋
  佐次郎...当主
  かね...内儀
  ひより...長女、晴次郎の女房
  晴次郎...傘張り職人
  てるみ...晴次郎・ひよりの長女
  定吉...丁稚
 うなぎ屋松乃井
  清五郎...当主
  まつの...内儀
深川の人々
 材木商木柾
  仁左衛門...当主
  利兵衛...頭取番頭
  作治...奉公人
  新太...作治の長男
 湯屋冬木湯
  塀吉...釜焚き
 鳶・町火消し
  雅五郎...親方
  健太郎、達次、昇太郎、金太郎...若い衆 




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牡丹酒~深川黄表紙掛取り帖(二)~

2012年10月08日 | 山本一力
 2006年9月発行

 世の中の厄介事を、よろず引き受けるの裏稼業。ただし、だんびら振り回すような野暮ではない。智恵を使っての大掛かりな仕掛けで、世間をアッと言わせる、異色の時代小説第2弾。

ひねりもち
ながいきの、ます
酒盗
酒甫手(さかぼて)
仏手柑(ぶしゅかん)
黄赤の珊瑚(きあかのさんご)
油照り
六ツ参り
痩せ我慢
土佐掘の返し
土佐の酒、江戸へ
大輪の牡丹
もみじ酒
終章 長編

 父親の雄之助が、土佐から持ち帰った、辛口の酒と鰹の塩辛を、早々味見をした蔵秀は、雄之助の意向を組み、紀伊国屋文左衛門を通して幕府老中の柳沢吉保に取り次ぎを願い出るのだった。
 紀伊国屋文左衛門の後ろ盾で、土佐藩の命を受け、土佐から江戸までの運搬や、宣伝を考える蔵秀たち四人。
 はるばる土佐へと脚を運び、土佐、大坂、江戸を股に掛けた大仕掛けを…。

 物語は章を分け、江戸、土佐、大坂や宿場町での様子などを、同時進行で綴っていくが、それに関する混乱はない。むしろ、土佐での物語は、生き生きとした様が感じられ、土佐の章に入るのが楽しみであった。
 後で知ったのだが、筆者は高知県出身。郷土愛が感じられる。
 氏の作品はストーリを重視しているせいか、人物の気持ちや風貌などの描写が薄いのだが、何故か、土佐での出来事に関しては、ほのぼのとした風情が浮かんでくる。
 ここに登場する土佐佐川村の旅籠大正屋の子である金太と、宗佑の件(くだり)はサイド・ストーリではあるが、むしろ本筋よりも別れのシーンなどは感動ものであった。
 また、同作品では、宗佑を軸に飾り行灯造りや人物に頁をかなり割いており、宗佑がメインとも受け取れる。反面、辰二郎の存在感が薄かったのと、一見にも関わらず、誰もが皆、雅乃を好評価の理由も希薄に感じられた。申し越しエピソードがあれば分かり易いのだが。
 終章では、発展的展望の青空が広がるような結びで筆を置いている。
 続編が描かれる事はないだろうと、判断したが、こちらの無知故で、続編があったら申し訳ありません。
 仮に続編が描かれるとなった時には、4人の関係はどうなっていくのか。また、新たな登場人物は…。
 
主要登場人物(レギュラー)
 蔵秀...深川二十間川沿いの定斎屋(担ぎ売り)
 
 雅乃...絵師、尾張町小間物卸問屋嶋屋の娘
 
 辰二郎...絵草子作家志望、富岡八幡宮前の印形屋天章の二男
 
 宗佑...飾り行灯師
 雄之助...蔵秀の父親、山師(木材の買付師)
 
 おひで...蔵秀の母親、三味線の師匠
 猪之吉...深川平野町の渡世人、雄之助の朋友
 嶋屋順三郎...雅乃の父
 紀伊国屋文左衛門...八丁堀の材木問屋の主
 隆之助...紀伊国屋の番頭
 柳沢出羽守吉保...幕府老中(格)、武蔵国川越藩主
 大田屋精六...芝油問屋の主
 大田屋由之助...精六の総領息子

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深川黄表紙掛取り帖

2012年10月05日 | 山本一力
 2002年11月発行

 世の中の厄介事を、よろず引き受けるの裏稼業。ただし、だんびら振り回すような野暮ではない。智恵を使っての大掛かりな仕掛けで、世間をアッと言わせる、異色の時代小説。

端午のとうふ
水晴れの渡し
夏負けの大尽
あとの祭り 
そして、さくら湯 計5編の中編集

端午のとうふ
 日本橋本通りの穀物問屋丹後屋弥左衛門から、大豆五十俵のところ、を五百俵の仕入をしてしまい、始末に困惑していると持ち掛けられた蔵秀。
 雅乃、辰二郎、宗佑と、大豆に金銀の仏像を混ぜた福袋で売り出す事を考え付くが…思わぬ落とし穴が。

水晴れの渡し
 佐賀町の小豆仲買商爪田屋鹿助から、番頭の靖兵衛らに株を寄こして隠居せよと迫られていると、相談を受けた蔵秀。
 一方、雅乃には、芝の油問屋大田屋由之助との見合いが持ち上がった。
 双方とも理に合わない話であると共に、爪田屋の一件には、大田屋が絡んでいると知った蔵秀らは…。
 
夏負けの大尽
 蔵秀の父・雄之助に、紀伊国屋文左衛門から、檜の材木を買い取って欲しいとの依頼があった。しかも支払いは為替手形ではなく小判にして欲しいとの条件も。解せない行為に、蔵秀らは大掛かりな神輿で紀文の鼻を開かす。

