うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

とるとだす

2017年08月03日 | 畠中恵
 2017年7月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第16弾。

とるとだす
しんのいみ 
ばけねこつき
長崎屋の主が死んだ
ふろうふし 計5編の短編連作

とるとだす
 上野広徳寺にて行われた、薬種屋の集まりで、長崎屋の主・藤兵衛が昏睡状態に陥った。
 見ていた者の話では、何やら薬を飲んだと言う。一太郎と妖たちは、「長崎屋の一大事」に、立ち上がる。
 そこには藤兵衛の、果てしない親心があった。

しんのいみ
 病いに伏せる父・藤兵衛の枕を反転させた、枕返しを探す一太郎は、突如として江戸に現れた、蜃気楼に迷い込んでしまった。
 そこに長く居ると、次第に記憶が失せ、何もかも忘れてしまうと言う。
 一太郎も、鳴家の名を忘れるなどの記憶障害が起こり始めていた。一刻も早く、枕返しを見付けて江戸へと戻らなくては…。

ばけねこつき
 染物屋・小東屋の主が、娘のお糸を伴い、一太郎の元を訪なった。小東屋は唐突に、一太郎とお糸の縁組話を切り出す。何でもお糸には星降るが如く縁組があったが、二度立て続けに断られ、その理由が、「お糸に化け猫が付いている」からだと言う。
 お糸の嫁入り道具は、長崎屋藤兵衛の病いに効く薬だと、一太郎に取引を持ち掛ける始末。
 秘密裏に行われた話し合いにも関わらず、瞬く間に読売に書き立てられるなど、どうにも剣呑な話となっていくのだ。
 一太郎は、その真相を探るべく、動き出す。

長崎屋の主が死んだ
 長崎屋の離れに、妖・狂骨が現れた。噂に寄れば祟られて幾人かの死人も出ている。
 今度は、病いに付せる父・藤兵衛に災いをもたらすのではと考えた一太郎は、妖退治で名を馳せる、上野寛永寺の寿真を訪なうも、時を同じくして寛永寺、そして寛朝の居る上野広徳寺でも僧侶の女犯問題が起きていることを知る。
 狂骨の正体を突き止めるため、寛朝の下へと向かった一太郎たちは、安時という僧侶の悲恋話を知る。

ふろうふし
 病いに付せる父・藤兵衛のために、解毒薬を手に入れようと、常世の国に住う、少彦名を訪ねることにした一太郎。
 だが、かの地には、永久の命をもたらすとされる「非時香菓」も生っていることから、剣呑な侍たちに追われることになってしまう。
 果たして無事に常世の国に辿り着けるのか。少彦名に会うことはできるのか? 藤兵衛のための薬は…。一太郎の冒険と戦いが始まった。

 シリーズも16作ともなると、良く題材を考え付くものだと、作家の才に頭が下がる思いである。
 一時、蚊帳の外感のあった一太郎だが、やはり主役の座に座っていないと、「しゃばけ」シリーズとしては物足りず、今作では、その活躍が牽引している。

主要登場人物
 長崎屋一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親 
 長崎屋藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 屏風のぞき...付喪神
 鳴家(小鬼)...妖
 鈴彦姫...付喪神
 金次...貧乏神
 おしろ...猫又
 守狐...長崎屋の稲荷に住まう化け狐
 野寺坊...獺の妖
 寛朝...上野広徳寺の僧侶
 寿真...東叡山寛永寺の僧侶
 秋英...上野広徳寺の僧侶、寛朝の弟子
 黒羽坊...元小田原の天狗、寿真の弟子
 本島亭場久...貘の妖、噺家
 喜見...蜃気楼・蛟竜
 坂左...枕返し
 大黒天...財福の神(七福神)
 小彦名...薬租神
 金時...(坂田金時/金太郎) 神仙
 島子...(浦 島子/浦島太郎) 神仙


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