あとの祭り
 大田屋由之助が船大工棟梁・六之助を伴い、佐賀町の船宿の主である善右衛門を訪ない、百人乗りの船3艘の造船の申し出があった。数年後には不要になるのは必須。六之助が巻き込まれる事に危惧を抱く善右衛門は、蔵秀に相談を持ち掛ける。

そして、さくら湯
 二十間川近くの、紀ノ国屋の寮に老中の柳沢吉保がお忍びで訪った。四方山話の中、紀ノ国屋が、蔵秀たちの
丹後屋、太田屋の一件を話すと、吉保は、是非とも蔵秀たち4人に会いたい旨を告げる。

 正直最初は、物語を頭に入れるのに何度もページを前に戻りつ繰り返した。これは完全にこちらの読解不足なのだろうが、登場人物が頭に入って来ない。
 宇江佐さん作品であれば、一度文字をなぞるだけで、情景や人物の姿が脳裏に浮かび上がるのだ。
 思うに、山本氏の手法なのだが、身長や年齢、身繕いに関しては描かれているが、人物の顔かたちが中盤以降まで持ち越される事が多く、時には触れていない。
 イメージが沸き難いといった、我が想像力の乏しさだろう。
 物語のストーリはさすがであるのだが、少し難解でもあり、人物の魅力を感じなかった。無論分かる人には分かっているのだろう。

主要登場人物(レギュラー)
 蔵秀...深川二十間川沿いの定斎屋(担ぎ売り)
 
 雅乃...絵師、尾張町小間物卸問屋嶋屋の娘
 
 辰二郎...絵草子作家志望、富岡八幡宮前の印形屋天章の二男
 
 宗佑...飾り行灯師
 雄之助...蔵秀の父親、山師(木材の買付師)
 
 おひで...蔵秀の母親、三味線の師匠
 猪之吉...深川平野町の渡世人、雄之助の朋友
 嶋屋順三郎...雅乃の父
 紀伊国屋文左衛門...八丁堀の材木問屋の主
 隆之助...紀伊国屋の番頭
 柳沢出羽守吉保...幕府老中(格)、武蔵国川越藩主
 大田屋精六...芝油問屋の主
 大田屋由之助...精六の総領息子



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だいこん

2012年06月25日 | 山本一力
 2008年1月発行

 父の安治が博打で借金を作り、つばきの一家は、借金を取り立てに来る渡世人に怯えながら、かつかつの生活を続けていた。
 だが、つばきが9歳の時、大火事が起こり、運命が転がり始める。
 安治の借金は帳消しになり、つばきは飯炊きの巧さをを買われ、自身番で火の見番たちの賄いの仕事を貰う。
 つばきは、大人になったら飯屋を開業する事を誓うのだった。
 17歳になったつばきは、賄いの給金を貯めた金で一膳飯屋「だいこん」を始め、商才を発揮し始める。
 主人公のつばきが、女でひとつで逞しく生きるサクセスストーリー。つばきの才知が光る。

主要登場人物
 つばき...深川木場一膳飯屋だいこんの女将
 安治...つばきの父親
 みのぶ...つばきの母親
 豊国屋木左衛門...江戸を仕切る渡世人の元締め
 閻魔堂の弐蔵(伸助)...深川渡世人の顔役


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欅しぐれ

2012年06月24日 | 山本一力
 2004年4月発行
 
 渡世人と大店の主。住む世界が違いすぎる二人に芽生えた、奇妙な友情は次第に揺るぎない信頼関係へと発展する。

欅しぐれ 長編

 桔梗屋太兵衛は、柴山光斎筆道稽古場でいきなり咳き込み筆を手にしたまま、突っ伏してしまった。その筆は、隣の男の半紙を汚してしまう。その男は、八尺を超える大男で禿頭。根縦縞の袷を、襦袢なしの素肌に着ており、見るからに渡世人であった。
 稽古の帰り、太兵衛は、男を酒に誘い、ひとの目利きにはそれなりの覚えがある太兵衛は、霊厳寺の猪之吉との親交を深めていく。
 猪之吉の賭場で、桔梗屋を巻き込んだ為替切手が使われた。桔梗屋に仕掛けてきた一味に、猪之吉は立ち向かう決意を固めるが、桔梗屋の後見を猪之吉に一任すると遺言を残し太兵衛が他界する。
 商人と渡世人の男気が炸裂の長編である。男性だから描ける男気を見事に表現し切っている。これが、松平健あたりの主演で映像化されたらたまらないだろうと読み進めた(映像化されていたら申し訳ない)。かなりの読み応えであった。
 状況描写は、素晴らしいが、やはり情景描写は女流作家の方が優れている感は否めない。ただし、山本さんの作品の目指す所はそれではないが。
 また、これだけ高名な山本一力さんの作品を初めて読んで、一番に感じたのは、山本さんは登場人物の身長にかなり拘りを持っているらしいということ。

主要登場人物
 
 猪之吉... 霊厳寺近隣を仕切る渡世人の大親分
 与三郎...猪之吉の手下、代貸
 安之助...猪之吉の手下、代貸格
 すがめの八郎...猪之吉の手下、探り屋
 太兵衛...履物問屋桔梗屋の主
 しず...太兵衛の妻
 
 誠之助...桔梗屋の頭取番頭
 
 雄二郎...桔梗屋の二番番頭
 
 正三郎...桔梗屋の三番番頭
 
 玄祥...浚い屋
 庄之助...鼈甲問屋柳屋の主
 
 咲哉...芸者
 柴山光斎...筆道稽古場の師匠
 
 善助...読売屋
 
 大野白秋...絵師
 
 岡添玄沢...町医者
 新兵衛...桔梗屋の縁者村越屋
 
 河五右衛門...桔梗屋の縁者野屋野屋
 治作...紙屑屋
 鉦左衛門...油問屋鎌倉屋の主
 信三...乾物問屋の三男
 



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